194幕間:戦争の終結(ダン)
さて、その後はどうなったか。
ラビリンスとノヴァリスの間には、未だ確執はあった。
だが、今ではラビリンスは地上に姿を現わし、ノヴァリスは地上に落ちた。同じ地面の上に立つ隣町となったのだ。
そうすれば、嫌でも、街の住人たちは顔を合わせざるを得なくなるのだ。
今はまだ互いに確執がある。だから、人々の間には未だイザコザもある。
けども、すぐ隣町になった関係なのか、明らかに争いは減っている。
それに何よりも、どこか心にゆとりができ、どことなくだが、何か安かな気持ちになった気がするのだ。そのせいで、確実に争いは徐々に収まり始めている。
そう、あのとき、突然に、まるで雪が降ってくるかのように、空から淡い花びらのようなものが舞い散ったのだ。一体何かと、手をそれをすくようにしてからというもの、不思議と心が落ち着いている。
手ですくうと、まるで雪のように溶けて消えてしまうが、不思議な気の流れが自信の体の中へと流れ込んで心を落ち着かせてくれた。
そうだ、あのときだ。
そう、あのときのこと。
見ていたさ。地上はラビリンスとノヴァリスの中間、ちょうど中立地帯のようなもの。
そこで起きた一部始終を地上の廃墟になったビルの上で見ていたよ。
そこにラビリンス側から現れたのはタツヤと霞、そして、いつもの妖精に、あのベベルのグループに朱音もいる。
しばらくすると、今度はノヴァリスからグレゴリーたちが冒険者たちを引きつれてやって来たのだ。
そこで、二つのグループは、ちょうどのこの地上で出会いがしらに落ち合ったようだった。
何を話しているのか遠くて良く聞こえない。けども。その表情からは何があったのかは想像がつく。
タツヤたちは停戦を呼びかけて地上を目指していたという噂を聞いていたからな。
きっと、ダメだったのだろう。
グレゴリーも厳しい現実を目にしたのだろう。
けども、驚くべきはここからだった。
あの霞という者が微笑んでいたのだ。この現実にも屈せずに、朗らかな笑顔で何かを話していた。
そして、私は再び、目の疑うような光景を見てしまったのだよ。
このタツヤと霞たちの冒険者たちにはいつも目を疑わされる。
あの霞という冒険者は手に白く光り輝く魔術を展開した。それは徐々に大きくなり、この大空さえも包み込むような強大な光を作り出した。眩いばかりに輝きながらも時折、バチバチと稲妻が放出されている。
その巨大な気の巨塊を地面に向けて放出した、当然、地面は抉れ、強大な大きなを穴を形成する。見ていてわかったよ。霞はラビリンスに向けてあの強大なまでの魔術を放出したのだ。
一方、タツヤだ。タツヤは居合の構え。だがすぐにいつもの居合とは違うことがわかる。
気がこもっているのだ。尋常ないほどに気がこもっており、それをノヴァリスの空に浮かぶ島に向けて放出した。
その居合は空間を切断し、その切断面に漆黒の闇が広がると思えば、その切断面がノヴァリスを直撃した。
その後、土煙が辺り一帯を多い隠し、暗くなるが、地面をラビリンスへと抉る魔術、そして、居合によるノヴァリスの街の落下、それらが、同時に進んでいたのだ。
少し時間が経過すると、目の前には巨大な…、巨大なといっても、遥か先が見えないほど大きなクレーターができ、そこにラビリンスの街並みが広がり、そのすぐ隣に落下したノヴァリスの街並みが広がっていたんだ。
ラビリンスの高層ビルの街並みと、近未来的で先進的なノヴァリスの街並みが、見事なまでにキレイに並び、街が出来ていたのだ。
見事だよ。かつて、幾度となく世界を見渡してきたが、こんなことが起きたのは初めてだ。おもわず夢でも見てるのではないかと、思い頬をつねってしまったぐらいだ。
常識を超えた現象が目の前で起きたのだ。
しかしだ。
それで終わりではなかったのだ。
そこへと突然、雪のように淡いピンクの花びらのようなものが降ってきたんだ。
そこで私は見てしまったのだよ。
一面に舞い散る淡いピンクの花びらのようなもの。
それを背景に、美しく舞う妖精の姿。
あぁ、それを見てしまった瞬間に感じたよ。あれぞ、この世の女神、救世主ではないかとな。
その姿は、ラビリンスやノヴァリスの人々にも見えたらしい。みな、戦いを中断し、その御姿に見蕩れていたようだ。
その姿を見た人々はみな声を揃えていう。あれは女神だと。
この荒んだ世界に、一縷の希望と幸福をもたらす女神なのだと。
「ふふっ。美しい光景ね。」
ふと声のした方向を見るといつの間にかリアが私の隣に立っていた。
「最近を姿を見せないと思ったら、どこに行っていたんだ。」
「あら、どこでもいいじゃないのよ。」
リアは私の隣に座り、俺に寄りかかる。
「ねぇ、どう思う。この世界のこと。」
「そうだな。こんな状態だというのに、不思議と心が落ち着いている。きっと戦いもなくなり、いずれ以前のような互いに交易していたときのように戻ればいいんだがな。」
「そうね。」
今もなお確執は残っているが、いずれその確執もなくなり、以前のように再び交易が栄えるのだろう。
タツヤ、それまで、一人孤独に地図を作っていたやつが、霞と手を組み、妖精と組んだ。そして、RGFの朱音に、伝説のベベル達、冒険者を率いたグレゴリーと手を組んだのさ。
俺は確信したよ。その瞬間、この戦争というよりも、ラビリンスもノヴァリスも敵にしてはいけないやつを敵にしちまったんだってな。
何せ、あのグローリーホールを生きて戻ってきた冒険者。そして、アイギスを倒した冒険者に、ノヴァリスに自力で辿り着いた冒険者、彼らが動くっていうんだからな。
あいつは、ランクDさ。けど、アイツにはランクなんてどうでもいいのさ。
あぁ、知っているよ。
アイツは、何度も何度も転生を繰り返した。
何度も何度も繰り返した転生の中で、戦いの能力だけは異常に長けた。
普通なら、ほぉ、強いのか、って程度には思うだろ。けどな、アイツはそれを何度も何度も、無限に渡る時間をそれに費やしてきたんだ。
強い?
ふざけないでくれ。
強いなんて言葉なんかじゃ、表現なんてできないだろ。
そして、アイツの相棒、霞。彼女もまた、何度も何度も転生を繰り返している。
もはや、魔術なんて陳腐なものじゃないさ。その気になれば、世界を破滅さえ容易だろう。それほどまでに、恐ろしい程の気の持ち主。
さらに、妖精アリエル。妖精の村の引っ越しにおいてけぼりにされたという噂はどこかで聞いたな。戦時中のせいか、人々から忘れさられそうになり、体が半透明になっている。だから人々に存在を意識してもらうためにイタズラをしているとかいうネタのような存在。だが、こいつの魔術は侮れない。何しろ精神系に作用する魔術が有能すぎる。
こんなやつらがラビリンスと、ノヴァリスの相手になるっていうんだ。
だから、結果なんてわかってるさ。
こいつらが、平和を望むというなら、いずれ街も平和になるだろう。
「ねぇ、ダン。もし、こんな人間の世界を破滅させるという者が出てきたらどうする?」
「破滅?アイギスみたいな奴のことか?」
「そうね。」
そんな会話をしていたときにだった。ふと、背後に気配を感じたのだ。
まるで、黒々しく、深い怨念を抱いているかのような気配。
「ふん、貴様か。」
その声は、以前にも聞いたことある声だった。




