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184栄光と失ったもの(タツヤ)

 

「タツヤ、見て。プールよ。」

「お、おい。マジか。本当にプール作ったのかよ。」

「行くわよ。ヤホーーー!」


 といって霞はプールに飛び込んだ。プールといっても水のプールではない。札束のプール。水の飛沫のかわりに、いくつものお札が宙に舞う。

 タワーマンションの最上階を買い切り、そこにプールを作ったのだが、あまり金があり過ぎるので、札束でプールを満たして札束のプールの作ったのだ。

 これが、一般人とは違う、ワンランク上の富裕層と呼ばれる人たちの遊びというものだ。


 あれからというもの、霞とはレッドダイヤで大儲けした。今でこそ、RGF社が参入し、レッドダイヤを独占してしまっているが、それでも十分に遊んで暮らすだけのお金を稼ぐには十分過ぎた。

 気づけば、あの安マンションを離れて、タワーマンションの最上階ワンフロアを霞と購入し、一緒に生活を共にしていた。

 あるときは、こんな感じにプールに札束で満たして、霞と一緒に「やほー」とか言いながら、ダイブなんかしていた。その前は、札束を積み上げてどこまで倒れずに積み上げられるか、などという富豪でなければできそうもないような謎ゲームをしていたりした。ちなみに霞は不器用なので1mで挫折、自分は意外と2階分ぐらい高さまではいけた。

 どうでもいい話だが。


 あまりに稼ぎ過ぎて、まるで札束がゴミのようだった。もはや、紙くず同然、郵便受けに入っている不要なチラシのようなもんだった。


 幸せだった。

 これまでの幾度となく転生をしてきた世界に比べれば幸せ過ぎた。

 こうして、憧れだった先輩と同じ場所で同じ時間を何不自由なく過ごしているのだから。


 今、このラビリンスにはCランクとDランクという冒険者の境界以外に、富豪か、貧民か、という貧富の格差も生じていた。RGF社がグローリーホールの底でのレッドダイヤを乱獲して、経済が大混乱したせいだ。


 勝ち組……。


 それが頭の中に響いた言葉。

 これまでの幾度なく転生を繰り返した。いつも下っ端の雑兵であったり、どこかの奴隷であったり、いつも辛い役回りだった。転生する前の現実世界でもそうだ。会社という名前の刑務所で、ひたすらに仕事させられ、うまくいかなければ、罵倒される毎日だった。


 札束のプールから少し歩き窓へと向かう。

 この風景を見ろよ。


 タワーマンションの最上階から見えるのは、ラビリンスに広がった貧民街。

 いつもの自分の転生であったならば、階下に見える貧民街でじり貧の生活を送っていただろう。

 大都市、ラビリンスは戦争で暗くなってしまった。

 スラム街ができ、人々が食物のあるところへと群がっている。


 自分は、この光景を高い所から眺めている。まるで、この世界の支配者にでもなった気分だ。

 階下では人々がまるで腐った肉にたかっているハエのようだ。




 だからこそ、自分は重大なことが起きていることに気づけなかったんだ。




「何か足りない……。何か忘れてるような……。」


 確かに、どこかに何かが足りないという気はしていたんだ。 

 霞やリアとは毎日話すし、グレゴリーやダンともよく話をするようになった。そのたびに、誰かがいないような気はしていたんだ。


 きっかけは、ある日、スラム街の脇のゴミ捨て場の近くを通ったときだった。

 たまたま、偶然に、ゴミの山の中に、虫かごを見つけたんだ。


 今はタワーマンションの最上階に引っ越しているが、以前は安マンションで暮らしていた。その安マンションの部屋の机にいつも置いていた虫かご…。それによく似ている。


 あれ?何で机の上に虫かごなんて置いていたんだ?

 もちろん、虫かごなんて、使わないから今のタワーマンションの部屋にはない。

 けど、なぜ虫かごなんかを机の上に置いていたのか、よくわからない。虫かごにはなぜか、布団が敷いていた気がする。


 思い出せない…。

 けど、本当にたまたま偶然だった。


 そんなこと考えながら歩いていたら、足元を見ていなかったせいで、スラム街の建物の角に、足の小指をぶつけた。


「痛って~~~!」


 まったく、誰のせいだ。昔から、こういうのはよく、妖精の仕業なんて言われていたんだ。


 あっ。


 どうやら天狗になっていた。

 グローリーホールのレッドダイヤで大儲けして、有頂天になっていた。

 毎日霞と札束を眺めて喜び合い、札束のプールにダイブする。

 そんな毎日が当たり前になっていた。

 俺たちは浮かれ過ぎていた。


 だから、重要なことが起きていたことに一切気づけなかった。


 いないんだ。


 アリエルが………。


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