第17話 歯を食いしばれ
引っ提げた大剣が地面を擦って火花を上げる。ウーフェが盾を構え終えるよりも先に懐へ潜り込み、地面を根こそぎ掘り起こす勢いで剣を振り上げる。
――ガコンッ!!!
鉄塊と鉄塊の衝突。ウーフェの不完全な守りはいとも容易く崩れ、衝撃を吸収しきれずに激しく吹き飛ばされた。こちらはすぐに態勢を整え、一段速度を上げて吹き飛ばされるウーフェに追いつき、生じた隙を穿つようにして鎧の上から斬撃を見舞う。
「くそっ!」
目をぎらつかせたウーフェが咄嗟に反撃を繰り出す。先程よりも速度は増しているが、いくら速くたって軌道が分かりきっている以上、却って当たる方が難しい。ギリギリまで引きつけて空振りを誘発し、そこから更に連撃を叩き込む。
「ぐぅっ……! がぁっ…………!」
強化を受けた状態でもやることが防御とも呼べない、ただ盾を俺との間に置くだけのウーフェ。考える間も与えず、今度は溜めた蹴りで鳩尾を貫く。
「なぁ……いくら何でも一方的過ぎやしねぇか……? 相手はあのオルドルのリーダーだろ? 手も足も出てねぇじゃねぇか……」
「強化貰ってあれなら、実力は俺たちと対して変わらないな。これで本当にニブルヘイムから生きて帰ってこれたのか?」
すっかり観戦者と化した冒険者たちが口々に話すのを見て、ウーフェは額に青筋を浮かべる。
「あいつら、何の役にも立たない有象無象の癖して好き勝手言いやがって……!」
「よそ見する暇があったら、一発くらい返してきたらどうだ?」
再び剣を振るい、一撃、また一撃と盾の前で相手を釘づけにしていると、守りに徹していたウーフェの足元が派手にふらついた。
――ここだな……。
攻め込むにはうってつけの好機。俺は柄を強く握りしめ、大剣を担いで一歩踏み込む。
「――はっ! かかったな! 喰らえ、お望みの一発だ!」
次の瞬間、ふらついた様に見える体勢から手首を返し、鋭く突き出されたウーフェの剣が喉元に迫る。
案の定だった。
今にも倒れそうな姿勢。誰の目から見ても明らかな攻め時。わざとらしい呼吸、重心、目線。それら全てがウーフェの「演技」を物語っていた。
狙いはいい。スピードも十分ある。これがもし騙し討ちとして成立していたら脅威になったかもしれないが、生憎こっちは奇襲や不意打ちを嫌という程経験して目が慣れきっている。
俺は小さく刻んでいた踏み込みから一歩引いて身を捻り、綺麗に伸びきった細身の剣をこの目で捉えて上から倍以上の質量を叩きつけた。
――パキィッ!
持ち主の手を離れ、地面に打ちつけられた刃は最後の輝きを散り散りとなった破片に託してその役目を終える。
「う、嘘だろ……! 300万セルトはくだらない業物だぞ! それを一撃で……!?」
ウーフェは目を見開いたまま落ちた剣の柄を握りしめ、呆然と立ち尽くしていた。
「そろそろ眠ってもらうぞ。目が覚めたらたっぷり訳を聞かせてもらうからな」
「お、おい落ち着け! あんなの貰ったら永眠――」
「加減はしてやる。黙って受け取れ――!」
動揺のあまり守りすら捨てたウーフェに向かって振り下ろした大剣だが、その刃は鎧に触れる数センチ手前で弾かれた。
「――聖盾結界」
ウーフェの前に現れた光が煌めく結晶を作り出し、一つの盾となって俺の前に立ちはだかる。
「……ははっ! ははははは! 流石のお前も神の恩寵を受けたエイシアの防御魔法は崩せないか! いいぞ! よくやったエイシア!」
「……確かに硬いな。前よりずっと強くなってる」
以前であれば一撃入れただけで軽いヒビくらいは入っていたはずだ。それに俺自身が前より力をつけているはずなのに、それでも無傷で防ぎ切るとは……。
「強くなったな、エイシア。けど――」
俺は再び剣を振るう。同じように弾かれても、また同じように剣を振るう。
「何度やったって無駄だ! エイシアの防御は龍の一撃だって受けきってみせる! お前が何度殴ったところで……」
――ピシィッ!
「お、いけるな」
「はぁっ!? じょ、冗談だろ!? おいエイシア! 手を抜いてないでもっと魔力込めろ!」
「ッ…………!」
エイシアは苦悶の表情を浮かべながらもウーフェの言う通り魔力を込める。黄金の盾は一層輝きを増して立ち塞がるが、それでも完全な無敵という訳じゃない。十回、二十回、三十回と斬撃を寸分違わず同じ場所に重ねていけばいつかは壊れる。
「ニブルヘイムの連中はどいつもこいつも硬いやつばっかりだからな。これくらいはしないと仕置きにならないんだよ」
そうして五十回程斬撃を繰り返した頃にはヒビが盾全体へと走り、八十回を過ぎた辺りで完全に崩壊した。
「――さぁ、歯を食いしばれよ。お前なら鎧着てるから多少強く打っても大丈夫だろ?」
遂に遮るものがなくなったウーフェの胸辺りを狙い、背中まで剣を振りかぶる。
「待て! 落ち着け! 話せば分か――」
――ドカァッッッッッッッッッッ!!!
「――うぼはぁぁぁぁぁっっっっっ!!?」
鈍い衝撃音と共にウーフェの体が宙を舞う。鮮やかな弧を描いて吹き飛ばされ、石畳を蹴散らしながら十メートル余りを激しく転がり、大地を蹴り上げるようにして大きく跳ね上がった。そして最後は路肩に縦積みされた木箱の山に頭から突っ込み、木くずを散らしてその場に崩れ落ちた。
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