64深層10万mの先駆者たち(タツヤ)
俺たちは、霞が指さした、はるか先の壁にあいた大穴を目指して歩みを進めた。
とは、言っても、ここは未開の土地。しかも、目的とする場所は遥か先だ。
それに、ここは場所によって重力の方向が変わる。
しかも、アイギスとかいう奴にドレスとタキシードにされたままなので、歩きづらくて仕方がないし、どんどん汚れる。
まともに進めば、時間がかかりそうだ。
「だったら飛べばいいじゃない。」
と、アリエルは羽をバタつかせ、宙を飛びながらに言う。このシチュエーション、以前にもあった気がするのだがデジャブというのだろうか。
一応、アリエルの話も一理あるので、とてもとても嫌な予感しかないのだけど、アリエルの魔術で俺たちを透明な膜のようなもので包んでもらい、それで、飛行した。のだが、、、、
先にも書いた通り、この迷宮では重力の方向が場所で変わる。
なので、そのまま飛行すれば、次は右方向から、次は頭方向から、と次々に重力方向が激しく変わる。まるで、どこかのテーマパークのアトラクション。
重力場が変わるたび、俺たちはひっくり返ったり、霞の体に押しつぶされたりと、散々だった。
三半規管が狂って平衡感覚がなくなり、激しく酔う。
「ち、ちょっと。オエっ、、、押しつぶされそうって、オエっ、あたし、そんなに重くないわよ。オエっ。」
「オエっ、それよりも、アリエル、この魔術は中止だ。オエっ。」
「多少は酔うかもなのだけど、我慢すれば早いのです。」
「中止!うっ、オエっ。」「中止!うっ、オエっ。」
俺も霞も同意見で、この作戦は没になった。
そんなこんなで、初めての地底10万mの大迷宮をひたすらに、ひたすらに、歩き続けたのだ。
――
そして、この大迷宮を歩くこと、約数日。
ついに、目的の場所に辿り着く。あのときは、壁に大穴が空いているように見えてたが、ここに来ると、重力の方向が違うので、地面に大穴が広がっていた。
グローリーホールのように、下に落ちるタイプの大穴ではない。
重力場の方向が違うせいか、あらぬ方向を向き、三次元的にひねった構造をした大穴だった。
「アースホールなのです。」
「アースホール?」「アースホール?」
アリエルの言葉に、俺も霞も同じ反応をする。
「昔、アイギスから聞いたのです。さらに深い大穴があるとか。その大穴は地球の直径を超えるほど深いのだとか。」
「いや、ちょっと意味が分からない。地球の反対側に抜けるっていうこと?」
「よくはわからないのです。重力場が大きく変化して、地上の物理法則の成り立たない世界なのだとか。」
「ふーん。」
俺も、霞も再び穴の中を覗いてみる。
グローリーホールは漆黒の闇が支配し、底のまったく見えない穴だったが、この穴は違う。
はるか穴の奥に、なんとなく虹色のグラデーションで、まるでオーロラが蠢いてるかのようにも見えた。
以前に霞が指摘した大穴の近くにあった人工物のようなもの。大穴の淵付近に何か、それっぽいのないかと、探してみる。
「あら、こっちに何かあるのです。」
ふと、アリエルが何かを見つけたようだった。
アリエルが飛んでいた先には、焚き火の跡やら、ゴミやらが散らかっていた。
「ねぇ、これって。」
俺と霞は顔を見合わせた。俺も、霞ときっと同じことを思っただろう。
過去にグローリーホールに飛び込んだ者は多数いた。そして、誰もラビリンスに戻ってきた者はいなかった。
その者達がどうなったのかは、わからない。誰も口にはしないが、皆がグローリーホールの地底に辿り着くこともできずに、無残な最後を遂げたと、心の中で思ったに違いない。
だが、目の前の残骸は、それを否定するもの。
「俺たちよりも前に、ここに来た人がいるんだ。」
全員であるかはわからない。だけど、少なくとも、ここに辿り着いた冒険者はいたんだ。
彼らは、人生をかけて、グローリーホールに飛び込んだはず。グローリーホールの先にある夢をかけて、すべてをしょい込み、グローリーホールへ飛び込んだ。
人はそれを無謀と言うかもしれない。けども、その無謀とも思える行動は決して無駄ではなかったんだ。
「あら、まだ、こっちにも何かあるのです。霞が見つけたテントっぽいのはこれなのです。」
アリエルが飛ぶ先には、岩壁の脇に、古い布切れで張られたテントがあった。
ここで寝泊まりしたのだろう。中には古びた茣蓙が敷かれ、ゴミが散乱していた。
ただ、気になったのは、そこに、幾ばくかの紙切れが残っていた。
「おい、見ろよ。」
その紙切れには、文字が残されている。おそらくは、寝泊まりしていた冒険者が残したものだろうか。
「ねぇ、なんて書いてあるの?」
「う~ん。」
そこに残された紙切れを見ると、文字が書かれ、書き置きのように見える。だが、文字が昔の文字だ。
なんて書いてあるのかは読めない。
「でも、これって、これまでに、ここに到達した人がいるってことよね?」
そう、その通り。
今まで、誰も到達したことがないと思われていたが、少なくとも誰かが、ここに来たという証拠なんだ。
「あっ。」
読めない紙切れをパラパラとめくっているうちに、ふと、見慣れた文字で書かれた紙切れが混ざっている。
字は汚いけども、間違いなく現代の文字だ。紙切れもボロボロではなく、比較的新しい。
「ねぇ、ちょっと、これって。。。」
「あぁ、ちょっと待って、読んでみる。」




