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195幕間:愚かなる種族ども(アイギス)

 

 あたしの名はアイギスラントブルカ=ブラッドレイン=ボーンテッドブルーン。誉れ高きの最高血種の姫。

 妾は、人間などという愚かな種族を生み出してしまったことに後悔しておる。

 じゃから、一時は、人間を始末しようと、ラビリンスなどと名付けられた地下に巣食った人間どものコロニーで人間どもを排除しようとしたものじゃ。


 じゃがの、タツヤとかいう転生者によって阻まれた。


 しかも、奴のせいで、結構な気を使ってしまったもので、体は縮み、こともあろうか、あの憎き妖精と同じ身長になってしまったものよ。


 まったく人間というのは愚かじゃ。人間という生き物が創り出してからというもの、自らが互いに殺し合いを幾度となく繰り返す、という本当に愚かな生き物よ。

 今回もそうじゃ。今までになかったかつてないほどの戦禍でついに一度人間たちは滅びたと思うたわ。

 じゃが、生き残っていた。

 ある生き残った人間たちは地下へと逃げのび、地下に大迷宮都市を作った。

 ある生き残った人間たちは空へと逃げのび、空に空中都市を作った。


 じゃというのに、この再びの戦禍は何じゃ。猿でもわかるというに、猿以下の愚かな種を創ってしまったものよ。

 しばらく、あの城で過ごしていたが、ついには、この城の地底にまで人間ども侵入してきおった。

 レッドダイヤなどを乱獲しては、金儲けしておる。まったく愚かなる種族なことよ。


 おかげであの城に落ち着いて居を構えることもできん。

 じゃが、十分に時間が経った。

 十分に気を養うこともできた。

 まだ、完全にはほど遠い。じゃが、人間どもを滅ぼすにはちょうどよい。


 じゃから、今はこうして、人間どもがかつて創った街の廃墟を歩いておるのじゃよ。この妾が地上に足を付けるなど、人間という種を生み出してからというもの久しいものよ。


 じゃがな、この地上でふと面白きものを見たのじゃよ。

 見よ。この天空を覆いつくさんとする眩き光、それが地上を抉り地下深くに眠る人間どものコロニーに直撃する。そして、空間を断絶する漆黒の剣撃、それが上空に浮かぶ人間どものコロニーに直撃する。

 寸刻ほど間をおいて、この地上を俯瞰してみれば、地上と地下にあった人間どものコロニーが仲良く並んでいるではないか。

 先ほどまで争っておった人間どもが突然隣に合わせになったのじゃ。争っていた人間どももどうしていいかわからず右往左往しているようじゃのう。


 そして、この地上に降り積もる薄ピンクのようなものはいったいなんだか。よくわからぬが、人間どもには荒くる心を鎮める効果があるようじゃの。


 さて……、


「ふん、貴様か。」


 妾の進路にいたのは、リアノルド=ブラッドレイン=アーミルブルカーノ、奴もまた最高血種の一人でありながらも、人間などという種に共感してしまった愚かな血種。その脇に初めて見る男。


「あら、久しぶりね。また、人間たちを滅ぼしにでもいくのかしら。」

「じゃとしたら、どうする?」


 一瞬の沈黙。その間に、妾の血を滾らせ手に赤黒い槍を創り出すと、それをリアノルドへと差し向ける。


 キーン。


 リアノルドも、赤い目をさらに紅のように紅潮させると、赤黒い鎌を取り出し、それで防いだようじゃ。


「なに、ほんのお遊びじゃ。ふん、今はお主などとやり合うつもりなどないわい。見ての通り、先の戦いでかなりの力を使い果たして、未だ体は小さいままじゃ。」

「あら、でも、前よりは少し身長が伸びたんじゃないの?」

「余計なお世話じゃ。人間どもなんて滅ぼしていやりたい気分じゃが、あやつらがいる限りは手を出さんさ。」


 わかっておるさ。どうせ、また、人間はまた戦いを起こすのじゃ。わかりきったことよ。じゃから、人間という種は根絶しておきたいのじゃが、これも、すべて、あのタツヤというやつ男と、霞とかいう女、その連れの憎き羽虫の仕業じゃろうよ。


 今さら、どうこうするつもりはない。

 どうせ、いくら転生を繰り返すといえど、この世界に再度転生するわけがないのじゃ。やつらが寿命を迎えるまでの辛抱じゃ。


「まったく、やはり人間という種族というのは愚かじゃのう。そうは思わぬか?リアノルドよ。」

「そうね。まったく愚かですね。けどね、悪いほうがたくさん目立つけれど、意外と世界を良くしようと行動している人もいるものよ。」


 そんなものはただのお膳立て。どうせ、いずれ裏切るに決まっておる。


 ただ、それよりも、先ほどから気になっておったが、リアノルドの脇にいる男、何者よ。


 リアノルドは妾の視線に気づいたようじゃ。


「あら。彼は、あたしのお店の大切なお客さんよ。」


 じゃが、わずかながら、その男からはほんのりと香しい血の匂いが漂ってくる。はて、気のせいか。


「ふむ。ただの客がよくぞ、こんな地上にいるものよ。それに、僅かに血の匂いがするの。」

「ただの冒険者さ。ちょっとばかし長生きしたかもしれないな。いくつも戦禍は潜り抜けてきた。血の匂いはそのせいだろう。」


 長生き?人間がか?なんじゃろうか、このふと感じる違和感は。

 妾はふと、二人をみると、リアノルドは男にもたてかかるようにこの廃墟の上に座っているではないか。

 まさかの……。


 リアノルドよ。まさか、人間などの種に恋をしたか。

 わかっておるのか。かつて、血種が別の種に恋心をいただくことなどあっただろうか。


 なんじゃ!このキュンキュンとなるようなやり取りは。あの羽虫がいれば、ぜひとも一緒に見てやりたいところじゃった。


「おい、男よ。」

「な、なんだ。」


 妾は男の手を取る。


「がんばるのじゃぞ。このアイギス、草葉の陰から見守らずとも、堂々とお主を見つめておるぞ。」

「あ、あぁ、よくわからんが、そ、そうか。」


 ふと、男の手を取ったときにふと、気づく。確かに僅かに香る血の匂い。じゃが、リアノルドの血の匂いによく似ている……。待て。いや、いや、待つのじゃ。妾はこ奴を人間を思うていたが、まさか…、という思いがよぎるのじゃ。もし、本当であれば、そ、それは、禁断の恋というやつではなかろうか。


「ちょっと、アイギス、大丈夫?」


 コホン、どうやら、表情に出てしまって、若干、ドン引きされておるがいいのじゃ。


「リアノルドよ。」

「な、なによ。変態バンパイヤ。」

「お主……、まさか、その男は、お主の……。」


 リアノルドは突然妾の眼前に近づき、妾の口を指で封じる。


「いい。これぐらいがちょうどいいのよ。」


 ムホー!!やはり、そいういことか


「お、お主……、こやつとは、どこまって行ったのじゃ?まさか、もうAまさかCぐらいまで……、しもうたか?」

「昭和か?死ね、変態。」


 リアノルドの向ける目線がまるでゴミを見るように、目がより赤く紅色に染まっておる。むしろ、それはご褒美じゃ。


 なんだかつまらぬ世界じゃと思っていたがの、一つ面白い余興が出来たものじゃ。

 しばらく、この様子を見守るのも良い余興かもしれぬな。


「確かに、長く生きおれば、面白きこともあるものよの。妾は今しばらく、この世界を観察することにしようぞ。」

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