第21話 逃がさない
「お、おい!? 何やってるんだお前ら!」
やはりこの事態は向こうも予想していなかったらしい。先程まで上機嫌だったウーフェが狼狽しながら彼女たちの間に割って入る。
「狙いはアトスだぞ!? じゃれ合ってないで、とっとと始末――ッ!」
「――うるっさいわね! 邪魔よ!」
「ぼげはぁっ!!?」
安易に近づいたせいか、至近距離で下腹部に蹴りを貰ったウーフェ。膝を振るわせ、その場に蹲る。
「あいつの強さは私が証明するの……! 私一人で、あいつに勝って……!」
「――話、聞いてた……? アトスは、私と一緒……! 引っ込んでて…………!」
右手と左手でそれぞれ火球と氷塊を生み出し、リプレに迫るミディ。150センチ少々の身体から出ているとは思えない程の圧を、遠く離れたこの位置でも肌が感じ取る。
「あんたの出る幕はないわ! あいつは、私に任せていればいいの……!」
「――そういう訳にはいきません……! そうして皆してアトスさんに群がって、幸せな思いをして…………! 私が、どれだけ我慢してきたかも知らないで……!」
エイシアが強化魔法によって生じる魔力の揺らぎを見せつけ、光の鎖を泳がせながら二人の言い争いに割って入る。
「譲りません……! 今度こそ、私が特別になるんです……!」
「そんなの知らない……! 邪魔するなら――今、ここで……!」
「上等よ……! やってやろうじゃない!」
「――待て!」
いよいよ我慢出来なくなった俺は制止しようとするヘルを振り切り、三人の前に立って心のままに叫んだ。
「エイシア! リプレ! ミディ! どうしたんだよお前ら! 仲間割れなんて、お前たちらしくないだろ!?」
「……アトスさん…………」
「……アトス…………」
「………………」
「何で喧嘩しているのかは知らないが、もし俺のことを思ってのことだったら今すぐに止めろ! お前たちが戦ってるところなんて――俺は見たくない!」
俺の声が届いたのか、争っていた三人の動きが揃って止まる。
「…………そうでした。私たちの狙いはあくまでアトスさん、でした…………」
「こんなことしてても、埒が明かないのは確かね……」
「……なら、やることは明確…………」
三人の目が一ミリたりともズレることなく、真っすぐにこちらを向く。視線の先にいるのは、たったひとりの──標的。
「早いもの勝ち…………それで文句ないわね?」
リプレは拳を鳴らし、獲物を狩る目つきで目配せをする。
「…………うん」
ミディは自身の杖に魔力を凝縮させながら、視線をこちらに傾ける。
「問題ありません……。絶対に、手に入れてみせます…………」
エイシアは自ら光を纏い、陶酔したように微笑む。
「お、お前ら…………?」
「――アトス(さん)…………♪」
――ゾワッ!!!
何故だ……? 理由は分からないが、身体の震えが止まらない。今彼女たち三人の誰かに捕まれば、一生取り返しのつかない事態に陥るような……そんな気がしてならない。
「あ~あ…………、やっぱりこうなりましたか……」
ヘルが「やっちゃった」と言いたげな顔をし、肩を竦めてこちらを見る。
「へ、ヘル! ここは逃げるぞ……! あいつらが本気出す前に――」
「……それなら、もう手遅れみたいですよ?」
「え――?」
一瞬離していた視線を三人に戻した次の瞬間――蹴り、魔法、鎖の三つが束になって襲い掛かってきた。
慌ててヘルの手を引き、その場を走り去る。後ろからは三者三様の狂った感情と呼び声が俺の影を踏もうと追いかけてくる。
「アトスさん、待ってください……!」
「アトス!!!」
「……どこにも、行かせない……」
「いやいやいやいや!? 待て! 待ってほしいのはこっちだって!!!」
必死に走る傍ら、俺は頭を抱える。街に戻って仲間と再開しようと思っただけなのに、まさか指名手配された挙句こんなことになるなんて――。
すぐ後ろでは光速の脚が、祝福された拳が、膨大な魔力が俺を捕らえようと牙をむく。
「……アトスのお仲間、随分と個性的なんですね。見ていて飽きないです」
「面白がって見てる場合か!? 冗談ばっか言ってないで、早く逃げるぞ!」
ヘルの淡々とした言葉にツッコミを返しつつ、俺は迫り来る殺気から必死に距離を取ろうと足を動かす。しかし――。
「「「逃 が さ な い」」」
「――ううぉぁぁぁぁぁ!!?」
咄嗟に声が漏れた。これまでどんなピンチであっても仲間の前に立ち、勇猛果敢に立ち向かおうと努めてきたはずの自分が生まれて初めて覚える――本能的な恐怖だった。
「……どこに行くのですか、アトスさん……」
「……ここで、終わらせてあげるから……」
「……全部、私のもの……」
包囲網を敷かれ、目に異様な光を宿す三人を前にして俺はようやく思い知った。
逃げ場など、最初からなかったことを。
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