91少し遅めの夏祭り(タツヤ)
その日は夏祭りだった。
みんな浴衣に着替え、みんなが夏祭りを楽しんでいた。
そんなときに起きた悲しいまでの惨劇。
今は誰もいない。
ここは、ラビリンスで一番大きな広場。中心には大きな大木がどっしりと生え、まわりで、音楽を奏でる者や、芸を披露する者。それを鑑賞する者や、広場で遊ぶ者など、市民の憩いの場となっている。
でも、今は、その広場の地面は大きく抉り取られている。
それでも、広場にあった大木は今でもどっしりと生え、このラビンリスの天井に届くほどに枝葉を伸ばしている。
その根元には、小さな木の芽が生えていた。
今は、その周囲の瓦礫の上に冒険者たちが集まり、この惨状をただ眺め、時間がひたすらに過ぎるだけ。
しばらくして、非常事態宣言が解除されたのか。一般の人たちも、周囲の瓦礫の上に集まりはじめ、この惨状を見て、落胆していた。
今、ここ、ラビリンスは人々希望の町ではない。落胆と絶望で溢れていた。
「リア?もう大丈夫なのか。」
横を見るとアリエルと霞の隣にリアが立っていた。
「えぇ、大丈夫よ。ありがとう。霞さんと、小さな、、、虫さん?」
「虫じゃない、可憐な妖精、アリエルよ!」
あれ?
そこで気づいた。リアにはアリエルが見ている。アリエルは人間には見えないように魔術をかけていたはずだ。
「ふふ、まぁ、気づいたかもしれないけれど、あたしも人間ではないわ。アイギスと同じバンパイヤっていう者かしらね。意外と人間でない生き物もラビリンスにはいるものなのよ。虫とかね。」
「だから、虫じゃない!」
リアは続けた。
「あたしはね、人が好きなの。地上にいたころは、その様子を見てたわ。地上は、常に戦いで安住の場所なんてなかった。戦禍から逃げる毎日。落胆と絶望から逃れて辿り着いたのがこのラビリンスの新境地。そこで、人々は再び幸せを手にするはずだったのに。。。でもね、人って強い生き物なのよ。ほら、ご覧なさいよ。」
リアの指し示す方向を見ると、数人の住人が、瓦礫から調理器具を取り出し、料理を作り始めていた。
「こんな絶望の中でも、絶望に抗う人たちはいるのよ。だから、人間は飽きないわ。」
その者たちは、夏祭りの残骸の調理器具で、炊き出しを始めた。そして、落胆する人たちに、温かそうなスープを振舞い始めたのだ。
しばらく瓦礫の山の上に佇み、その様子を眺めていた。
そこへ、非常事態宣言で一緒の班だった冒険者が現れる。
「おい、飲むか。」
ちょうど、炊き出しで振舞われたスープを持ってきてくれたようだ。
「ふん、別に礼は言わんが、あんたの事は認める。」
班の指揮を取っていた彼は、バツが悪そうに、そっぽを向きながら、スープを差し出してきた。
俺は、そのスープを受け取る。
「別に気にするな。いつものことだ。」
「俺は、冒険者のグレゴリーだ。あんた、名は?」
「タツヤだ。名前など知ってどうする。」
「おい、あんた、損してるぜ。少し、自分の力量をギルドに見せつけたらどうだ。タツヤか、名は覚えたぜ。」
「別にいい。どうせ、いつものこと。何も変わらんさ。」
と、俺はもらったスープに口をつける。が、
ドン!ゲホッ。
と、誰かに、思いっきり背中を叩かれた。
「そうよ!あんた強いんだから、少しはあんな奴らをギャフンって言わせた方がいいわよ。」
と話しかけてきたのは霞だった。だが、霞もランクを誤魔化しているのは明白だ。
「って、お前もBランクとか嘘だろ。」
「別にあたしは誤魔化してるわけじゃないわよ。申請してないだけ。高ランクになるといろいろ面倒なのよ。それに金稼ぐにはBぐらいがちょうどいいのよ。ははは。」
「笑って誤魔化すな。」
ドン、ドン、ドン!
太鼓の音が響き渡った。どうやら、瓦礫の中から、誰かがバケツを見つけそれを楽器代わりに、叩き始めたのだ。
彼は、試しにバケツを叩いたのだろう。だが、すぐに人が集まり、彼を取り囲むように輪になっていた。
ドン、ドン、ドン!
彼は、再びバケツを叩き始める。
他の人も瓦礫の中から、まだ使える楽器を取り出して、即興の演奏をし始めた。
それを中心に、まわりに集まる人も徐々に増えていく。
大事な人をなくした人もいるだろう。大事な物をなくした人もいるだろう。だけど、今、彼らは徐々に集まり、即興の音楽のはずなのに、立派な見事に完成された音楽へと仕上げていく。
それに従って、周りに人だかりができ、人々が輪になって踊り始めた。
バケツの音は、バケツの音でしかない。けど、彼の叩く音には、腹の奥底に響く。
周りはすべて瓦礫の山、されど、今日は、ラビリンスで唯一の夏祭りだ。
こころなしか、集まった人は泣いているようにも見えるし、笑っているようにも見える。
「ねえ、タツヤ、あたしたちも踊らない?」
「うん?あぁ。そうだな。」
巨大地下迷宮都市ラビリンス、街は崩壊したようにも見えたが、決して人々は、諦めてない。
この街にはまだ、希望がある。
そこへリアがタツヤの腕をツンツンと突っつくのだ。
「タツヤ、、、ありがと。みんな元気になったようね。」
リアはすこしだけ、顔を傾げて、照れながらに話しかけてきた。けど、すぐに真顔になる。
「だけどね、一言だけ言わせて頂戴。あんたが女湯を覗こうとしたことは、生涯憎むからね。」
「。。。」
一瞬、周囲が凍り付いた。そして、グレゴリーがそれに反応し、大声で叫ぶ。
「お前、まさか、あの、あの巷で有名な女湯覗きのタツヤなのか!」
いや、ちょっと待て、覗いてねぇって。
その場にいた女性冒険者たちが、一斉にこちらを鋭い眼光で睨みつける気配を感じ取った。
目線を霞へと向けるも、霞も下賤な物を見るかのように、鋭い眼光で睨みつけている。
いや。違うって。
「おい、アリエル。」
と、アリエルのほうへと向くもアリエルも、こちらのほうへと鋭い眼光を向けている。
「おい、お前が、この変な噂の犯人だろうが!」
「え、そうだっけ?」
と、アリエルは舌をちょっと出す。ふざけんな!
「ちょっと、タツヤさん??後でお話ししましょうか。」
と霞から声をかけられた。
その日、ラビリンスでは音楽を奏でる音と、それにあわせて踊る人たちの歓声の陰で、霞とリアの恐ろしい声が小さく響いていた。
どうやら、この街には、希望があるようだが、やはり、俺には絶望しかないようだ。




