8霞という冒険者のある日の午後(霞)
まぁ、そんな事件はあったのだけど、これで、いよいよ、本日のお仕事に入るわけです。
本日のお仕事先は、最近、発見されたという未知の鉱物の鉱床。
こういう新種の鉱物は、砂みたいな破片ですら超がつく高額で取引されて、一発逆転が狙えるんですよ。
当然、それを狙う冒険者も多けど、最悪なのが企業に手をつけられること。
特に悪名なのが資源開発会社の『RGF社』。資金が潤沢にあるので、専属冒険者を大量に雇い、数の暴力で多くの鉱床を抑えてしまうのです。残った鉱床といえば、ゴミみたいな鉱床だけ。
なので、いかに先手を打てるかが鍵になるの。
ということで、今、あたしは、その鉱床が見つかった最前線に来たわけなのですが、うん、一足遅かったか。。。
見れば、すでに軍服を来た兵士がうろついている訳で、つまるところ、先にRGF社に手をつけられたということ。
でも、手ぶらで帰るわけにはいかないでしょ。
だって、下手したら、砂粒ですら億単位の値がつくことがあるんだから。
だったら、やるしかないじゃない。
ということで、民間兵の様子を見ながら、こっそりと戦利品を狙ったわけなんです。
一応、一瞬のスキをついて、コブシ大ぐらいの鉱石を入手しましたよ。何ですけどね、、、、
「おい、そこの女、ちょっと待て!」
やばっ、バレた。
ここは、知らぬふりをして通り過ぎるのみ。
早足で、とにかく逃げるも、後ろから、「おい、待てと言ってるだろ!」と声をかけてくるわけですよ。
走って逃げるも背後からドッドッドッドッっと、大量兵士が追いかけくるじゃないですか。
やば。逃げろ!
「ちょっと!RGFの鉱床だとは知らなかっただけなの!」
「知らなかったじゃ、済まねんだよ!」
ヒ〜ッ!とにかく走って撒くしかない。
だけど、運命というのは、こんなときに、悲惨なイタズラをするもの。行きつく先は行き止まりなのです。
あたしは、洞窟の壁を背にすると、兵士たちは、あたしを取り囲みます。
「なぁ、姉ちゃん、鉱石は返してもらえばいいんだけどよ、こっちは手間がかかってんだよ。手間賃を払ってもらわんと、割に合わねぇんだよ。あぁ、でも姉ちゃん、キレイだからちょっと付き合ってもらうだけでもいいぜ。」
「あらぁ、それはうれしいわ。でも、あたしは結構高いわよ。手間賃ぐらいじゃ、釣り合わないわね。」
はぁ~。
あたしは大きくため息をつく。別に諦めたわけじゃないのよ。できれば、無益な戦いは避けたかっただけ。
だって、洞窟の中だから汚れるし、反撃されたら痛いじゃない。
首元のプレートを見れば、民間兵の隊長はBランク、他の兵士はCランク。
まぁ、プレートの表示通りなら、余裕ね。
え、プレートの表示通り?
あら、知らないの?
プレートの表示を誤魔化す冒険者もいるのよ。
より高ランクの表示で誤魔化すのは見栄を張りたいだけ。中には低く誤魔化す冒険者もいるのよ。だってさ、高ランクになるとさ、ギルドや自治政府から、余計な仕事を押し付けられて面倒なわけよ。
え、あたし?
あたしは、、、そうね、、、秘密ね。
まぁ、その話は、ともかく、この兵士達と戦わないといけないから、ナイーブなんです。はぁ、まじめんどくさ。
「へぇ、そうかい、姉ちゃん、何、ちょっとした飲み物ぐらいなら出してやってもいいぜ。」
「あら、嬉しいわ。なら、ラビリンスにちょっと気になっているお店があるの。」
「へぇ、そうかい、なら。。。うん?、お前、誰だ。」
えっ。
突然、目の前に謎の男というか、おっさんが現れたのですよ。
油断していたとはいえ、わずか一瞬の出来事、この男、かなりの使い手。てか、誰?
「こいつ、あれですよ。以前からこの辺で地図を作っている変な男ですよ。『Dランクの。』」
「あぁ、あいつか。」
あぁ、地図を作っている人ね。噂は聞いたことがあるわ。
地図なんて適当に作った粗悪な地図しかなかったのだけど、最近は、精度のいい地図が出回ってるとか。その地図は、ある冒険者が一人で作っているという噂を聞いたことがあったわ。
「おい、誰だが知らねぇが、俺たちはそこの姉ちゃんと話をしているんだ。邪魔しないでくれねぇかな。」
「邪魔だ。」
「はぁ?聞こえなかったな。邪魔すんなって言ってるんだよ。このDラン風情が!」
「おい、出るぞ。隊長の得意のあれが。」
「おい、マジかよ。あれが見れるのかよ。」
おぉ、なんかよくわからないけど、『謎のおっさんVS RGF社の民間兵』、みたい感じになっている。
あたしが戦わなくて良くなったようで、、、ラッキー!
謎のおっさんはDランクらしいけど、まぁ、頑張って。Dランクでも剣術一つで通っている冒険者もいるからさ。
「おい、Dランの雑魚風情が。マネまねしやがって。食らいな。俺の魔術、、、」
民間兵の隊長さんは、炎の魔術の発動をさせた様子。謎の男は全身を炎に包まれているわ。かわいそうに。
その後も謎の男は、兵士さんにボコボコにされたわ。可哀そうだけど、まぁ、これがこの世界の現実。
まぁDとBランクじゃ、差があり過ぎるわ。
と、思っていた矢先のこと。次の瞬間、背筋が凍り付いたの。
謎のおっさんが動いた瞬間、目の前に目に残像として残るような、白い一閃が目の前に広がったわけよ。
そして、ふと気づけば、民間兵の隊長さんをはじめ、兵士さんたち全員が倒れていたのですから。
「えっ。。。」
思わず、あたしは声が出てしまったわ。
状況を察するに、謎の男が手に持っていた小さな刀を抜刀した様子。おそらくは、居合か、抜刀術かの類。
さっき、Dランクでも剣術一つで通っている冒険者もいるって言ったけど、この男、そっち系の人かも。
で、その謎の男が、こちらをジーっと見ているわけで、、、えっ、、、、誰?、本当に誰?
なんであたしを助けたの?
「あ、あ、あの、お名前は?」
「はい?名前?、え?、あたしの?、、、『霞』ですけど。」
えっ?なんでいきなり名前聞くの?もしかして変質者??
しかも、まだこっちをジーっと見てるんですけど。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫ですか?」
「あ、えぇ、大丈夫です。慣れてますので。」
しばらくすると、その男は軽く会釈して、帰路に帰ろうとするのです。