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第3話 死を嘆き、死を嗤う

 エゼリア大陸の中心に位置する大都市「クアバリオ」。その郊外に佇む無数の墓石の前で聖女は膝を折り、手に持った花束をそっと手向ける。


 ――アトス・シルドラッド 享年十五歳。ダンジョン「ニブルヘイム」にて、その魂は永遠の眠りに。


「…………アトスさん……」


 エイシアの目からぽつ、ぽつと涙が落ちる。金よりも輝かしいと言われる絶世の美貌には似つかわしくない程に暗い影が落ち、表情も悲哀で塗りつぶされる。


 今から三年前、攻略不可能と言われたS級ダンジョン「ニブルヘイム」にとあるパーティが攻略を試みた。


 若くしてギルドで一二を争う実力を持ち、将来有望と期待される程だったそのパーティは見事誰も到達したことのない最下層までその歩みを進めた。


 だが、結果は失敗。ボスモンスターを直前にして多数のモンスターに阻まれ、攻略を断念、撤退した。その際、前衛の剣士一人が殿を務めて消息不明……後に死亡したとギルドは報告を受けたという。

 

「もう、三年になるのね……」


 隣ではリプレが両腕を組み、墓石に刻まれた文字を淡々と見つめている。普段は荒々しく燃える瞳も、今この瞬間だけは後悔に満ちた波がその炎をかき消していた。

 

「……アトス、はい……これ……」


 ミディが抱えていた一升瓶を花束の隣に置く。


「アトス、これ飲んでみたいって言ってたよね……帰ったら、みんなで飲もう……って……」


「……そうね、懐かしいわ。アトス、帰ってこないなら先に私たちで飲んじゃうわよ……。なんて、言ったら怒るでしょうね、あいつ」


「ふふ、そうですね……。きっと、拗ねちゃいますね」


「……なら、また会える時までちゃんと我慢しとかないと……だね」


 楽しくも悲しげな笑い声が墓前に広がり、三人は同じ思いを胸に抱く。


 ――アトス(さん)に会いたい……。


 少女たちの淡く切な想い。それらは各々が予想だにしない形で実を結ぶことになるのだが、当の本人たちには知る由もなく、ただ目の前の現実に悲嘆するのみであった。


   * * *


 エイシアたち三人が墓参りをする頃、一人酒場でジョッキを積み上げる男がいた。


「――おっ!? 何だウーフェ、今日も美人引き連れてハーレムかぁ?」


 顔見知りの冒険者たちがカウンターに座るウーフェへと声をかける。


「誘ったけど、アイツら酒は飲まねぇんだとさ。それよりどうだ、お前らもこっちで一杯やるか?」


 ウーフェは口角をほんの少し上げて手に持ったジョッキを冒険者たちに向ける。


「バカ、お前に酌されたって何も嬉しくねぇよ。エイシアちゃん呼んでから出直せ」


「なに? お前エイシア狙いなの?」


「なんだよ、逆にそれ以外選択肢あるか? あんな可愛くて清楚で優しい子、世界中の何処探してもいねぇだろ。オマケに回復魔法は超一流、傷が多いこの仕事をやるパートナーとして文句ねぇだろ。あと胸がデカい」


「お前そればっかだな……。俺ならリプレを選ぶぜ。身体つきはしなやかかつガッチリしてるし、あのキツい言動が弛みがちな俺の心に鞭を打ってくれるっていうか……こう、すごく健康にいいんだよ」


「マゾなだけってくせに、物は言いようだよな……。それにしてもお前ら見る目ねぇよ。男ならミディたそ一択だろどう考えても。あんな小さい体から放たれる馬鹿みてぇな高火力魔法、ロマンの塊じゃねぇか」


「いや、ミディの奴に手を出すのは犯罪だろ……あんなちんちくりん」


「道を踏み外す前にどっかで矯正しとけよ」


「うるせ! 余計なお世話だ!」


 そうして一頻り笑いが起こった後、冒険者の一人が酔いの回った顔でニヤリと笑った。


「それにしても……上手くやったよなウーフェ」


「……何のことだ?」


「アトスのことだよ。ダンジョンに()()()()にしてから今日で三年だろ? よくもまぁ、バレずに隠し通せるもんだよな」


 その言葉を聞いてウーフェは酒を喉に流し込み、酔った勢いで空のジョッキを机に叩きつける。

 

「何言ってるんだよ。何度も説明したよな? あの日俺たちはニブルヘイムの最下層でモンスターの群れに襲われ、俺が逃げる隙を作ろうと投げたモンスターの誘引剤が()()()()アトスの足元に落ちちまった。だからあれは、仕方のない事故だったのさ」

 

「よく言うぜ! ホントに偶然なら、そのおめでたい面は何だよ! あっははははは!」


 爆笑する冒険者たち。ウーフェは空になったジョッキを再度手に取って顔を近づける。そこには今日という一年で最も愉快な日を愉しみ尽くした真っ赤な顔が映っていた。


 つられて大笑いするウーフェは机一杯に並べられたジョッキなんてまるで気にする様子もなく、上機嫌に次の一杯に手をつける。


「そもそも俺は、最初からあいつのことを目障りだと思ってたんだよ。剣を振るしか能のない馬鹿のくせにしょっちゅう俺より目立ちやがって、パーティの女共もアイツばっかり持ち上げやがる……」


 酒が回ったせいか、ジョッキを持つ手がぶるぶると震え始める。


「ま、確かにあいつ剣の腕だけは確かだったからな。割と度胸もあったし」


「一人でA級以上のダンジョン踏破したのって、あいつ含めても数人しかいないんだろ? 普通に化け物だが、まぁこっちとしてはこうして依頼を喰い合うライバルを減らしてくれたのは大助かりだよ。ありがとな、ウーフェ」

 

「あぁ……正直、ニブルヘイムで始末するつもりはなかったが、ま、こればっかりはお天道様が俺に機会をくれたってことだろうな。おかげさまでこちとら顔も実力も揃った女共と仲良く冒険者続けられてるぜ。もし生きてたら泣いてお礼を言いたいくらいだよ。ま、もうとっくに死んでるだろうがな! あっははははは!」




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