3 巨大地下迷宮都市(主人公)
ここは世界でも有数の大都市、東京。そのど真ん中にそれはあった。
巨大な陥没穴。その穴は遥かに深くまで通じ、巨大な地下空間の洞窟をなしていた。
この世界での人間が到達可能な世界の地下最深部といえば、トルコの近くのジョージアという国にあるクルーベラ洞窟で、地下約2200m程度だそうだ。
だが、この洞窟はその深度をゆうに超えた。とてつもない広い空間が、少なくとも深度1万mまで続き、未だ、その地底はみえない。
そして、戦禍を免れた人々は、その地下空間に移り住んでいた。
すでに、人々が地下へと移住して長い年月が経過したという。
彼らは地下1万mにある巨大地下空間に都市を作た。ここが地下だとは思えないほどの巨大な地下空間に、高層マンションや、商業施設、発電所や浄水場など、戦禍の起こる前の地上と遜色ない大都市を形成した。
巨大地下迷宮都市「ラビリンス」。それが都市の名前であり、彼らはこの巨大洞窟のことを大迷宮と呼ぶ。
人々は地上世界と変わらない生活をしている。商店があり、居酒屋があり、発電所があり、遊園地などの娯楽施設もある。だが、地上の都市とは違う点もある。
一つは大迷宮の地底が未だ知れぬこと。大迷宮の地底に達したものは誰もいない。
それは人々を魅了させ、ここラビリンスでは、冒険者と呼ばれる職業を誕生させた。現在もなお、地下の最深部に向けて、多くの人々は冒険をやめない。
さらに、他の洞窟とは違い、動物、昆虫、爬虫類など多様な生物が生息している。人に危害を与える肉食動物もたくさんおり、冒険者は、それをゲームやアニメにたとえ、魔獣と呼んでいた。
もう一つは、魔術だ。
これまで転生した世界では、魔術を使う世界もあったので、珍しいものではない。だが、この世界を生きてきた人たちには珍しいのだろう。
魔術の正体は気功だ。時代や地域で、気功のことを魔術と呼んだり、妖術など称したりしているだけだ。
この大迷宮では、原理は不明だが、地上よりも遥かに気を錬成できる。
すると、どうだろうか。気を使って物を動かすこと、衝撃を与えること、火を放つこと、ができるようになった。
そして、一部のアニメ好きな冒険者が、気功のことを魔術と呼び、それがいつの間にか定着した。
当初は、大迷宮探索時に魔獣などに襲われ、事故や怪我が絶えなかったという。
そこで、地下迷宮の仕事の斡旋を行っていた職業安定所が冒険者の管理を始めた。
冒険者を技量でランク分けし、仕事内容に制約を設けたのだ。
今では職業安定所は冒険者の間でギルドと呼ばれている。
ランクにはF~Aランクと上位のSランクがある。Fランクが低レベルでAになるほど高ランクだ。
Cランクからは魔術が使えるという条件が課される。下手でも魔術が使えればC、高度な魔術になるとBランクだ。
そうすると、お気づきなったと思うが、CとDランクの間には、超えることのできない壁がある。
つまり、魔術を使える者と、使えない者。
Dランク、要は、魔術の素質に恵まれず、先の将来を絶たれた者。そして、この超えることのできない『壁』こそが、巨大地下都市「ラビリンス」に格差社会というものを形成しつつあった。
魔術を発見した当初は、魔術が使えれば十分強いという先入観でもあったのだろう。
これまでの転生でも魔術は幾度となく見たが、魔術なんぞ使いこなせなければ意味がないんだがな。
さて、これが今回の転生した世界だ。
幾度となく転生を繰り返したが、ある意味腐れ切った格差社会が形成しつつある大迷宮から物語は始まる。
ところで、自分はという名前だったか。何度も転生を繰り返すと、自分の名前すら忘れてしまう。
ここは、この世界の住人達と似たような名前として、「タツヤ」と名乗ることにしよう。