75非常事態宣言(ダン)
私は、冒険者ダン。
大迷宮地下都市ラビリンス、地下1万mもの大深層にあるとは思えないほどの、巨大な大都市。
地上は戦禍で荒廃したが、地上の大都市と比べても、遜色ないほどに美しく、活気があり、平和な街、それがラビリンスだった。
それが、今はどうか。
至る所から灰色の煙が上がり、ミサイルで撃墜されたかのように、建物や崩壊し、人々は逃げまどう。
それは、以前の地上での戦禍と何も変わらない。
今、現在、ラビリンスには非常事態宣言が出されている。
非常事態宣言が出されると、ギルド、つまり、いつもは地下迷宮へ仕事を斡旋している職業安定所から半ば強制的な招集命令が出る。
それによれば、少なくとも一名のある人間とおぼしき者が、突如、眷属と呼ばれる多数の兵士を生み出し、このラビリンスで破壊活動をしているとのこと。
現在ギルドから出されている命令によれば、その人間とおぼしき者が生み出した兵士の壊滅と、その人間の捕縛命令が出されている。状況次第では、生死を問わないとのことだ。
非常事態宣言下では、冒険者たちは、複数の班にグループ分けされる。
医療が得意なもの、対人戦が得意なもの、援護が得意なもの、遠隔攻撃が得意なもの、それぞれの個性を活かし、集団で困難に立ち向かうシステム、それが、この非常事態のシステムだ。
そして、当然、私も特定のグループに半ば強制的に招集される。
私が配属されたのは、接近戦を得意とする班だ。
全部で十名ほどの班なのだが、、、ここに明らかに場違いな二人組がいた。
タキシード姿、ドレス姿、、、
男のほうは帯剣していて武器は持っているようだが、タキシード姿。
女性も綺麗なドレスだというのに、ホコリまみれになっている。
結婚式のパーティ中にでも強制招集されたのだろうか。かわいそうに。
周りの冒険者も、皆、場違いなその二人をじっと見つめている。
冒険者同士がまず確認するのは胸元のプレートだろう。
冒険者たちは、皆、胸元にランクを示すプレートを身に着けている。全員が高ランクのBだ。
うん?、ちょっとまった。
例の場違いな冒険者のうち、タキシード姿の男。彼はDランクだ。
DランクとCランク以上との境界は、魔術が使えるか使えないかの境界、そして、ここラビリンスでは、その境界を境に、Dランク以下の冒険者たちは、見下される傾向がある。
他のメンバーもこのチームに一名Dランク冒険者がいることに気づいたのだろう。周りからは小声が聞こえてくる。
「おい、あのオッサン、Dランクじゃないか。」
「みんなBランクなのにDランクかよ。かわいそうに。」
「てか、何でドレスとタキシード?舐めてんのかよ。」
「おいおい、Dなんかと一緒かよ。」
「結婚式の最中に招集でもされたんじゃね。」
だが、私は、以前にもそのDランク冒険者を見たことがある。あれは、以前、グローリーホールの近くでのこと。RGF社の軍隊へたった一人で挑み、見事に制圧した冒険者ではなかろうか。
確かに、彼が魔術を使うところは見たことがない。だが、一人でRGF社の軍隊を制圧した能力はDランクどころの話ではないのだ。
そこで、ある冒険者が、皆に聞こえるように声を出す。
「けっ、Dランクかよ。使えねぇな。俺らが、お前に荷物持ちの仕事でも与えてやる。活躍の場があることを光栄に思うんだな。俺たちの邪魔すんじゃねぇぞ。」
と、荷物を彼の前にドサッと置く。十分一人で持てるぐらいの大した荷物ではない。
高ランクの冒険者、とくにBランクぐらいになると、自分は選ばれし者、という勘違いしている奴らが多いのだ。
まぁ、こうなるのも、Dランク冒険者の運命だ。
そう、仕方がない。
私に出来ることはなにもない。ただ、これ以上、ことが荒立たぬように願うだけ。
そうやって、私は、このやり取りをいつものようにただ見ているだけ。
私はただ見ているだけの傍観者なのだ。
誰かが声を出す。
「ちょっと、あんた、その程度の荷物ぐらい自分で持ちなさいよ!」
Dランク冒険者の隣にいたドレスの女だ。
あまり場違いなドレスなの姿で、説得力に欠ける気がする。
ただ、私は以前、彼女にも会ったことがある気がする。確か、とてつもない魔術を使いこなしていた気がする。
「は?てめぇ、同じBランクかもしれねぇけどな、毎日、てめえらのために働いてんだよ。」
「だから?」
「雑魚は、俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ。てか、てめぇら、そんな服装でやる気あんのか?」
ボン!
その冒険者は突如、炎の魔術を発した。小さな炎の塊は、Dランク冒険者へと向けられた。
嫌がらせのつもりであったのだろう。規模は小さく、殺傷能力はほぼない。軽いやけどするぐらいだ。
ところが、Dランク冒険者は抜刀し、その炎の固まりを両断する。その片方は、隣にいる女のところへと流れる。女は、それを指先でピッとはじくと、それはカウンタとなって冒険者へ反撃されてきた。
小さな炎であったはずが、いつの間にか爆炎となり、豪風が吹き荒れ、女のドレスの裾を巻きあけながらも、灼熱の熱、となって冒険者へ倍返しされた。
それはもはやBランクどころのレベルではない。
彼も、なんとかシールドの魔術で防ぐ。
「て、てめぇ。」
「そんなんで嫌がらせなんて、情けないわね!ただ、服装が、、、場違いなのは、、、認めるわ。」
やはり、そうだ。
私の知っている女冒険者なのだ。




