192脱獄―ノヴァリス(グレゴリー)
まったく最悪だ。
あのあと、俺たちはノヴァリスで暮らしたさ。その後、ノヴァリスとラビリンスとの間で交易が始まってな、俺たちは、その橋渡しとして、活躍したのさ。
けどな、ラビリンスのやつら、まったく、心の広さとでもいうべきもんが、まったく皆無だった。
あいつらは魔術の使えないやつらをバカにしてやんのさ。
最初は交易はうまくいっていたさ。けどな、段々と化けの皮がはがれてくんのさ。
そんで、ついにイザコザが始まった。イザコザは復讐となり、互いが互いを復讐する日々、そして、交易は決裂、ついには、戦争だ。
そんで、俺たちは、ラビリンスから来た冒険者だろ。まったくノヴァリスへは敵意はないっていうのに、それだけの理由で全員、捕虜として捕まっちまったわけよ。
しかも、見ろよ。この牢屋。
普通の牢屋ならとっとぶち壊して脱獄しているが、ここはノヴァリス、技術大国だ。
ここは広場のど真ん中。そこに俺たちは集められ、周囲からは丸見えだ。
何も不自由がないように見えるがな、ここには壁があんのさ。ナノ量子なんとか防壁とか言って、何も見えないように見えるが、まるでガラスがあるかのように、ここから抜け出せねぇ。叩いても、蹴ってもビクともしねぇさ。
しかも、周りから丸見え。アイツらが敵国ラビリンスの奴らだと、誹謗中傷の罵声の嵐。石も投げつけるやつもいるが、ナノ量子なんとかという壁のおかげでここまでは届かねぇ。
まったく、参ったもんだ。まともな方法じゃこの壁は壊せねぇ。
「別にいいじゃないの。ここにいれば安全だし、ただ飯は食えるじゃないの。」
と、俺の周りを飛んでいる虫がいる。
この街に住んでいて、人々に愛と希望を与えます、とか言っている自称妖精のセシリーとかいう痛いやつ。
よくわからんが、この透明な壁は妖精には効果ないらしい。
「ったく、あんたはヒマだな。」
「そうでもないわよ。せっかく人間どもにイタズラして遊んでいたのに、イタズラできる人がいないわ。」
「おい、人々に愛と勇気を、とか言っている奴がイタズラとか言うな。」
「でも、結構、深刻なのよ。妖精というのは人間たちの想いで出来てるピュアな生き物なの。人間に余裕がなくなって妖精を忘れてしまえば、あたし達も消えてしまうのよね。」
「人にイタズラする奴がピュアかよ。まぁいいが。ところで、戦況はどうなってる?」
「どっちもどっちよ。ラビリンスは魔術の使える冒険者が多いから、魔術が強くなる地下だと魔術が強くなるけど、地上のノヴァリスでは意味がない。ノヴァリスには最新兵器があるけれど、ラビリンスの最深部には攻め込めない。結局、どっちもどっちね。ラビリンスへも侵攻できず、ノヴァリスでも防衛戦が始まってるそうよ。地上を境界に一進一退って感じかしらね。」
「けっ、そんじゃ、しばらくこのままの生活かよ。」
「あら、でも、意外とそうでもないかもよ。タツヤとベベル、それに朱音って人間、覚えてるかしら?」
「あぁ、覚えてるぜ。」
「朱音がタツヤのグループに入って、ベベルのグループと結託したらしいわよ。そんで、ラビリンスで大暴れしながらこっち向かってるらしいわ。戦争を推し進めている人たちをコテンパにしているのだとか。もう、RGF社の民兵部隊は壊滅状態らしいわよ。まぁ、あのクソアリエルからの情報だけど。」
「ふっ、なんだそりゃ。でも、そいつは面白れぇ。」
タツヤだろ、知ってるさ。俺も最初はアイツをDランク風情の冒険者ぐらいにしか見てなかったさ。けど、アイツは確かに魔術は使えないが、それ以上に剣術だけは異常だった。それに連れの霞とかいうやつ、Bランクらしいが、Aランクのやつですら使えないような強力な魔術を平然と使いやがる。
しかも、あいつらは、俺たちが匙を投げていたアイギスに果敢に挑み、そして、勝ちやがった。
そんで、ベベルゼルド、直接会ったことはないが、噂には聞いていたさ。頭がぶっ飛んでいたというのもあるが、それ以上に腕の立つメンバーだったと。
それに、朱音だろ。RGF社の社畜と言えば、有名だ。ただ、社畜以上に、奴は誰しもが認めるAランク、あいつに勝てるなんてそうはいねえんだよ。
そいつらが、組んでこちらへと向かっているだと。しかも、あのRGF社の民兵部隊は壊滅だとか。
ふっ、面白過ぎじゃねぇか。
こんなところで閉じこもってなんかいる場合じゃねえよな。
「おい、妖精、行くぞ。」
「行くってどこによ。この壁壊せないんでしょ。」
「まともな方法じゃ無理だと言っただけだ。なぁ、妖精。あんた、自称ピュアで美しく華麗な妖精で、その上、『最強』、なんだろ?」
「はい?」
ガシッ
「ングー、ングーングー!ウガウガ!」
俺は、自称妖精の首を掴み、そいつの口の中に人差し指を突っ込んでやる。
「吸え!俺の気をありったけ、気のすむまで吸い尽くせ!そんで、その気をこの壁にぶち当てろ。」
「あんば、あびいってるお、いぬきあお?」(あんた何言ってるの死ぬ気なの?)
