72気持ちの入れ替え(タツヤ)
ねぇ。
ねぇ。ねぇ。
「ねぇ、タツヤ!!」
はっ、と我に返り、気づけば霞が俺の肩をゆすっていた。
「大丈夫?」
「え、あ、あ、あぁ、大丈夫だ。」
「しっかりしてよ。アイギスを追うんでしょ。」
そうだ、つい、夢中になっていたが、今はアイギスを追っているところだった。
でも、でも。。。
もう、先ほどまで脳裏に浮かんでいた世界は既に消えていた。
結局、一歩を踏み出せなかった自分が情けない。
心残りはある。ものすごい心残りだ。
霞が、実は、転生する前の、あの好きだった先輩かもしれない、それを確認するための千載一遇のチャンスだった。
にも、関わらず、自分の勇気のなさが、そのチャンスを逃してしまった。
クソッ!
俺は壁を思いっきり叩いた。
けど、ここには壁なんてないので、宙を叩いて、よろめき謎の行動となる。
ここはアースホールの最深部と思われる場所。不思議な空間を漂っていたんだ。
「え、大丈夫?何しているのよ。ちょっとおかしいわよ。」
「すまん、慣れない環境だったからな。」
霞に謎の行動を指摘されるも、適当に誤魔化す。
パン!
俺は、頬を両手で叩いた。
気持ちの切り替えが必要だ。今更、どうこう言ったところで後悔に言い訳にしかならない。
少し、冷静になろう。
今はアイギスを追っていたんだ。
おそらくは、アイギスもこの空間を利用して移動したのだろう。
手を近づけることで、その球体の中の世界を見ることが出きるが、転生するときと同じ要領で、球体に取り込まれれば、その世界へと、きっと転移できるのだろう。
多分、同じ要領で行けば、アイギスの行きついた先も容易に見つけられるだろう。
ふと、霞を顔をちらりと見るも、霞もこちらを見ていた。互いに頷く。そして、グルグル巻きしたアリエルを引っ張りながらも、霞と共に、これだと思うその白い球体へと接近し、手をかざす。
そして、先ほどと同じように脳裏には別の風景が広がり始める。
そこは、巨大な洞窟だった。
地下深くまでに達し、底が見えることがない。
ひたすらに、真っ暗な闇が続くも、ある程度地下深くに潜った時点で洞窟の壁に提灯虫が現れ、洞窟の内部が淡い光で照らされる。
そこには巨大な地下空間があり、その空間には、みっしりと人工的な建築物が密集していた。
地下大迷宮都市、ラビリンス。そこは、まさに地下に作られた大都市だった。
けども、どうやら今までの様子とは違うようだった。
迷宮内に建てられていた建物は破壊しつくされて、あらゆる場所から灰色の煙が立ち込めている。
人々は何かから逃げまどい、隠れて生活をしている。まるで、かつて地上で行われていた戦禍と酷似していた。
ある場所では人々が武器を持ち、何かと戦っている。
その相手は地上に立つも、少しだけ宙を浮かせて対峙している。
銀髪で長く、その髪もまた不自然に宙に浮かんでいる。そして、青い右目と赤茶色の左目の美しい、オッドアイに、深紅のドレス。
「アイギス!」「アイギス!」
「行こう!」
「えぇ、もちろん。」
俺たちは、その白い球体に身を触れさせると、その白い球体に取り込まれた。
やはり、どうやら、直接触れることで、その場所へと転移することすらできるらしい。
まったく自然の力には恐れ入る。
そして、また、視界は闇に取り込まれ、しばらく、転移の世界を漂った。
戻ろう、ラビリンスへ。アイギスを止めよう。
ただ、自分の心の中には、未だ石のように重いわだかまりは残っていた。




