187贖え、自ら渇望せよ(アリエル)
あのあとから何年という月日が経過したのです。
そのあとはいろいろとあったのです。
再び、戦争が起きました。ラビリンスはもう、昔のラビリンスではではないのです。街にはスラム街でき、治安は悪くなり、人々の生活は荒んでいるのです。
ノヴァリスには、ベベルゼルド、魔女、セイイチという人間がいました。だけど、彼らは、ラビリンスからスパイと疑われ、投獄されたらしいのです。今はどうなったかわかりません。
グレゴリーという人間はノヴァリスとの戦争を止めようと活動していたらしいのですが、その後の行方がわかってないのです。
リアも戦禍に巻き込まれて店が全壊したそうなのです。それからというもの、リアとは会ってないのです。
朱音という人間を覚えてますか。元RGF社の社畜社員で、初めてRGF社を辞めることができた人物なのです。そして、タツヤのグループに勝手に入ってきて、勝手にノヴァリスへと行って、ベベルと再び会うという自らの夢を叶えた人間なのです。
その彼女も、この戦禍のどさくさに紛れて再びRGF社に強制送還されたらしいという噂なのです。
ここはタワーマンションの最上階、ここからはラビリンスを一望できるのですが、目の前に広がるのはスラム街なのです。戦禍でボロボロになった街。瓦礫にビニルシートを張って人々は暮らしているのです。
昔は、街に出かけては、人間たちにイタズラをしては遊んでいたのですが、今は、そんなことができそうな人間なんてどこにもいないのです。
そんな街の様子を、窓辺に立って見つめているタツヤを見つけたので、頭の上に座るのです。
モフっ
「おい、なんで、お前はいつも人の頭の上に座るんだ。」
「いや~なんか、頭のてっぺんだけ薄いので、ついつい座ってしまうのです。」
「おい、お前は人が気にしていることを、いちいち触れるやつだな。そんで、またイタズラでもしに行ってきたのか。」
「するわけないのです。タツヤ、この風景をみて、イタズラを出来そうな余裕のある人がいるように見えるですか。」
「……。」
タツヤからの回答はないのです。
実は少し気になることがあるのです。
タツヤはずっとずっと会いたいと思っていた人がいたのです。その人を想いながらも何度も何度も転生を繰り返したのです。そう、ずっと、ずっと、きっと無限と思える時間を過ごしたのでしょう。
そして、今回の転生の世界で、その想い人とついに会うことができたのですよ。
でも、再び、戦争が始まったのです。タツヤは今も幸せなのでしょうか?
「タツヤ、今、幸せですか?」
「……。アリエルは人の心の中を見透かす魔術があっただろ。それで、今のこの複雑な気持ちを覗いてみたらどうだ。」
そんな魔術もありましたね。昔、温泉でタツヤの心を覗いたら、あたしの気配を消す魔術を利用して女湯を覗こうかどうか迷っていたのです。そんなこともあったのです。
でも、そんな魔術を使わなくても、タツヤの様子を見てればわかるのですよ。タツヤは、やっと、やっとですよ、やっと想い人と出会えたというのに、まったく幸せそうではないのです。
「俺は、会いたいと思っていたあの人に会えた。嬉しいさ。何度も何度も、繰り返し、繰り返し転生を繰り返した。何年?、そんな何年とか言える次元じゃない。そんな無限とも思える時間を過ごしたさ。ただ、ただ、その転生した世界を生きて、死んでは次の転生を迎える日々だった。こんなことが起きるなんて絶対にないと思った。けど……、けど……、諦めなくて良かった。だって、あの人に会えたんだから……。」
タツヤ…、少し感情的になっているのです。あたしはタツヤの頭に上に座っているので、タツヤが今、どんな表情をしているのかはわからないのです。