「いいから吸え、この程度で俺は死なねえ!」
―――
「はぁ、はぁ。」
さすが、悪魔の妖精だ。結構な量の気を持ってかれた。
「いや~人間の気なんて吸うのなんて久々で美味しかったわ……。けど、だ、だ、大丈夫ぶい?げっぷ。」
結構な量を気を吸ってくれたおかげで、妖精のお腹はまん丸なボールみたいに丸くなってやがる。
「大丈夫ぶいだ。この程度、問題ねぇ。よし、やってくれ。」
「このあたしことだから、あのアリエルなんかには負けないぐらいの威力は出せると思うけど、気をぶつけただで、この壁壊せるかなんてわからないわよ。」
「いいんだ。後は俺たちがやるさ。」
「じゃあ、いくわよ。」
妖精は手を持ち上げると、そこに気を放出し始める。気は球状に白く光るが、徐々にドス黒くなっていく。
「気っていうのはね、ピュアな気は白いんだけど、嫉妬や妬み、欲望に絡まれると、こうやってドス黒くなるのよ。あんた、ロクな生き方してないわね。」
「うるせえな。」
セシリー手の上にはドス黒い球体がどんどん大きく、俺たちまで飲み込みそうなほどに大きくなっていく。
この透明な檻に捕らえられている他の仲間たちも、こちらへと注目する。
そして…、
「そんじゃ行くわよ。」
セシリーがそのドス黒い球体を透明な壁に向けて放つ。ゆっくりとそれは進みとそして、壁とぶつかると、バチバチバチと、大きな音、そして、ドス黒い火花をあげる。
「おっし、お前ら!!もう一度、全力出すぞ、ここから出たい奴は立ち上がれ!あの黒い球がぶつかったところを一点集中で攻撃だ!!」
そこへ捕らえられている仲間たちが銃撃や斬撃を与えていく。ここは地上、しかも、空の上、なので魔術は弱いながらも、魔術が使える奴は、それでも魔術を放ち続け、ありとあらゆるありったけの攻撃を壁に加える。
そして、セシリーの放ったドス黒い球体が透明な壁にバチバチと吸収されて消えようとするとき、ビシッ、という音。見上げれば、透明な壁なので、まるで空中に不自然にできたヒビが出来ている。
それを見逃すはずがない。
「おい、ヒビだ。ヒビを狙え!」
みな、そのヒビを狙って攻撃を続ける。俺も、負けじと斬撃を与え続ける。
そして、
バリン!!!
ついに割れた。
さすが技術大国ノヴァリス、とんでもなく強固で洒落た壁を作りやがる。だが、俺たちに破れないものはねえんだよ!
さて、俺はそこで、周囲を見渡す。
ここはノヴァリスの広場に儲けられた透明な牢獄だった。そこに、どうせ透明な牢獄から出られないだろうと、罵詈雑言を浴びせ、石などを投げつけてきたノヴァリスの民たち。
俺はそいつらをここぞとばかりに睨みつけてやる。
「おい、グレゴリー、やっちまうか?」
「いや、放っておけ。」
仲間の一人が声をかけてくる。あぁ、正直、こちらが何もできないこといいことに罵詈雑言を浴びせやがって、ハラワタが煮えたぎってるさ。けどな、タツヤたちは戦争を止めようとしてるんだろ。
だったら答え見えてる。ここでやり返したところで、復讐の禍根しか残さねぇ。
ならば、向こうから攻撃してこない限りは、何もしねぇよ。
「へぇ、見逃すの?あんた。意外と我慢強いのね。げっぷ。」
「てめぇらがいつもイタズラしやがるから耐性ができちまった。」
さっきまで、まん丸だったが、ちゃんと元の妖精の姿に戻ってやがる。だが、感謝だな。正直、こいつの妖精の力がなければ抜け出せなかった。
「おい。ありがとよ。」
「あら?あらあら?あら、どうしたのよ。『ありがとう』なんて、性に合わないのに。ちょっと感謝の気持ちが足りないんじゃないの?」
だから、妖精は腹が立つ。だが、意外といいやつさ。




