60グローリーホールの奥から(ダン)
私は、冒険者ダン。
ちょうど、グローリーホールの近くで、職業安定所、通称、冒険者ギルドの任務を遂行中だったのだ。
作業をしていると、突如、グローリーホールの方から強い光が見えた。
振り返って、目を凝らしてみれば、グローリーホールの大穴の真上に人が浮いているのだ。
びっくりした。
人が浮いているだけでも、十分凄いのだが、それが、深紅のドレスを着た銀髪の美女なのだ。
しかも、その深紅のドレスの美女がRGF社の兵と戦いを始めたのだ。
相手はRGFの赤髪。
RGFの赤髪といえば、RGF社の民兵の曹長である。冒険者の間ではその社畜ぶりで有名だ。その社畜ぶりは、まわりの冒険者も憐れむほど。
その仕事ぶりは、社畜と言われるほどあって、完璧だ。
だが、彼女が真の実力を発揮するのは、仕事ではない。実戦だ。
彼女はこのラビリンスで数少ないAランク冒険者だ。
最初は、赤髪と深紅の美女が鍔迫り合いを3、4回した。さすが、RGFの赤髪である。
赤髪の剣が青く光っていたから、おそらく、剣に魔術を纏わせた魔術剣なのだろう。一方、深紅の美女も手元に、剣ではないが、何か棒状のハエ叩きのようなもので応戦していた。
鍔迫り合いが起きる度に、この迷宮が崩れるかのような振動がして、爆音が轟いた。
けども、そのあとは、わずか一刀で決着がついた。
深紅の美女がハエ叩きの先に、気の塊のようなものを錬成した。
それは禍々しい紫色をし、それが明滅していた。
大きさはそれほどでもないが、信じられないほどの「気」を濃縮したものであることは、遠目でもわかった。
そして、それを大きく横一線に振りかぶった。
すると、どうだ。
まるで、弾薬の倉庫に火が着いたかのように、とてつもないほどの爆発が起き、この大迷宮の壁を抉り取ったのだ。
それで、決着がついた。
私は、当然、赤髪のほうが勝つと思っていた。
だが、結果は深紅の美女だった。ほんの一瞬のできごとだった。
まさかとは思った。もう一度言うが、赤髪はラビリンスで数少ないAランク冒険者なのだ。
赤髪と直接対戦した冒険者はあまりいないが、あの大耳熊を一撃で倒しているのは、なんども目撃されている。
その赤髪がわずか一瞬でやられた。
それだけではない。
赤髪は応援部隊を呼んでいた。
その戦いの直後に、RGF社の兵士が大量に集まった。赤髪が倒れているのを見るや否や、すぐに戦闘態勢になった。
先日、RGF社の民兵とあるDランク冒険者の戦いがあったのを知っているだろうか?
相手はDランクの冒険者一人、どう見てもRGF社の民兵が勝つだろうと、誰もが思った。
RGFの兵士はごろつきの寄せ集めだが、一人一人が洗練されていて、強兵だ。
それが、たった一人、しかも、魔術が使えないDランク冒険者によって壊滅された。
あれは衝撃的であった。
今回もRGF社の兵士が集まって、あの銀髪の美女を取り囲んでいるが、あのとき以上の衝撃が目前で起きた。
銀髪の美女はため息を漏らしてこう言ったのだ。
「はぁ、まったく、邪魔じゃ。」
そして、何をしたと思う?
指先に小さな青い炎を出したかと思えば、それをRGF社の民兵軍団に放出した。
普通の炎ならば、水の魔術や風の魔術でもかければ、鎮火するだろう。その炎は何をやっても消えなかったのだ。
瞬く間に、青い炎が広がり、もう、RGF社の軍団は大混乱となった。
しばらくすると、銀髪の美女の周囲は、倒れた兵士で埋め尽くされていた。
周りにも冒険者たちはいた。
この光景をみて、彼女を止める者など皆無、というよりも、止めることなど出来ないだろう。
その銀髪の美女は、一通りのことが終わると、こう言っていた。
「ふぅ、まったく、妾に歯向かい追って。これだから人間という種族は憎たらしい。我ながら、なぜこんな劣等種を作ってしまったかの。とっとと一掃するかの。」
まるで、強者たる発言。そして、まるで人間を劣等種と見下しているかのような発言だ。
そして、こちらの方へは一切見向きもせず、この大迷宮の上層のほうへと移動していった。
強い。強すぎる。
もし、あの女が大迷宮都市、ラビリンスに行きつけば、大惨事が起きるだろう。
この大迷宮にいる人間たちは、皆、地上での戦禍を逃れてこの大迷宮に行きついた人たちなのだ。
だというのに、再び、禍々しい戦禍が起きようとしている。
あのRGF社の軍団でさえ、まったく相手にならなかったのだ。
起きるとすれば、地上で起きていたような戦争ではない。あの女による一方的な蹂躙だ。
自分も含め、その場にいた冒険者たちは、誰も銀髪の女を止めることもできず、ただ傍観することしかできなかった。




