44最高血種の姫(タツヤ)
グローリーホールの地底に辿り着き、目の前の立派な城に向けて、ゆっくりと歩みを進めていた。
隣で霞は、歩みを進めながらも、途中で多数見かけるレッドダイヤの巨大な結晶に頬ずりをし、頑張ってその結晶を持ち出そうとするが、人よりも大きいのだ。
。。。いや、無理だろう。
諦めたか、付近に落ちた小さなレッドダイヤの破片を集め、自分のバッグに詰め込んでいる。
まるで小動物のような行動で、見ていて飽きない。
歩みを進めると、この深層での不思議な現象に気づいた。
当初、城は天井と壁からニョキっと逆さに建っているように見えたが、歩みを進めると徐々に城が正中して建つようになる。
後ろを振り返って見返せば、それまでの歩いた道が、上下逆さに天井に張り付くかのようになっていた。
なるほど。
おそらくだが、ここ地底10万mの世界では、重力の向きが場所によって違うのだ。自分いた場所と、あの城が建っている所は、重力の方向が180度違うということだ。
不思議な世界だ。
「不思議な世界ね。」
「そんなことはないのです。この大迷宮の深層になると、意外とそういうのがあるのです。」
霞とアリエルが、たわいのない話をしながら、歩みを進めると、ついに、城の門前にきた。
その先には古びた階段。
階段を登っていくが、城自体は随分と昔に作られたようだ。石材とレッドダイヤで作られたようだが、石にはヒビが入り、ツタで覆われている。
城の中へと入ると、ホコリと蜘蛛の巣だらけのレッドカーペットが真っすぐに敷かれている。天井には、蜘蛛の巣だらけのシャンデリアが吊るされ、無数の蠟燭が設けらている。
ゆっくりと歩みを進めると、壁には巨大な肖像画が描かれている。深紅のドレスを纏った銀髪の少女の絵、青い右目と赤茶色の左目が特徴的だ。
「凄いわね。あの肖像画は誰かしら?」
「さあな。」
「。。。」
霞は、巨大な肖像画を食い入るように見ているようだ。
一方で、アリエルは、俺の横を飛んでいるが、口数が少ない。気のせいか、冷や汗をかいてるようにも見える。
「アリエル??」
「さ、さぁ、誰かしらね。」
「アリエル、大丈夫か?何か、お前、隠してないか?」
「そ、そんなことないわよ。ほ、ほ、ほ。」
怪しい。。。
さらに奥へと歩みを進める。
長く続くレッドカーペットのその先は、数段の高くなって祭壇が設けられている。
祭壇の先には、豪華な玉座だ。
なのだが、、、その最奥の玉座に座していたのは、白骨化した死体だった。
「えっ、うそ。ちょっと。。。」
それが白骨化した死体だと認識できると、霞は驚き、自分の袖口を掴む。
俺も白骨化死体とわかると、驚きはしたが、長年、放置されたのだろう、と勝手に納得する。
「おい、アリエル??」
だが、アリエルは、その白骨化した死体に近づき、どこで拾ったのか、木の枝で突っつくのだ。
当然、死体なので、反応などない。
「さっき、言ったでしょ。バンパイヤがいるって。もう、死んでるようだけど。」
死体にはホコリこそ被っているが、深紅のドレスが残っていることから、白骨化した死体は女性なのだろう。
「ふ、ようやく死んだようね。あいつ。ざまぁ。」
と言いながらも、こちらへと戻ってくる。。。の、だが、、、、
大広間の中は光が入らないせいか、薄暗い。
だが、先程、見上げた豪華なシャンデリアの蝋燭に、突如、次々と独りでに火が灯された。
そして、再び、玉座の方では、、、
「ち、ちょっと、何よ、あれ。」
霞は、再び、俺の服の袖を思わず掴む。
「お、お、おい、アリエル。う、後ろ、後ろ。」
アリエルが後ろを振り返ると、先程の白骨化死体に変化が起き始めていた。
突如、白骨化した骨に肉芽が形成され始めた。肉芽は徐々に厚みを増していき、それは徐々にと人の形へと変化する。そして、徐々に人の顔が形成され、時に老婆の顔となり、時に幼女の顔となる。
そして、最後に、その顔は、美しい年相応の女性となる。
「ちっ、生きてたか。タツヤ、気を付けて。バンパイヤは死んでないのです。」
彼女の着ていた深紅のドレスもホコリを被っていたはずだが、ホコリは取り払われ、深紅の鮮やかさが発色する。
ぺちゃんこであったドレスに、立体感が生まれ、大きく開いた胸には、豊満な谷間が覗けるようになる。
そして、そこにいた女性は玉座からゆっくり立ち上がった。
先程の肖像画に描かれていた少女と瓜二つ。
銀髪で、髪艶がキレイで背中まで伸びるほど長い。髪に施された豪華な髪飾りが大人っぽさを引き立てながらも、青い右目と赤茶色の左目、オッドアイが特徴的。深紅のドレスが、その美しさを引き立て、開いた胸からは豊満な谷間に目線が行ってしまう。
さらに、なぜか、手には大きめのハエたたきを持っている。
えっ、何で?
ハエたたきはともかく、その姿は美しく、背中に伸びた髪をまとめ上げながらも、その吸血の姫は声を発した。
「久しぶりじゃな。この羽虫が。」
どうやら、妖精アリエルのことを知っているようだ。虫扱いするのはどの世界でも同じようだ。
うん、わかる。だって、こいつ、うざいもん。
「あら、まだ、生きてたのね。バンパイヤ。」
「おい、お前、バンパイヤと知り合いなのか。」
アリエルが答えるよりも先に、玉座の女性はこちちへと鋭い目線を向ける。
「ふん、人間か。バンパイヤじゃと?ふざけるな。バンパイヤなどは、どこぞの人間ども勝手に名付けたおった下賤な名前じゃ。妾は最高血種の姫、アイギスじゃ。よく覚えておけ。」