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第20話 異様な雰囲気

 ――時はほんの少し遡る。


「くそぉっ!!! エイシア、回復魔法だ! 回復魔法を――!」


 目の前で鼻血を垂れ流して叫ぶウーフェ。だがその声が届くことはなく、エイシアはきょとんとした様子で口を小さく開き、その場で完全に固まっていた。


 どうやら上手く連携が取れていないらしい。このまま勝負を決めてしまおうと近づいたその時――ウーフェが飾り気のない不気味な表情を浮かべ、懐から何かを取り出した。


 光沢のあるそれが一体何なのか。確認するよりも先に圧倒的な強さの光が視界を覆いつくす。


「何だ――ッ!? 眩しっ…………!?」


 それが目眩ましだと気づいた時には既に反射で目を瞑ってしまっていた。すぐに目を開いて防御態勢を取るが、どういう訳か誰も襲ってくる気配がない。この場にいる全員が今の光ですっかり足を止めていた。


「……何だったんだ、今の……?」


「――アトス! 後ろッ!」


 ヘルの叫び声が聞こえ、背後を振り向くと既に蹴りの体勢でリプレが突っ込んできていた。ガードする間もない速度の一撃を肩に受け、踏ん張りを利かせた状態でも数メートル飛ばされる。


「いっ…………てぇっ……!」


 肩にジンジンとした痛みが走る。リプレの表情が先程より苛烈になっているのを見るに、向こうも本気を出してきたのだろうか。実際、彼女の脚からは尋常でない殺気が感じ取れた。

 

「アトスの……偽物……ッ!」


 リプレが唇を噛み、真っ赤な瞳でこちらを睨みつけた。次の瞬間、閃脚が再び輝きを増して迫り来る。


 そんなリプレの様子を見て、少し離れた場所でウーフェが高らかに笑っていた。

 

「ははっ……! はははははっ! いいぞ! そのままアトスを倒せぇッ!!!」


 口元を歪め、まるで壊れた人形を弄ぶ子供のように笑うウーフェ。だが――。


「――晄の鎖(アクサルム・ルミア)……」


 先程と同じく足元の魔法陣から生まれた鎖が輝きを放って飛来する。狙いは当然俺――ではなく、仲間であるはずのリプレだった。


「──ッ!? このッ……! 離しなさいよ……!」


 四肢を絡め取られ、動きを封じられたリプレが苛立ちの声を上げる。


「……そこで大人しく待っていてください」


 エイシアは淡々と無感情な言葉を投げつけ、ウーフェに使っていた強化魔法を自らに纏わせる。


「な……、何が起きてるんだ……? 何でエイシアがリプレを……?」


 動揺する俺の方を向いたエイシアは聖女らしからぬ狂気めいた眼差しでこちらに突進を仕掛ける。まさかエイシア自らが攻撃に参加してくるとは思いもせず、俺はされるがままエイシアに両手を掴まれ、そのまま地面に押し倒された。


「アトスさん……どうか、私に身を任せてください……。あなたは、私の手で救ってみせますから……。そうすれば、私たちは幸せになれるんです……」


「い、意味が分からないんだけど……!? エイシア、一旦落ち着こう……!? 何かこう、さっきから目が虚ろっていうかさ……」


「私のことなんていいんです、どうでも……。アトスさんを救えるなら、それでいいんです……」


「だから、さっきから一体何を言って……?」


「――そうだ! 浄化が終わったら、二人で何処か人のいない場所で静かに暮らしましょう? 私の全てを、アトスさん(あなた)にあげますから……アトスさんの全ても、私にくれますよね……きっと……ふふふっ……」

 

 マズい。明らかに会話が成立していない。振り払おうにも手首をガッチリ掴まれているせいで力が入らないし、このままだと何をされるか――。


「――ジャマ、しないで……」


 混乱の最中、エイシアとリプレのさらに後ろでミディがぼそりと呟く。その指先には禍々しい魔力が集い始め、やがて放たれたのは極大火球魔法である深淵炎葬(アビス・フレア)。しかも通常の魔力量より遥かに多い、彼女が得意とする魔力圧縮(オーバーブースト)で威力を倍以上に高めていた。


「――くッ……!」


 流石に放置は出来なかったのか、エイシアが俺の手を離して正面に聖盾結界(セラ・ディフェリア)を展開。聖盾はミディの魔法を受け止めるが、爆発による高熱までは防ぐことが出来ず、エイシアは衝撃で遠くへと吹き飛ばされる。


「……アトスは、私と一緒にいるの……。ずっと、ずっと、ずっと…………一緒にいるの……」


 今度はミディがかつての記憶とはまるで違うちぐはぐな笑顔で近づいてくる。


「――さっきから、あんたたち……邪魔よッ!」


 鎖で繋がれていたはずのリプレが強引に鎖を引きちぎり、その場で脚を地面に叩きつけた。


 ミディは割れた地面から噴き出す衝撃波を避けるべく、一度距離を取る。俺もこのままでは巻き込まれるのでその場から飛び退き、唯一の安全圏と化したヘルの元へと後退した。


「……あの人たち、前からあんな感じだったんですか?」


「そんなことはない……はずだ。少なくとも、俺が知るあいつらは……」


 仲間だったはずの彼女たちが異様な雰囲気を漂わせたまま戦いあう様に、俺の心はひどく動揺していた。




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