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第22話 今のは不慮の事故! ノーカン!

「――閃脚連迅(せんきゃくれんじん)『乱』!」


 包囲されたのも束の間、目にも留まらぬ連続蹴りを繰り出された俺は体を軽くした状態で一撃受け止める。


 貰った衝撃でそのまま後ろに下がって構える猶予を作り、反射で動く体に合わせて剣を振りかざした。


「おぉらぁっ!!!」


 捻りを加えて威力の増した剣撃が逆に蹴りの動作に入ったリプレを捉える。


「――ッ!」


 リプレは蹴りを中断するのではなくあえて速度を上げることにより、こちらの振り下ろしよりも先に足先で剣を蹴り、その反動で後ろに下がってみせた。


「――晄の鎖(アクサルム・ルミア)!」


 リプレが下がると同時に今度はエイシアが動く。地面から伸びる光鎖が上下左右、全方位からこちらに襲い掛かる。


「――まだだぁ!!!」


 攻撃は躱されたが、威力は決して死んでいない。めり込んだ大剣に全力を込め、地面を掘り返しながら飛び上がり、縦の回転を活かしてそのまま一気に光鎖を叩き斬る。


 ――パキィン!


 光鎖が砕けて無数の光の結晶と化す中、着地と同時に剣を横に構えて前へ飛び出し、ガードの姿勢のままリプレに体をぶつける。


「ぐうっ…………!」


 いくら脚に磨きがかかっていても、不安定な体勢からでは高威力の技は出せない。密着してる以上、エイシアも的が絞れないだろう。


 これで少しは状況の整理が出来る。俺は周囲を見渡し、今この瞬間を頭に叩き込んだ。


『俺が相手してるのはエイシアとリプレの二人……。エイシアはさっきから鎖での拘束を狙っているのか、攻撃の頻度は少ない。その分リプレの攻めっ気が強くて一直線に俺の方へ向かってくる……。逃げ出すなら、まずこの二人をどうにかしないと……』


 思考の傍ら、リプレが逃げ出さないように体重をかけて動きを制限しつつ、俺とエイシアの間にリプレを挟むことで鎖による攻撃を妨害する。


『ヘルの方は…………』


 横目で向こうの戦闘状況を見るに、どうやらミディとの一騎打ちをしているらしい。


 ミディの放つ魔法はヘルの能力で無効化出来ているが、次から次へと出てくる魔法の数々にヘルも防戦一方といった感じだ。


 状況的には互角。一人でも加勢すれば勢力図が一気に傾くといった状態だが、彼女たちの争いに混ざる実力や気概を持った冒険者などここにはいない。ウーフェもリプレにもらった一撃ですっかり足が沈んでいた。


「……よそ見なんて、いい度胸じゃない……! アトス……ッ!」


 歯を食いしばってこちらを睨むリプレ。その力は徐々に増し始め、一方的な抑え込みから互角の競り合いへと変わる。


「……くそっ、前ならこれやるだけで大分楽に戦えてたんだけど……ッ!」


 予想以上の力を見せつけられ、冷や汗が流れると共に自然と口角が上がる。


「腕を上げたな、リプレ……! お前との勝負は、やっぱりこうでなくっちゃ……!」


 毎日のように二人でこうして力比べしていたことを思い出し、ふと懐かしさから言葉が零れた。その一言に、リプレの動きがピタリと止まる。


「なっ……!? な、なによ急にそんなこと言って……! 冒険者なんだから、そんなの当たり前でしょ……! べ、別にアンタに褒められたいから強くなったとか、そんなこと……!」


 強まる声音とは裏腹に、リプレの手足に込められていた力がふと緩む。


「バカッ! 急に力抜くな――ッ!」


 保たれていた均衡は崩れ、大剣を滑らせた俺は倒れそうになる身体で咄嗟にリプレの肩を掴んでしまった。


「えっ――! きゃあっ!!?」


 一気に男一人分の体重が乗っかり、雪崩の如くバランスを崩すリプレ。そのまま二人して地面に倒れ込むと、ドサッという音と共にほんのり硬い感触が体に伝わってくる。


「いってて…………リプレ、大丈夫か? どこかぶつけて――」


 声をかけようとした瞬間、どういう訳か手をついている地面がもぞもぞと動き始めた。地盤が緩んでいるのだろうか、妙に柔らかい感触が掌越しに伝わってくる。


「~~~~~~っ!!」


 続けて声とは言えない甲高い鳴き声のようなものが真下から聞こえてくる。下に目を向けると、耳まで真っ赤になったリプレがその場で金縛りにあったかのように固まり、口をパクパクさせていた。


 原因はすぐに分かった。顔の隣数センチ先の地面に置かれる俺の右手――そして、彼女の胸を致命的(クリティカル)に押さえる俺の左手だ。


「わ、悪いリプレ! だ、大丈夫か…………?」


 恐る恐る尋ねるが、向こうはまだ状況を呑み込めていないのかまともな返答が出てこない。


 こちらも半ばパニックでどうすればいいのか分からず、静観したままリプレの真っ赤な顔に元の肌色が戻るのを待っていると――。


 ――ゴンッ!


「いてぇ!!!」


 リプレの額が俺の額に勢いよくぶつかる。完全な頭突きだった。


「――何するのよッ! このバカッ!」


 頭突きをした本人はこちらが悶絶している隙に距離を取り、胸を庇ってこれまでで一番鋭い目つきで俺を睨みつける。


「バカって……お前が急に力抜いたからじゃ……」


「うるさいッ、バカ! こんなの……反則でしょ…………!」


 感情豊かに怒声を上げるリプレ。その姿には何処か三年前の面影が――。


 ――ギュムッ!

 

 「いてててててッ!!?」


 急なチクチクとした痛みに振り返ると、そこには戦闘中であるはずのヘルが膨れっ面をして俺の脇腹を抓っていた。


「確かに今のは反則かもしれませんね。罰則(ペナルティ)はどうします? 指一本にしておきますか?」


「待て! 今のは不慮の事故だ! ノーカン!」




「「「じぃ~っ…………」」」




 ヘル、エイシア、ミディの三人が俺に向かって「本当か?」と言いたげな視線を突き刺してくる。


「本当だって! 決してやましい気持ちがあった訳じゃ――!」




「「「じぃ~っ…………」」」




 どれだけ弁明しようとも、俺への疑惑の目が晴れる様子はない。


『マズい……早くここから抜け出さないと……! (いろんな意味で)取り返しのつかないことになる……!』


 そうして俺は本格的にこの包囲網から抜け出す術を考え始めた。




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