4物語の始まりの始まり(タツヤ)
大迷宮が出現して以降、多くの者たちがこの大迷宮に挑んだ。
もちろん、この大迷宮の未だ誰も到達したことがない地底を目指すという目的あるが、そこにはレアメタルの鉱床や地上にはない地下資源があり、高値で売買される。
さらに、この大迷宮には地上では見られない生物が生息し、その角や牙なども高値で取引される。
要は、金だ。
冒険者たちはこの大迷宮の最深部を目指して冒険をしているが、当然、経費は必要にかかる。
なので、こうして鉱石や動物の角や牙を採取して、生計を建てている。
自分も最初はそうやって、最初は過ごしていた。だが、あるとき、ふと気づいた。
大迷宮とまで呼ばれているのに、この洞窟の情報が少なすぎる。
情報が揃っておらず、冒険者は、自身で地図を作り、個別に情報交換をしていた。
なので、まともな地図など皆無。冒険者が適当に書き込んだお絵描きレベルでの地図、根も葉もない噂で地図が作られ、悪質なものは、まったく偽物の地図が出回りもした。
そこに目をつけた。これはビジネスになると。
これまでも何度も何度も、運命のなすがままに世界を転生してきたが、それでも生きて行くには金がいる。
ということで、冒険者ではあるものの、冒険者稼業は引退し、地図を作って生計を建てていた。
今日も最前線に出向き、地図の測量をするのだ。
測量といっても、GPSの電波が入るはずなく、重力の影響か光がグインと曲り、とても地上と同じ測量器で測量できる代物でない。
信用できるといえば、コンパスと自身の足だけ。
なので、今日もコンパス片手に大迷宮の測量を進める。
今日の調査区画は、新種の鉱物の鉱床が大量に発見された区画だ。
鉱床は最初に見つけた人に権利が与えられる。なので、大鉱床が見つかると、迷宮都市ラビリンスにある資源開発会社が、大量の作業員を派遣し、数の暴力で付近の鉱床の採掘権を独占的に支配してしまう。
さらに、社有の民間兵を投じ、常に見張りをしている。もしも、何も知らない冒険者が会社の鉱床を手を出そうものなら、巡回する民間兵に見つかり、捕まってしまう。
しかも、この民間兵というのがそこらのゴロつきを集めたような集団で、これがタチが悪い。
特にラビリンスを拠点とする資源開発会社の最大手、Royal・Gulf・Fuel社、通常、RGF社が有名だ。
なので、RGF社の民間兵達が冒険者を追いまわし、「おい、待て!!」というやり取りがなされることがあるが、珍しいものではない。
そして、今日も地図調査を進めているその脇で、
「おい、そこの女、ちょっと待て!」
と言ったやり取りが起きているが、いつものことだ。
そのやり取りに目を止めず、淡々と測量を続ける。
「ちょっと!RGFの鉱床だとは知らなかっただけなの!」
「知らなかったじゃ、済まねんだよ!」
だが、少々気になってチラッと目線をそちらのほうへと向けてしまった。
一人の女性冒険者の後ろを、複数人の紺色の軍服を来た民間兵が追いかけまわしていた。
それは別にいつもの光景。けども、俺の目線はその先の女性冒険者へと注がれた。
服装は、そこらの冒険者と何ら変わりない。
別に普通だ。
ドクン!
だというのに、彼女を見た瞬間、なぜか、胸の鼓動が大きく波打った。
冒険者の女性は走って逃げるが、洞窟は行き止まりなる。追いかけていた民間兵たちは彼女を取り囲み、手に炎や、氷の魔術を纏わせる。
「なぁ、姉ちゃん、鉱石は返してもらえばいいんだけどよ、こっちは手間がかかってんだよ。手間賃を払ってもらわんと、割に合わねぇんだよ。あぁ、でも姉ちゃん、キレイだからちょっと付き合ってもらうだけでもいいぜ。」
「あらぁ、それはうれしいわ。でも、あたしは結構高いわよ。手間賃ぐらいじゃ、釣り合わないわね。」
RGF社の民間兵にはロクな者はいない。こうやって金を巻き上げるのもいつものこと。
なのに。。。
ドクン!
いつもならば、自ら騒ぎには突っ込んだりしない。余計なことをしなければ、何事もなく過ぎ去っていく。
だというのに、彼女の顔を見た瞬間、それはダメだと拒絶反応をするかのように、心臓が大きく波打つ。
ドクン!
一体これは、何だ。
そう、これが彼女との最初の出会いだった。