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第1話 そろそろ助けに来てくれても.....?

 暗く閉ざされた空間で激しい剣戟と魔法が巻き起こる。


 ここはS級ダンジョン「ニブルヘイム」。別名「厄災の巣窟」と呼ばれる、凶悪なモンスターたちが蠢く魔の迷宮だ。


「うおおおおおおおお!!!」


 ダンジョン最下層の床に尻もちをつき、今にも喰われそうになる仲間の前に立った俺は手に持つ大剣でモンスターの攻撃を受け止める。


「大丈夫か、エイシア!」


「……あ、アトスさん…………」


 背後でパーティの回復役である稀代の聖女――エイシアが血と泥で汚れた白金の髪と修道服を引きずり、杖を頼りにして立ち上がる。


「待っててください……、今回復しますから……!」


「俺はいい! それよりリプレのサポートを!」


 攻撃を受け止める直前、視界の端でモンスターとの競り合いに負けた赤髪の闘士(ファイター)――リプレが壁に激突したのが見えた。「光速」と評される自慢の足も度重なる戦闘で疲弊し、既にその輝きを失っている。


「……っ、余計なお世話よ……アトス……。アンタの方が、余裕ないじゃない……。私ならまだ……平気よ……」


 いつも強気な口調で文句を言う彼女だが、(しわが)れた声と虚ろな瞳が彼女の危うさを優に物語っていた。


「っ……! ――大回復(エクスヒール)!」


 エイシアの唱えた魔法が地面に倒れ込むリプレの身体を包み込み、彼女の命と足に輝きを取り戻させる。


 流石はエイシアだ。普段は少し抜けているところもあるが、こういう大事な場面では何を優先すべきかちゃんと分かってる。


「…………だめ、もう……魔力が…………」


 震える足で辛うじて立つエイシアに別のモンスターが牙を向ける。が、それらは一瞬で氷漬けになって息絶えた。


「――氷魔世界(アイシクル・テラ)…………」


 パーティの後方で既に何十という数の最上位魔法を撃ち続けている魔法師(ウィザード)のミディが最後の詠唱を終え、そのまま地面に倒れ込む。


「…………こっちも魔力切れ……すっからかん……限界…………」


 白の前髪の地面につけたきり起き上がる気配のないミディ。彼女の魔力切れでパーティの火力は大幅に低下し、モンスターの勢いが増し始めた。


『くそっ、このままじゃジリ貧だ。どうすれば……』


「――アトス、そっちに行ったぞ!」


 パーティで一番の年長者である金髪騎士(ナイト)――ウーフェか忠告を飛ばすと、彼の言った通りモンスターが一斉にこちらへ近づいてくる。あっという間に取り囲まれた俺はパーティとの連携が遮断され、一人孤立する。


 ――グルルルアアアアアア!!!


「くそっ! こんなところでやられてたまるかよ!」


 ――ガキン! ガキン!


 必死に愛剣を振り回して攻撃を防ぐ。猛るモンスターたちの肉壁を隔てた向こう側からは俺以外のパーティ四人の焦り声が聞こえてくる。


 ――もう無理だ! 今のうちに逃げるぞ!


 ――ま、待ってください! まだアトスさんが……アトスさんがモンスターに……!


 ――そうよ! このまま見殺しにしろって言うの!?


 ――この状況でどうやって助けるっていうんだ! 今モンスターどもの意識はアイツ一人に向いてる。逃げるなら今しかない!


 ――……でも! でも……それじゃアトスさんは……!


 エイシアの涙ぐむ声が聞こえてくる。俺は疲労で枯れ果てた体から余裕を絞り出して精一杯叫んだ。


「――行け、お前ら! 俺なら大丈夫だ! 必ず生き延びてみせる! だから……お前らも生きろ!」


「…………行くぞ、離脱だ」


 襲いかかるモンスター同士の隙間から一瞬、背を向けるウーフェの姿が見えた。その影を追い、リプレが唇を噛み締めながら倒れるミディを担いで走り去る。


 そうだ、これでいい。


 俺は嵐のように襲いかかるモンスターの攻撃を必死に捌く。地面に縫いつけられた今の足では見てから回避は出来ない。先読みと直感に命を全賭けして、何とか皆が逃げる時間を稼いでみせる。


「――待っててください!」


 荒々しい鈴の音がダンジョン内に響き渡った。顔を上げると、上層へと繋がる階段前で涙を流したエイシアがその琥珀色に輝く瞳で真っ直ぐ俺のことを見つめている。


「必ず助けに来ますから……! 絶対……絶対に死なないでください!!!」


 そう言い残し、エイシアは後ろを振り向いて全力で走り去った。

 

「――あぁ、待ってる!!!」


 遠くなる背中を見送り、心の内から沸き立つ力を両手に込める。


『そうか……助けに来てくれるのか…………』


「――なら、ますます死ねないよなぁ!」


 絶対に生き延びる。何日、何ヶ月……いや、何年だろうと生き延びてみせる。


 そうして彼女(エイシア)の残した希望に救われた俺は全身を奮い立たせ、モンスターに立ち向かう。


 いつか来てくれるであろう、その救いの手を取る為に――。


   * * *


「――と、まぁ、これがちょうど三年前の出来事なんだけどさ」


 俺は思う。


「……そろそろ助けに来てくれてもいい頃だよな?」


 最下層の最奥――ダンジョンを統べるボスモンスターが君臨する玉座で胡座をかきながら、俺はかつての約束を思い出していた。




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