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62夏祭り

 

 大迷宮地下都市ラビリンス。ここは地下1万mの世界。

 当然、日の光など入らず、今が昼なのか、夜なのかすらわからない。気温も昼夜を問わず年間を通じてほぼ一定。それどころか、今が夏なのか、冬なのかすらわからない。

 ここにいると、時間の感覚に加えて、四季の感覚すらもわからなくなる。


 人々がここに移住して、もう何年も経過する。若い世代は、昼と夜、夏と冬すら知らない子も増えている。

 それでも、四季の感覚だけは忘れまいと、ある時期になると、夏祭りが行われる。


 その時期になると、ラビリンスで一番大きな広場にある大木を中心に、提灯が所狭しと飾られ、大木を取り巻くように円形状のステージが設けられ、太鼓の音や、ライブの演奏が響き渡り、みな、浴衣を来て、その場所を輪になって楽しむ。

 広場の周囲にはいろんな出店が出され、活気が溢れる。

 ここは大迷宮の中だというのに、花火も打ち上がる。提灯虫の明かり照らされているので、闇夜ではないが、それでも薄暗いので十分に花火を楽しめる。


 ある者は親しい友人同士で、ライブを楽しみ、出店で買い食いし、花火を見て大騒ぎする。

 ある者は、愛しい人と二人で一緒に踊り、ここぞというタイミングで、プレゼントを贈り、そのあとは、二人で肩を寄せ合いながら花火を鑑賞する。

 いつもとは違う特別な日。

 それなりに人口の集まった大迷宮都市ラビリンスだが、この日だけではいつもにまして人で溢れかえる。

 そんな日が一週間に渡って続けられるのだ。


 それが、いつものラビリンスの夏祭り。

 だけど、その日だけは違った。

 それは夏祭りの最初の初日のことだった。

 ステージでは、どこかのバンドがちょうどライブ演奏をしていた。


 カーン!カーン!カーン!


 そのライブの途中で、非常用の鐘が響き渡った。

 その音は、それまでの大音量のライブの音を打消し、輪になって集まっていた人たちの歓声を打ち消した。

 いつもは大都市にしか見えないが、その鐘の音が響き渡る様子はこの都市が地下に洞窟であることをいやでも教えてくれる。


 人々は、突然のことに戸惑った。

 ここラビリンスで非常用の鐘がなるのは初めてだ。

 みな、何をどうすればいいのか、わからず戸惑っているのだ。


 ズドーン!


 突如、付近から轟音が轟き、付近からは白煙が上がる。

 そこに、空中を浮いている人間がいた。


 いや、正確には人間ではないかもしれないが、このラビリンスに住む者からは、そのように見えただろう。


 みな、その空中に浮かんでいる人間に注目する。

 この世界には魔術というものがある。もちろん、中には空を飛ぶという魔術もあるので宙に浮くこと自体は珍しいことではない。

 だが、目の前のように天井高く空中に留まり、長く空中に浮くことができる者はそう滅多にいない。何よりも、非常用の鐘が鳴り響き、轟音が轟き、白煙が上がっている状況下で、これは明らかに異様だ。


 徐々に白煙がおさまると、その宙に浮かんでいる人間の姿が徐々に明らかになる。

 深紅のドレスに美しい銀髪、美しいオッドアイの瞳、それは一見すれば、多くの人が心を蕩けたであろうほどに美しい女性に見えただろう。


 その女性は片手を前に出し、一言つぶやく。


「これが人間どものコロニーか。まるでアリの巣じゃな。」


 すると、前に出した片手からは暴風が巻き起こる。

 目の前の建物は次々に暴風に巻き込まれ、次々と崩壊していった。

 それを見た途端に、周囲の人間たちも、何が起きたのかようやく気付き、皆、あらゆる方向に逃げ始めた。


「くっ、くっ、くっ、逃げまどえ、憎き人間どもよ。」


 そして、なおも、宙に浮かんでいる女性は、このラビリンスの破壊活動を続けるだった。

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