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90人々の想い(アリエル)

 

 あたしは、可憐で天才的な能力を持った妖精、アリエルなのです。


 今はリアの様子を見守っているのです。けど、もう、心配はないのです。

 霞が治してしまったのです。


 リアの体に大きな穴が開き、体中から血が流れ出ていたのです。

 おそらく、リアは人間ではない。アイギスと同じ匂いがするのです。おそらくは、アイギスと同じバンパイヤ。人間ならとっくに死んでいるのです。


 それでも、これほどの傷を癒す魔術を扱える者など、そういるものではないのです。

 仮にいたとして、こんな短時間で治療が出来るわけがないのです。天才的なこのあたしですら、ここまで高度なことは出来ないのです。


 認めざるを得ない、、、霞は魔術の天才なのです。


 アイギスが言うには霞も転生者、タツヤが何度も転生しているうちに剣技を昇華させたとは言ったように、霞もまた転生しているうちに、魔術を昇華させたのでしょう。


 でも、あたしが認めるのは魔術だけなのです。魔術がすごくても、可憐さはこのあたしには勝てないのです。

 ついでに、胸の大きさはそこそこだけどDランク。まだまだなのです。


 さて、あたしはリアの傍に付き添いながら、アイギスとの戦いの行方を見守るのです。


「くそ!この妾が地面にひれ伏せるなどと。貴様ら、高々転生しただけの人間風情が!」


 アイギス、紅のドレスを纏い、麗しい姿。そして、オッドアイの瞳が美しいはずでした。

 でも、今は違うのです。彼女の瞳は、自身が纏っているドレスと同じほどに 赤く充血し、美しいはずのオッドアイもないのです。


「なぜ、なぜじゃ!妾が、転生しているだけの、下等な種族に、、、」


 アイギスは、もがいているのです。

 タツヤがアイギスに斬撃を与え、霞の魔術がアイギスに直撃します。


 先ほどから、そのような攻防が繰り返されてるのです。もう、そこには、地底で見たアイギスの最高血種という威厳はもうないのです。


 そこへ霞が強大な魔術をアイギス目がけて放出しました。ラビリンス一帯が光に包まれ、アイギスのいる地面には広大な魔法陣が出現し、光の柱となってすべて消え去ったのです。


 されど、紅の美しいドレスがボロボロになり、美しい銀髪もホコリにまみれになるも、アイギスはまだ、そこにいたのです。


「くそっ!人間が、人間ごときが!!クソがっ!クソがっ!」


 そう嘆くアイギスの声は悲しく、このラビリンスに響くのです。

 そこへ、タツヤが人間技とは思えないほどの素早い連撃を繰り出します。まるで、アイギスから花が咲いたかのうよに紅い鮮血が飛び散るのです。


 あのタツヤの攻撃、霞の魔術を受けてもなお、まだ、立っている。さすが、自身で最高血種と名乗るほどなのです。


 今は、寝ているリアを、そっとしておきながら、あたしはタツヤと霞の横に立ちます。


「アリエル!」

「大丈夫なのです。リアのことなら霞が治したのです。今はゆっくり寝ているのです。」


 霞の魔術は認めるのです。

 でも、あたしも霞に負けないほどの魔術が使えるのです。

 あたしが魔術を放出するには、生気が必要になるのですが、これは生気は使わないのです。


 人々の想いを源にする魔術。

 あたしは、そっと手を天へと伸ばします。このラビリンスに響く、人々の悲しみ、リアの想い、それらをこの手に集めるのです。

 ラビリンスには、人々の想いが、たくさん、たくさん、詰まっています。だからこそ、今ならば、このラビリンスの人々の想いがたくさん、たくさん、集まるのです。


 ほら、見てください。こんなにも、人々の想いが集まるのですよ。

 あたしは、可憐で人間の手に乗るほどの小さな妖精、その小さな手の上に柔らかな光となって現れます。

 それは、人々の想いの大きさに応じて、大きくなるのです。


「えっ、ア、アリエル?!?」「アリエルちゃん?」


 見てください。あっという間に、こんなにも人々の想いが光となって集まりました。ラビリンスを呑み込むほどの大きさ。そして、なおも、それはまだまだ大きくなり続けるのです。

 あたしは、それをそっと、アイギスに向けて、ゆっくりと放ちます。


 アイギス、、、自称、最高血種であり、種の創造主と自称する痛いやつ。

 昔から、アイギスとはバンパイヤチャレンジでお世話になっていたけれど、ふと思うことがあるのです。

 アイギスはどうやって生まれたのか。


「ちっ!ハエが!いつも邪魔しおって!」


 アイギスはそれを切ろうとします。でも、切れるわけがないのです。だって、これは人々の想い。切れるわけがないのです。


 あたしは妖精。ちょっと、いつもは街に出ては、人々にイタズラなどをしています。

 何でかって?

 まぁ、理由なんてなくて、妖精の気まぐれといえば、気まぐれなのかもしれません。でも、それは人々の間に、ちょっとした不都合を妖精のせいにしたい人がいるからです。

 ちょっとした鬱憤を望む人がいるからです。

 イタズラを誰かにしたいと望む人がいるからです。


 妖精は、これまでもずっと人間たちと暮らし、人間の想いを叶えてきたのです。

 だから、今も、この街を破壊する者を排除してほしいと皆が願うならば、それを力の源として、皆の願いを叶えることができるのです。


 それが、妖精。人間たちが自身の望みのために生まれた存在なのかもしれません。


 先ほど放ったラビリンスの皆の想いはついにアイギスを包み込みました。

 ラビリンスのすべてが光に包まれました。


 そして、小一時間ほどが経過します。


 ここは町の広場、大きく抉れてしまってはいるけれど、そこには昔から大木が生えていました。

 幹が太く、枝はラビリンスの天井まで伸びて、天井に沿って枝葉を伸ばす大木なのです。

 これだけの戦闘があって、地面が大きく抉れても、その大木は、いまだ、どっしりと根を張ってます。


 その根のところに、小さな芽が生えていたのです。

 種の起源、種の創造主、アイギスは自身をそう呼んでいたのです。

 でも、自身もまた、創造されたもの。

 自然の摂理に従い、自然に戻ったということなのでしょう。人間たちの想いがアイギスという種の創造主に勝った瞬間なのです。


 あたしは、妖精、アリエル。

 人々の願いを叶える妖精、アリエル。

 可憐で天才な妖精なのです。


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