76眷属狩り(タツヤ)
目の前に現れた者たち。
まるで中世の貴族の服を纏い、皆、漆黒で統一されている。
腰には見慣れない血色のサーベル。それは、確かに現代社会から見れば、だいぶ異端な服装かもしれない。
それに何よりも、明らかに人間とは違うものを彼らは持っていた。
背中から赤黒く、まるで蝙蝠のような羽が付いていた。
「あれは、人間じゃないわね。アイギスの残渣が残ってるわ。」
アリエルも、そう声を漏らす。
人には見えない魔術をかけながらも、アリエルは俺の肩に座っている。あのバンパイヤに散々悪さしたアリエルが言うのだから間違いないだろう。
その場で、気を集中させる。
姿こそは見えないが、気の流れから、周囲にはさらに一人、二人、三人、、、と複数人の気配を察知した。おそらくは、どれもアイギスの生み出した眷属たちだろう。
「気を付けろ。姿を見せる気はねぇようだが、相手は一人じゃなねぇぞ。」
相変わらず、指揮を取ろうとするのは、先ほどの冒険者だが、悪くない読みだ。
次の瞬間、眷属たちが、サーベルを抜き、先ほどの冒険者を狙う。
彼もランクはB、それなりの実力はあるのだ。何らかのシールドの魔術でそれを防ぐとそのまま指示を出す。
「おい、今のうちだ、俺が食い止めているうちにヤレ!」
他の冒険者たちは一斉に魔術を放出する。ここにいるのはBランクの冒険者たち。爆炎、凍結、地面から土塊を放出する魔術など、人によって魔術は多彩だが、その一つ一つが強力だ。
次々、襲い来る眷属たちを仕留めていく。さすがだ。
「なんだよ。これで終わりかよ。」
どこかの冒険者が一言ぼやいた。
一見、それで仕留めたようには見えた。周囲には倒れた眷属たちが至る所に転がっている。
でも、相手はあのアイギスの眷属だ。確かにそう見えたかもしれない。
だが、時間を置くと、奴らはゆっくりと一斉に立ち上がったのだ。
「なっ!」
指揮を取り始めた例の冒険者も驚いていたが、そう、こいつらはアイギスの眷属、そう簡単に倒れるとは思えない。
立ち上がった眷属たちは、再び、冒険者に向かってサーベルを抜きを襲い掛かる。
冒険者たちも、応戦し、再度、爆炎、凍結、土塊なと数多の攻撃を与える。それによって眷属たちは一度は倒れるが、少し時間が立てば、再び、立ち上がるのだ。
そして、一言も発することなく、サーベルを取り、再び襲いかかる。
それが、幾度なく繰り返される。
眷属たちは、人間の形こそしているものの、それはまるで、巧妙に仕組まれた機械人形のように、一切の感情すらなく、ひたすら繰り返すだけ。
「なんだよ。こいつら。」
「すっごい不気味。」
「なんで、この致命傷で動けんのよ。」
班の冒険者からもこの眷属たちの不気味さに声を上げている。
もちろん、一部の眷属たちは自分にも襲い掛かってくる。
「おい、Dラン冒険者、逃げろ!」
どこかの冒険者から俺をDランという名前で呼びかける。相手の動作は緩慢というほどもないが、特別に早いわけではない。
この程度逃げるほどでもない。さっと、攻撃を交わし、背後から一刀を与えた。
その一刀は、普通の人間であれば、致命傷だろう。
だが、相手はアイギスの眷属、致命傷のまま、再度こちらへと向かってくる。
眷属からの攻撃を交わしながらも、相手に確実に一撃、一撃を与える。それでも眷属の動きは止まることはない。
相手に連続で斬撃を与えながらも、俺の周りを飛んでいるアリエルがいるので、聞いてみる。
「おい、アリエル!何度もバンパイヤと戦っていたんだろ。どうすればいい?」
「え?そんなこといわれても、戦ってなんかないわよ。あたしは逃げてただけよ。」
使えねー羽虫。
「あっ、でも、バンパイヤって人間と違って心臓の場所が違うらしいのです。そこを狙ってみたら。」
「なるほどな。」
眷属からの攻撃を交わしながら、その間に耳に気を集中させる。
音。周囲では様々な音がする。そのすべての音がまるで研ぎ澄まされたかのように、音が自分に流れ込んでくる。
冒険者たちが戦う音、悲鳴をあげて逃げる人々の音、瓦礫が崩壊し崩れる音、火で建物が燃える音、ゴミが舞い上がり空気中を漂う音。その様々な音の中に、ドクン、と聞こえる音がする。
俺は、そのドクンとする音の源、それは眷属の左足から聞こえ、そこへ刃を突き刺すと、それは、なんの抵抗もなく、まるで空気に向けて刃を刺したかのように、すんなりに眷属の体に入る。
そして、その眷属の姿は、まるで煙のように掻き消え、消失した。
「おい。心臓をねらえ。耳を澄ませばどこに心臓があるかわかる!」
俺は、他の冒険者にも聞こえるように伝える。
「はっ。音を聞き分けろだと?、てめぇ、そんなことできるわけねーだろうが。これだからDランは。」
とパッシングを受けるも、
「なるほどね。わかったわ。」
と霞はすんなり受け入れ、空気を槍のように圧縮した魔術で眷属の右肩を貫く。すると、眷属はスッと姿を消した。
俺を荷物持ちにさせようとした例の冒険者も、魔術で鋭い氷塊を左腹に突き刺すと、眷属はスッと姿を消したのだ。
「なるほどな、やるな。Dラン。」
眷属の心臓は、個体によって場所がまちまちのようだ。なので、個体毎に、音を聞き分ける必要があるようだが、どうやら、それが出来たのは、俺と霞、例の偉そうな冒険者、それともう一人、ダンという名前の冒険者だけだった。
他の冒険者は、俺たちが眷属たちを掃除するのをただ眺めているか、時折、眷属が襲ってくるので、それを防ぐだけの状態だった。




