第24話 まんまとやられ、騎士は噛む
時を同じくして――魔王と呼ばれる規格外のモンスターと超一流パーティの攻防を見届けていた冒険者たちは突如現れた謎の霧により、混乱の渦中へと落とされていた。
「うわっ! 何だこれ……!」
「身体が……痺れ…………!」
霧に包まれた冒険者の内、咄嗟に魔法で身を守った三人以外はその場で膝を折って動けなくなる。
「くそっ……! 魔王の野郎……まだこんな隠し玉を持ってやがったのか……!」
「今攻撃されでもしたら……くそっ! 動けッ……!」
男たちの健闘虚しく、体はますます霧によって蝕まれる。そんな中、辛うじて動く彼らの目は今、この場で魔王に唯一対抗出来る三人へと注がれる。
――今の声は……!
――アトス……そっちね!
――先は、越させない……!
「た、頼むぞ……オルドル……! お前らが頼りだ……!」
そうして暗闇の中、怯むことなく魔王に向かっていく三人の少女に希望を託す冒険者たち。徐々に霧が晴れるにつれ、恐怖は緊張へと変わっていく。
「い、一体……どうなったんだ……?」
霧が晴れ、いよいよ勝負の行方が明らかになる。溜まっていた唾が音を立てて胃の中に落ちていく。
「――お、おい! あれ見ろ! オルドルの三人だ!」
冒険者の一人が声高らかに指差す先では聖女含めた三人の少女がその場に立ち、魔王とその配下は完全にその姿を消していた。
――幸い逃げた方向は分かるんだし、今ならまだ間に合うかも……!
――まだ、そう遠くへは行っていないはず…………。
――………………ふふっ……。
そんな事を口にして少女たちは一人、また一人と街の外へと向かっていった。
「…………お」
――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「逃げた……ってことはオルドルの奴ら、あの化け物を撃退したってことか!? すごすぎるだろ!」
「流石は聖女様御一行だぜ! しかも全く怯む素振りも見せず、魔王を追っかけていくとは……ビビッてた俺らが恥ずかしくなってくるぜ……」
「聖女様が持ってた外套って、魔王が付けてた奴だろ? なら、魔王に一矢報いたのは確かだろうな。俺たちも見習わないと――」
「――おい、お前ら…………!」
冒険者たちが各々オルドルの活躍に盛り上がる中、空気を冷ますような一言がその場に響く。
「そんなところで駄弁ってないで、こっちに来て助けろ……!」
冒険者の一人が草むらに近づき、声のする辺りに手を入れると傷と土汚れだらけのボロ雑巾と化した男が姿を現した。
「……お前、確かオルドルのリーダー…………だよな? こんなところで何やってるんだ……?」
「見たら分かるだろ! 手足縛られて、自由に動けねぇんだよ……! いいから、早く助けろ……!」
「……ってもよ、もう少し頼み方ってもんがあるんじゃねぇか?」
「何ィッ!?」
騒ぎを聞きつけた冒険者たちが次々と集まり始め、口々に言葉を投げつける。
「俺たちは確かにオルドルに助けられたけどよ……お前、何かしてたのか? 聖女様に援護してもらってたのに、俺たちと一緒で全く歯が立ってなかったじゃねぇか」
「そうそう。何なら俺たち以下の可能性だってあるのに、その傲慢な態度は何だよ」
「こいつあれじゃね? ほら、こないだ酒場で『俺は全てを手に入れたんだよぉ!』とか言って俺たちを見下してきた奴」
「あぁ、あいつか! その節はどうも世話になったな……。んで、何だったっけ? もう一回言ってくれねぇか?」
「……くそッ……! こいつらクズの分際でいい気になりやがって……!」
「おうおう! この状況でそこまでの口が叩けるなら、確かにお前さんは大物かもな! ……んで、どうするよ? 解いてやってもいいが、今俺たちは魔王様にやられて消耗しきってるんだよ。天下のオルドルのリーダー様なら、こんなクズにもきっと優しくしてくれるよな?」
そう言って冒険者はウーフェの手持ちを弄り、金貨の入った袋を取り出す。
「縄を解く手間賃だ。今日はこれくらいで勘弁しといてやるが、これからは聖女様でも見習って少しは分相応の態度を取るこったな。よし、お前ら! 飲みに行くぞ!」
そうしてウーフェの縄を解いた冒険者たちは繁華街へと消えていく。
「てめぇら! 待ちやがれ――ッ!」
追いかけようとするウーフェだが、魔王にやられた体は痛みで鉛のように重く、一歩足を前に出しては膝をつくので精一杯だった。
「くそが……! どいつもこいつも舐めやがって…………!」
ウーフェは呻き声を漏らしながら悔しさに唇を噛んだ。血の味が、敗北を証するように広がっていく。
「あの――」
憤怒するウーフェの元に、今度は白を基調とした制服に身を包む女性が姿を現した。
「――パーティ『オルドル』の方ですね。ギルドマスターがお呼びです。至急、ギルド本部までお越しください」
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