「俺は、これまでも何度も何度も転生してきた中で、この世界に転生して幸せだと言った。あぁ、幸せさ。俺は何度も、何度も転生を繰り返した。そのすべて孤独だった。イジメられたり、罪人扱いされたり、蔑まれたり、嫌われたりと、ロクな転生なんて一度もなかった。けどな、生きていれば、いつかは、本当にいいことも起きるもんだ。だって、俺は霞と出会えたんだから。自分が転生する以前に、想いを寄せていたあの先輩によく似ていた。だから、おれは淡い夢を持ってしまったけども、でも、霞は本当に、俺が探し求めていたあの人だったのだから。」
タツヤは急に下へうつむいたのです。なので、あたしも落ちそうになるので、今度はタツヤの後頭部に座る場所を変えるのです。
「けども、今、改めて思う。でも、それだけだった。結局、俺たちに手元にあるのは、タワーマンションの最上階と、手に余った大量の金。いったいこれでどうしろと。せっかく幸せな転生の世界を掴んだというのに、結局、今まで転生してきた世界と何ら変わらない。ただ、ただ、苦しくて悲しい毎日を必死に生きてきただけ。ひたすらに、ただ、あの人にもう一度会えないかと望んで、そして、奇跡は起きた。その奇跡のおかげで、今、こうして霞と過ごすことができているけども、結局、これさ。いつもと同じ、何も変わらないんだよ。」
タツヤの立つ前のガラス張りには、スラム街が広がります。そんなスラムの街の中を、一台の豪華な車が通り抜けるのです。通り抜けながらも、窓からゴミを投げ捨てていくのです。
きっと、どこかの裕福な人なのでしょう。
「タツヤ…。何度も何度も、何度も繰り返し転生をしてきて、ようやく、その人と会えたのでしょ。もし、この世界を終えてしまったら、もう、次は会えないのかもしれないのですよ。本当に、本当に、こんな世界のままでいいの。」
「わかってるよ。わかってるさ。こんな世界なんて望んじゃいない。もっと平和な世界で、人々が豊かな世界で、あの人と一緒に過ごしたいさ。けど、どうすればいい。もう、こんな世界、変るはずがないさ。」
あたしは、以前から少し疑問に思っていたことがあるのです。
何かを変えたいことがあるなら、自分の変えたいように変えればいいのです。でも、タツヤの回答はいつもそう。
まるで、待ってれば、誰かが変えてくれるであろう、というような他人任せの回答。
そんなの、絶対に変わるわけないのです。変えたいならば、自らが動かなければ決して変わらないのです。
「ふーっ。タツヤ…、どうしてこの世界を自ら変えようとは思わないのです。」
「だって、戦争だぞ。一人の力ではどうしようもない。」
「一体、何回、転生したのですか。何度も何度も転生しているうちに、剣術だけは人よりも長けたのでしょうが。あのアイギスを倒すほどに。だったら、国一つぐらい何とかなるのです。それに、タツヤのこれまで転生した世界は一人きりだったかもなのです。でも、今は違うのです。もっと周りを見るのです。」
タツヤは少し黙り込んだのです。
「You、やっちゃいなよ。」
以前、似たようなことを話したときは、タツヤはこちらはものすごい形相で睨んで来たのです。
でも、今回は違うのです。タツヤは前を向くのです。
それに合わせて、あたしもタツヤの頭頂部の薄いところに座り直すのです。
何度も座りなおすので、少し頭はじっとしてて欲しいのです。
「……そうだな。やっちまうか。」
ガチャ
ちょうど、そのとき部屋のドアが開いたのです。どうやら霞が帰ったようなのです。
「やっほー。ねぇ、見てよ。これ。ケーキよ。ケーキ。今じゃケーキなんて珍しいでしょ。〇〇万円で売ってたから、つい買っちゃったのよ。アリエルちゃんも食べるでしょ。あ、でも、妖精さんって食べないんだっけ。」
「食べるのです!」
ケーキ!、この世界でケーキなんてまったく見なくなったのです。でも、かなりの高価ですが、ケーキは売られているそうなのです。
そう、妖精には食事は不要。ちょっとだけ生気を分けてもらえればそれでいいのです。
ですが、ケーキは別腹なのです!
今日はごちそうなのです。




