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37彼に手を差し伸べる者(タツヤ)

 

 自分は何度も転生を繰り返した人間だ。

 転生前に数度だけ、人生のうち、楽しい期間はあったものの、それもほんの一部。そして、俺は死に転生を繰り返し、人生の大部分を孤独な世界で生き延びるために費やした。

 自分の人生の大部分において、人との交流などなかった。

 あるといえば、人間として、人間らしい生活をするうえでの必要最低限の常識程度。すなわち、店員さんと会話するとか、お金で買い物するという程度の常識。つまりは、それ以外には、何も持ち合わせてない。


 そして、孤独。

 そして、転生した先の多くは、戦争。

 生きるためには、人と戦うことが常識の世界。


 だから、自分には、ラビリンスに住まう人たちと比べれば、決定的な感性が欠落していのかもしれない。


 人を傷つけることに何もためらいはない。

 邪魔するものはすべて排除する。

 生きるためだ。

 むしろ、そうしなければ、生き抜くことなどできなかった。


 小太刀を振るたびに、空中に赤い鮮血が飛び跳ねる。

 その血飛沫は顔に当たるも、刀を持つ手を止めることはない。


 未だ、眼前には大量のRGFの兵士たちが押し寄せる。だが、自分の技能からすれば、負けるわけがない。

 次々と兵士たちを倒していく、その異常とも見える光景は表現のしようがない。

 掃除機のような殺戮マシーンに、次々と兵士が吸い込まれ、そして、通過したあとには、兵士たちの倒れた姿しかない、とでも表現するのだろうか。


「な、何だよ。こいつ。」

「や、やめろ。」

「おい、や、やべぇよ。こいつは。」

「嘘だろ。。。逃げんぞ。」


 その異常さにようやくRGFの兵士たちも気づき始めた。中には戦意喪失し、逃げ出そうとする者もいる。だが、自分の間合いに入ったものは、すべて餌食となる。

 次々と空中に飛び交う鮮血、戦場から上げる悲鳴、それは自分の過ごしてきた戦場からすれば、至極当り前の光景なのだ。

 目の前にいる者、邪魔する者がいれば、すべて斬り捨てる。それが自分のこれまでの戦いなのだ。


 だが、、、小太刀を構え、周囲を洞察するわずかの瞬間、


 バシッ


「ち、ちょっと、タツヤ、、さん??」


 間合いに入れば、確実に剣戟を受けるという状況の中で、霞が間合いにしれっと入り、俺の腕を掴んだのだ。

 この状況下でしれっと間合いに入り込むという事自体が凄いことであり、さすが高ランクとも言うべきなのだろうが、今は、それどころではない。


「!」


 ふと気づけば、すでにRGFの兵士たちの半分以上が地に伏していた。まだ、地に伏してない兵士もいるが、戦意を喪失しており、攻撃してくる様子はない。

 まるで、それはこの世の地獄。地面は赤く染まっている。


「・・・。」


 未だ、多数の冒険者が集まっており、ギャラリーはたくさんいた。だが、その光景を前に口を開くものは誰もいなかった。

 それまで、博打で大騒ぎしていたのが、嘘に見えるほどの静寂。

 もう、博打など、どうでも良くなっていた。

 静まり返った空気。しいて言えば、グローリーホールの大穴から大迷宮へと空気の流れるヒューっという音がうっすらと聞こえるぐらいだった。


 その光景を見れば、どちらに勝負があったかは一目瞭然だろう。


 その静寂が響く大迷宮の中で、RGF社の大軍を率いてきた軍団長とおぼしき人は、突如、赤髪の女兵士の曹長に向けて怒号を放つ。


「おい、朱音ぇぇぇ!!何だこれはぁぁぁ!!わかってるだろうな。RGF社のメンツにかけて負けは許さん!!貴様らもだ!」

「は、はい、であります。」


 RGF社の兵士たちは、戦いに戦意喪失しているようであった。だが、軍団長の怒号に再び武器を構える。

 そして、赤髪の女兵士を筆頭に再び、自分に向けて切り込んでいく。


 タツヤは、再び小太刀を抜刀し構えをとる。

 だが、霞は腕を離そうとしない。


「ね、ちょっと。あなたの目的はRGFの兵士を倒すこと?違うでしょ。もう、いいわよ。やり過ぎよ。」


 その言葉にタツヤはハッとした。

 もしかすると、霞の言葉ではなく、腕を掴んで話そうとしない霞の顔が目に入り、あの人によく似ていて気づいたのかもしれないし、話そうとしない腕が霞のほのかな胸の膨らみに当たって気づいたのかもしれない。


 だけど、ふと気づいたのだ。


 だって、いつも、そうやって、邪魔するものはすべて排除してきたのだ。

 何度も何度も繰り返す転生で、与えられた転生の世界を生きるために邪魔するものはすべて排除し、自らのやり方を貫く、それが今までやり方だったのだ。

 だが、霞に言われたことで、違うやり方があるのではないかと、気づきを得たのだ。


「ほら、グローリーホールに行くんでしょ。だったら、こんなの相手してないで、行くわよ!」


 霞は、タツヤの腕を掴み、強引にグローリーホールの方へと逃げるように走る。


「霞?」

「いいから、そんなの相手にしないでいくわよ。。。もう、博打は十分すぎるほど稼いだわ。」


 それを追いかけるように、RGF社の兵士たちも追ってくる。


 うん?ちょっと待て、霞の最後の言葉は何だ?まさかのさっきの「やり過ぎよ」というのはお金のことだったのか。


「ま、待つのであります!!」


 RGF社の先頭はあの赤髪の曹長。その見た目からは思えないほどに足がはやい。

 霞は、タツヤの腕を掴みながら走っているので、時間をどうしても要してしまう。だが、すぐに目と鼻の先にグローリーホールのあの漆黒の大穴が見える。


「アリエルちゃん!いる?」

「はい、なのです。準備はOKだから、そのまま、穴へダイブしてOKなのです。」


 アリエルも並走するように、空中を飛んでいる。

 どうやら、事前にアリエルと作戦は立てていたようで、霞はそのまま、グローリーホールの大穴へダイブするつもりだ。

 だが、タツヤはそれを強烈に拒否する。


「ちょっと待て。いったん落ち着こう。こういう時に限ってあの羽虫はなんかやらかすんだ。」

「な、失礼なのです!」

「もう、無理よ!後から追いかけられているし、それに、もう、止まらないわ!」


 霞はタツヤの腕を掴みながら、グローリーホールの大穴の淵までくると、タツヤと一緒に身を放り投げるように大穴へとダイブした。


 そこに、あの赤髪の曹長も大穴の淵に辿り着く。

 ダイブしたグローリーホールの大穴を覗きながら、ボソッと囁く。


「あの、、、できればあたしも一緒に連れっていって、RGF社から抜け出したかったのであります。」

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