196荒廃した地上にて(霞)
荒廃したはずの地上。
人がいないせいか、そこには満天の星空が広がり、天の川くっきりと見える。じっと目を凝らしていれば、いくつもの流星が流れている。
一人だとこんなに静かなのね。最近はいろんな人がいたから。
でも、大丈夫。一度、人は道を踏み外しても、ラビリンスやノヴァリスのようにもう一度復興した。
道を外したって、ちゃんと元に戻ればいいんだから。
だから、心配は何もしてないの。それに、あのグレゴリーという人とか、朱音ちゃんに、ベベル達も、もう、みんな復興に向けて動き始めている。
あたし達の未来には希望しかないの。
きっと、これから再び、復興してにぎわいを取り戻すと思うのよね。
ここは前にね、彼があたしを連れてきて告白してきた場所、ではないけれど、それとよく似た風景。
あのときは、ラビリンスの天井にまるで満天の星空のように洞窟が輝いたわ。
でも、これは、本物の星空。
ノヴァリスもラビリンスも戦争でいろいろダメになってしまったから、今、地上を照らす光は一切ないの。
本当に真っ暗な中に、無数の星が輝いて、天の川の中の一つ一つの星さえあんなに綺麗に輝いて見えている。
本当に真っ暗だとすごいわね。まるで流星雨のように流れ星が止まらないの。
こんな世界、実は初めてではないのよ。あたしが転生して、気づいたらこの世界にいたときもそうだった。その時の似たような光景が、不思議とたまに頭の中で再生されるのよね。
あたしには記憶がない。でも、不思議と似たような光景を覚えている。
きっと、これはあたしの知らない記憶が勝手に再生されているのかも知れないわね。
あたしはね、この世界で、ふと気づいたときには、この荒廃した地上を歩いていた。誰もいない廃墟だけの地上をひたすらに歩いていた。生きるために、がむしゃらに歩いていた。
生きるのに必死で、あまり記憶がない。だけど、唯一、この星空だけでは、覚えていた。夜、何もないあたしにとって、唯一の宝物でした。
そして、あるとき、この地下迷宮を見つけ、冒険者になり、そして、彼と出会ったのよね。
彼と出会ったとき、確かに記憶の片隅で、昔、彼と出会ったような、そんな感触はありましたよ。でも、昔の記憶がないあたしには、それが何なのかまで突き止めることはできなかったのです。
でも、今では、あたしは彼に感謝しています。
ありがとう。
あなたが、いなければ、今のあたしはいなかった。
記憶がなく、ただ、生きることに必死だったあたしに、仲間という楽しみを教えてくれた。ありがとう。
あたしが、生きるために金稼ぎしか目的がないときに、それ以外の目的を教えてくれた。ありがとう。
あたしが、死にそうになったときに、全力であたしを助けてくれた。ありがとう。
「そして、あたしは、なんだかんだで、意外とあなたのことが好きですよ。」
あなたは、転生する前の世界のあたしに思い寄せてくれたようだけど、その昔の記憶というものはありません。なので、あたしは、あなたが転生する前の世界の彼女にはなれないでしょう。
だけど、あなは、そんなあたしを、今のあたしを「好き」だといってくれたのです。ありがとう。
嬉しかった。
「今、あたしが、あなたへ贈ることができるプレゼントはこの星空ぐらいしかありません。」
記憶がないあたしには、それぐらいしかできることがないのです。と、ちょっとばかし、かっこつけに独り言をこぼします。
強いて言うなら、あたしが、あなたに出来ることといえば、
「あとは、あなたのための盾になるぐらいでしょうか。記憶はないけれど、転生したおかげで魔術だけはあなたにも誰にも負けませんからね。くすっ。」
そうやって一人、あたしはこの地上を歩いていたのですが、
「ありがとう。」
突然、背後から彼の声が聞こえたのです。
「えっ、」
と思ってすぐ、振り返るとまさか、タツヤがちょうど偶然にも背後を散歩していたのです。
全部…、聞かれていた………?いや、いや、いや、ちょっと待て。恥ずすぎるわ。
きっと、あたしはあまりの恥ずかしさに赤面していたでしょう。
でも、彼は近づいていて来た、あたしの手をとり、優しく包んでくれました。
「俺も好きだ。」
片手がぎゅっと、彼の自分よりも少し大きな手によって包まれ、ほんのりとそのぬくもりが伝わってきました。
「ねぇ、あたしのことどこが好きなの?」
「かわいいところ、実は優しいところ、金にしか目がないところ、そいうのが全部好きだ。」
「金にしか目がないというのは言わないでいいのよ。あたしはね、転生した人。きっと、あなたのいう大学の先輩だったとしても、もう、記憶はないの。」
「わかってるさ。昔の転生する前のあの人のことも好きだ。だけど、今の霞が好きなんだ。」
「ありがとう。あたしね。この世界きて、ずっと独りだった。この地上をずっと独りで歩き続けて、生きるのに必死で歩き続けて、そして、あの迷宮に来て、あなたと出会えた。最初は、ただのキモイ隣人と思っていたけれど、こうして、いっしょに冒険出来て、それが本当に嬉しかった。あたしさ、結構、強がってたのよ。でも、あたなはそんなあたしをも受けれいてくれた。」
「キモイは余計だろ。せめて年増で渋みがでてる、とか表現してくれよ。」
「あら、本当のことじゃない。でも、そんなところがいいんじゃないの。」
そのとき、大きな流れ星が流れたの。まるで火球が地球に降ってきたように。
「なぁ、しばらく星でも眺めないか。」
「あら、いいじゃない。ロマンチックね。でも、気を付けないと、大抵、こういう時は妖精さんが見てるわよ。」
「大丈夫さ。あいつは、朱音にいって甘いもので餌付けして、首に首輪でもつけておいたさ。」
あたしたちはね、この草原に、寝そべってしばらく、星空を眺めたのよ。
次々流れる流れ星、天の川の星までくっきり見えるほど、綺麗で澄んだ空。
まるで、ここがかつての大都市とは思えないほど。
今は草原になっているけども、その草原の周りには、廃墟になった高層ビルが建ち並んでいるわ。
ふと、タツヤがあたしの身を寄せてきたのよ。タツヤ、あたしには記憶はないわ。でもね、あの光景をみたとき、昔のあたしの光景を見たときに、少しだけ思い出したのよ。
後輩にやたらに慕ってくれる可愛い後輩がいた。いつもイタズラして遊んでやったりしたわ。
もう、ずっと、ずっとずっとずっ~と昔の記憶ね。
あたしには記憶がない。けども、ずっとずっと遥か昔の転生する前の、実世界での淡い思い出。
たしか、一つ下の後輩だったかしらね。でも、なぜか、この世界では大きな年の差。
転生って不思議よね。
「ねぇ、キス……。しない???」
「お、おい、突然なんだよ。」
「な、なによ、あたしが、思い切って切り出して……」
あたしが言い切る前に、彼が少し強引に顔を使づけた。吐息が少しだけ顔面にあたる。
そして、唇にほんのりとやわらかく、温かい感触が当たった。
「たまには、こっちから出番を作らせてくれよ。」
そして、もう一度、唇にやわらかくて温かい感触が当たった。
そのまま、彼はあたしの体を、こう、ぎゅーって、抱きしめてくれた。
あたしも、思いっきりぎゅーっと抱きしめた。
そのまま、ずーっと時の過ぎるのを忘れるまで、東の空が白みかけるまで。
季節は秋から冬への変わり目。通り抜ける風が少し寒いけれど、その瞬間は心の底から温かったわ。




