67アースホール(タツヤ)
汚れたタキシードの俺と、もはや灰色に近い色のドレスを着た霞を、透明な球体の膜が包む。
その膜に包まれて、深い穴の中を進んでいく。
それまでの大迷宮は光苔の程度の明るさ、薄暗くはあったが、さらに暗くなっていく。
場所によって重力のかかる方向が違うようで、真っすぐに穴に落ちるわけでなく、穴は縦横無尽に三次元的な形状にひね曲がり、俺たちを包む透明な球体もその穴の方向に沿って進んでいく。
手元の高度計は深度10万mからさらに数字は下回る。
自分たちの進む方向を見れば、漆黒の穴の中の最奥に、虹色に揺らいでいる様子が見える。
「ねぇ、ちょっと、そろそろ生気が欲しいんですけどー。」
前回、グローリーホールを降りたときには、一定の間隔でRGF社の作った足場があった。そこで小休止を取りながらも、アリエルに生気を与えてアリエルの気を補給していたのだ。
だが、今回の大穴にはそのような足場はない。そもそも、わざわざ休憩取りながらでなくても、飛行しながら生気の補給ってできるんじゃねーか、ということで今に至ったのだ。
さて、アリエルはこちらをつぶらな瞳を輝かせて見ている。
「お前、わかってるよな。」
「え?何が?」
そう、先ほどアイギスとアリエルとの戦いで見ていた。アリエルは気の補給するのに、わずか一瞬だけ、指先に口を触れて、一瞬だけ生気を取っていた。
「お前、アイギスとの戦いで、生気をほんの一瞬で補給してたよな?」
「そ、そ、それは。。。あれは非常時で、時間がなかったので、ほんの一瞬だけだったのだけど、あれじゃ、た、た、足りないの、よねー。。。」
と、アリエルはこちらを見ずに真横を見ながら話してくる。
うん、嘘だな。
嘘を見破る魔術なんかが使えればいいんだけどな。
「まぁ、いいや、とりあえず霞から分けてもらいな。」
「え?あたし?ちょっと聞いてないんだけど。」
「よし、来た!」
「え、ちょ。アリエルちゃん?ちょっと、、、、あ。」
そのあとのことは耳を塞いで聞かないでおくことにした。
そんなこんなで、霞が生気を提供することもあれば、俺も提供する羽目になることもあり、どっちが生気を取られるかで喧嘩することもあれば、じゃんけんで公平にゲームすることもあった。
そんなこんなで、気が付けば、だいぶ時間は経過していた。
頭上はわずかに光苔の光、周りは真っ暗、そんな環境なので時間の過ぎる感覚も麻痺していたのだろう。
高度計を見れば、いつ間にか、ついに、深度100万mに達していた。
そして、足元を見れば、はるか先で虹色に揺らめいていたものが、もう目と鼻の先にまでだいぶ近くに感じられた。
「うーむ。」
と透明な球体の膜を操作しながらもアリエルは、虹色の揺らめくを物の正体を考えているようだった。
「何かわかったか?」
「腹減った。生気を頂戴。」
ドン!
おれはアリエルの頭にチョップを食らわす。
「いったー!今、音がした。金属製の鈍器で殴られたような音がしたー!」
「いいから、何かわかったか?」
「次元が歪んでるのです。時間も空間も歪んでるから虹色に揺らいでいるのです。」
アリエルは涙目になっているが、なるほど、そういうことか。
多分、さらに深層に達したことで、これ以上にも増して重力の影響が強くなる。それで時間や空間までもが歪み、虹色に見えるのだろう。
「ねぇ、それって、、、このまま進んで大丈夫なの?」
と霞は心配する。当たり前だ。俺も心配なのだ。
「アイギスの残渣は残ってるか?」
「えぇ、残ってるわね。アイギスは間違いなくここを進んでるわね。」
・・・。
足元には、虹色に空間が揺らぎ、時折、壁に埋め込まれたレッドダイヤがそれを反射するようで、非常に美しい自然が生み出す風景ではあるのだ。だが、その美しすぎる風景はある意味、不気味なようにも見えた。




