191脱獄―ラビリンス(ベベルゼルド)
「おい、準備はいいか?看守が飯を運んできた瞬間に、俺が看守の動きを止める。その間に、セイイチ、お前が鍵を盗んで、まず、魔女の手錠を外す。んで、セイイチが俺たちの鍵を外す間に、魔女はとっとと次のフロアを制圧する。いいか?」
「ええ、いいわ。」
「OKだ。」
ここはラビリンスの薄暗い牢屋の中。元々ラビリンスは洞窟の中だが、ここは灯りが蝋燭一本しかないのでさらに薄暗い。
俺たちは、これまでにノヴァリスで活動していたんだが、戦争が始まったとかいうので、なんとか止めようと、ラビリンスまで戻ってきたのさ。
ところが、これさ。ノヴァリスの手先だとか、なんとか言われ、捕まっちまった。別にいつもの俺たちならこんなヘマなんてしねぇさ。けど、相手は最新鋭の武器をノヴァリスから手に入れていたんだよ。無数の小型無人ドローンとか、ナノスピン型なんちゃら戦車だとか……。
勝てない戦いではなかったが、いろいろと情報が不足し過ぎていたんだ。結局、捕まって捕虜になっちまった。
けどよ、俺たちは、負けたなんて思ってもいないぜ。この牢屋でひもじい暮らしをしながらも、情報をかき集め、ここから脱走するための作戦を計画していたのさ。
そして、今日が決行のとき。
「おい、飯だ。」
看守が飯を配膳する瞬間にだけ、この牢屋の扉が開く。その瞬間をすかさず狙い、手錠をはめながらも背後から襲って、首を羽交い絞めにする。
「セイイチ!」
「任せろ。」
セイイチが看守から鍵を奪うと魔女の手錠を外す。
「先に行ってるわよ。」
魔女には先行してもらい、この先のフロアの兵士を全滅してもらう。魔女ぐらいの魔術が使えるなら、この程度の兵士など余裕だろう。
そのまま、看守は気絶させ、あとはのんびりとセイイチに手錠を開錠してもらう。他にも牢屋はあるので、使用済みの鍵は隣の牢屋に投げ込んでおく。ここから逃げたい奴は逃げればいいのさ。
「よし、いくか。」
「あぁ。」
そのまま俺たちは次のフロアへ移動すると、先行していた魔女が突っ立っていた。もう、フロアの兵士は床に伏して全滅している。さすが、魔女だ。いったい何の魔術を使ったとでもいうのか。
「さすがだな。」
「ち、違うわよ……。あたしが来たときには、もう既に、全員、全滅していたのよ……。」
その言葉を聞いてすぐに、気を引き締める。おそらく、このフロアには俺たち以外の誰かがいる。
敵か味方か、敵を全滅させてくれるくらいの手練れであれば、味方であって欲しいものだが。
気を引き締めて、このフロア中に気配を集中させる。……いるな。
気配を集中させれば、だいたい、どこに誰がいるのかがわかるさ。一応、これでも現役時代はSランクとまで言われていたんだ。一人は魔女、もう一人はセイイチ。だが、それ以外に、いるな…二人、三人…いや、あと加えて魔獣だろうか、小さな気配がもう1匹いる。
とっさに、空気の流れの変化を感じ取る。
「後ろだ!構えろ!」
ここは灯りが蝋燭一本しかないので、暗すぎる。とっさに守りを固めていると、その暗がりから一人のシルエットが浮かび上がる。敵か?それとも、味方か?
「ベベル…、ベベル!」
その浮かび上がったシルエットから一人の少女が飛び出し、俺に抱き着いてきた。
ふう、どうやら敵ではないようだ。ただ、女とは想定しなかったがな。ちっ、まったく俺は罪な男だぜ。
そして、その後ろから男女が一人ずつと、虫が一匹出てきやがった。
うん?
そういえば、どこかで見たことがあるというか、あいつらか。
その男が前に出て喋る。
「久しぶりだな。」
「おう、あんたか。名前は忘れちまったが。」
「まじかよ。確かに久しぶりだったが、タツヤだ。それと霞と、羽虫のアリエルだ。」
「羽虫じゃなくて、妖精なのです。」
「大丈夫だ。忘れたのはあんたの名前だけだ。女の名前は生涯忘れねぇさ。」
「クズね。」「あぁ、クズだな。」
何か、後ろから変な声が聞こえた気がするが、まぁいいさ。気にはしない。
「なんだ、俺たちを助けにでも来てくれたのか?」
「いや、まさか。それとも、助けが必要だったのか?」
「いや、いらねえな。」
「そうだろ。協力して欲しいことがあってな。」
「協力だ?」
「あぁ、この戦争を終わらせたい。ラビリンスもノヴァリスも、もう、暴走している。俺たちの手で戦争を終わらせよう。相手は所詮、BランクかCランクの冒険者にわずかなAランク冒険者。勝てるだろ?」
つい、俺たちを助けにでも来たのかと思っちまった。
けど、この戦争を終わらせよう、と来たか、随分と大きく出たな。
確かにほとんどの兵士たちはランクCか、ランクBの冒険者たち、たまにランクAもいたりするが、戦力的には問題ない。そんなやつらが、ノヴァリスの人やランクD以下の冒険者たちをゴミ程度のしか考えてないのさ。ノヴァリスからの最新鋭の武器で最初は戸惑っちまったが、今では、ちゃんと情報も十分に揃った。
手を組むには申し分ない。
というか、そもそも、戦争を止めるために、俺たちはノヴァリスから戻ってきたんだ。だったら……、
「ベベル、やるしかないだろ。」
「いいじゃないの、仲間は多いほうがいいわ。」
決まったな。
「わかった、手を組もう。」
「名前ぐらいは覚えてくれよ。」




