68次元の狭間(タツヤ)
ラビリンスではこの大迷宮の最下層を目指す多くの冒険者たちがいる。
ラビリンスには、地下1万mという大深度という地球上でここしかないだろう環境が揃っているのだ。
当然、地上とは異なる自然現象も起きるもの。
ラビリンスには、そのような大深度独特の環境を専門としている研究者たちも少なからずいる。
彼らは口々に言う。
大深度に近づくほど、地球の中心部へと近づく。中心部へと近づくと、重力の影響をよりダイレクトに影響を受け、地上では考えられない現象が起きると言う。
例えば、地上では重力というのは、真下にかかるのが当たり前、ところが、深度が高くなると重力のかかる方向が場所によって変わり、ある場所では上に、ある場所では左右にと、重力の影響を受けるそうだ。
そう、それはタツヤたちが到達した深層10万mの世界とまさに同じ現象。
それでは、さらに深く深層100万mに達すると何が起きるか。
研究者が言うには、深層100万mの深度になると、光ですら重力の影響を受け、光の波長が偏移するという。
例えば、光の波長、我々が見ている可視光と呼ばれる光は、波長によって見える色が決まる。
つまりは、深層100万mでは、目に映りこむ色ですら変わるのだそうだ。
それこそ、今、タツヤたちが辿り着いた世界そのものだ。
では、その先は?
ある者は、過大な重力によって時間に作用し、ある場所では時間はゆっくり進み、ある場所では時間は早く進む、または、ある場所では時間は遡行すると主張する者がいる。
ある者は、過大な重力によって空間に作用し、ある場所では別の空間との融合が起きる、ある場所ではその空間だけ独立閉塞し、閉じ込められるなど、主張する者がいる。
それもそのはず。
誰もそのような深度の大迷宮に行った者はいないのだ。仮にいたとしても、戻ってきた者はいない。
そのような環境は、すでに人間の人智の想像を超えた世界。
今、タツヤの手に持つ高度計はついに深度500万mを超えていた。
周囲は黄、赤、青、紫、緑、あらゆる色が代わる代わる変わっていく。まるで極地でオーロラを見ているかのように、美しく、滑らかに、華麗に、空間が変化する。
この大穴に入って、最初は周囲に岩壁があることが認識できた。だが、今や、壁すらも見えない。
周囲は何もない空間で、ただ、周囲の色だけがゆったりと華麗に変化する美しい空間。
何かの催眠作用があるのか。
霞もアリエルも、この空間に入ってからは、周囲の美しい空間にただただ見蕩れ、言葉を発することもなかった。
アリエルには、魔術で作られた、この透明な膜を維持するために、定期的に生気の摂取が必要だ。
だが、意識しているのか、無意識なのか、この世界に入ってからは、ほんのちょっと俺の指先に口づけをするだけで生気を摂取し、そして、再びこの世界の美しさに見蕩れるのだ。
ただ、一言だけ言わせてくれ。なぜ、俺なのだ。たまには霞の指からも生気を摂取してくれ、と言いたいが、なぜか、この空間では、その気力すら失せていく。
本当に不思議な世界。。。。
だんだんと、こうして空間を見ているうちに、次第に心地が良くなり、だんだんと眠くなってきた。
瞼が重くなり、目が閉じそうになりつつも、再び目を開ける。
そこで、はっ、と気づく。
アリエルも霞も寝落ちしていた。。。意識を保っているのは自分だけ。
そして、アリエルの魔術の透明な膜も消えていたのだ。
そう、俺たちは今、自由落下をしている。
だけど、そのような感覚はない。色とりどりに変化する空間をまるで泳いでいるように、進んでいた。
再度、高度計を確認すれば、既に深度1000万mに達し、高度計の針はすごいスピードで回転している。
互いがばらばらにならないように、この空間を手を伸ばし、霞の腕を掴む。
「えっ。。。」
腕を伸ばし霞の腕を掴んだ。確かに掴んだ感覚があるが、差し出した自分の腕は、グネッと曲がって見えた。
意味が分からない。
とにかく、次にアリエルの胴体を鷲掴みにし、バラバラにならないように引き寄せる。
冷静になって再び、周りを見る。
自分の体を見るに、体があらぬ方向にねじれて見える。痛みがあるわけではない。至って正常だ。
どうやら、空間がねじれて、空間が歪んで見えるらしい。深度のある場所では、空間すら歪むようだ。
俺は再び深度計を見る。
数値はすでに深度1500万mを超えた。
おかしい。
1274万m。これが何の数値であるかご存じだろうか。
この数値は地球の直径だ。
深度計の数値は1500万m、、、おかしい。俺たちは今、地球の直径よりも深いところ進んでいることになる。
一体、これがどのような意味を示すのか。
深度計は壊れてない。だとすれば、我々の領知を超えた物理現象が起きている。
地球の直径よりも深い洞窟。意味がわからないけども、実際にそれが存在している。
この大迷宮と呼ばれる洞窟の最深部、それがこの世界。
多くの冒険者たちがロマンを感じ、目指した旅の終着地、それがこの世界か。
そうこう考えているうちに、やはり眠くなる。
互いがばらばらにならないように、霞の腕をひもで結び、アリエルの胴体をひもでグルグル巻きつけておく。
そして、、、意識が途切れた。




