17深層10万mの話(タツヤ)
「おい、羽虫、お前、今、なんて言った?」
ちょっと信じられない言葉が出てきて思わず、聞き返す。
「え、、、深層10万mの洞窟にダイヤがあるって言ったのだけど。。。てか、あたし、羽虫じゃないし。」
「ちょっと待て、深層10万mって何だ?、いやいや、待て待て、貴様、さては、また、そのような嘘でうちらを欺こうとするわけだな。」
「だから、嘘じゃないのです。深層10万mならあたしも行ったことがあるのです。グローリーホールを降りれば、すぐに行けるのです。」
ここは深層1万m位置する地下都市、ラビリンス。今もなお冒険者たちが、さらなる地下を目指しているわけだが、現時点での最深部は深層1.5万mでしかない。
深層10万mなど誰も達したことがないどころか、そもそも、この大迷宮がそんな10万mもの地下に続いていることさえ初耳だ。
それをさも当たり前にように深層10万m行ったことがあるとこの虫は言いやがる。
「待て待て、グローリーホールってのは、まさか深層1.5万mにあるとか言われている噂の大穴のことか?」
「あたしは妖精、そんな人間の噂なんてあたしは知らないのです。大穴なら深層10万mのアースホールなのです。あたしは見たことないけど、奴が言うには、『あれはヤバい。』と言うぐらいだから本当に凄いんでしょうね。」
「ちょっと、待て。お前、『奴』って言ったけど、『奴』って誰だ?」
「奴は奴よ。あいつが何なのかなんて、そんなのあたしだって知らないのです。」
「そうじゃなくてさ、、、お前、その『奴』っていうのはどこで会ったんだ?」
「え、深層10万mのダイヤのある洞窟の奥でだけど。」
「!」「!」
先ほども言ったが、人類が到達した最深部は現時点で地下1.5万m。羽虫の言う『奴』というのが人間だとすれば、地下には人類も知らない、地底人がいるということになる。
もし、これが事実ならば、人類史上、最大の発見だ。
思わず、俺は隣人の霞と顔を見合わせ、お互いに頷いてしまった。
もし、羽虫の話を信じるならば、深層10万mの話ですら人類未踏の最深部であるというのに、そこには、その地底には人がいるという。なんということか。
「・・・。」
「金の、匂いがするわね。」
驚いているのかと思いきや、隣人の霞はこれが金儲けになると考えているようだ。
「で、仮にグローリーホールっていう穴があったとして、どれぐらいの深さで、どうやって降りればいいんだ?」
「深さはわからないけど、飛んで降りればいいじゃない。」
軽く「飛んで降りればいいじゃない」と言った羽虫は虫かごの中で羽をばたつかせて宙を飛んでいる。
「おい、お前は馬鹿か、うちらはお前と違って人間だ。羽など生えてないんだ。」
「別に羽がなくたって、魔術で降りればいいじゃないの。」
「は?魔術だと?」
確かに、空を飛ぶ、という高度な魔術はある。高度な魔術操作を必要とするので、Aランク以上の冒険者であれば、もしかすれば、扱えるかもしれない。
どちらにしても、そのような魔術があることは知っているが、自分には魔術の素質はない。
「あらやだ、もしかして、この世界の人間は空を飛ぶ魔術も知らないのかしら。奴ですら、魔術ぐらい使えるというに。かわいそうな劣等種。」
「その劣等種に捕まっている哀れな羽虫は誰だ?。」
「はい、あたしなのです。。。あの、グローリーホールまで案内するから、ここから出してくれない?」
「そうだな、案内するからと言って出してやることはできないが、、、案内できたら、出してやってもいいぞ。」
「しょうがないわね。このあたしが自ら案内してやるから、光栄に思うことね。」
虫かごの中の羽虫は、偉そうに腕組をしながら宙を舞っている。
「ねぇ、ちょっと、あたしも行ってもいいかしら。ちょっとその魔術、気になるんですけど。」
と、隣人の霞さんが言うが、魔術が気になるといいながらも、目がドルマークになっている。
「いや、、、」
「ね、いいわよね!」
「あの、この羽虫は、、、」
「別にいいでしょ!こんなに一獲千金のチャンスはないわ。今日は遅いから明日の早朝、5時に迎えに行くわ。」
そもそも隣人の霞はこの羽虫となんら関係がない。
なので、断ろうと思ったが、霞が強引に食いついてくる。しかも、迎えに行くとまで言っている。
「じゃ、明日。寝坊しないでね。」
「え?あ、あぁ、わかった。」
という感じで、よくわからないノリで霞とは明日は最前線に行くということなってしまった。
――――――
いったん、霞とは別れ、家に入り、食事の準備をする。
ところで、作り置きしておいた夕食と一緒にデザートのケーキを冷蔵庫の中に入れておいたはずだが、見つからない。。。
ふと横眼で見ると、虫かごの中の羽虫のお腹が若干膨らんでいる気もするが、気のせいか。
「な、何よ。かわいいからって、そんな目で見つめないでよね。」
「誰が虫に欲情するか、見てるのは、お前の膨らんだお腹だ。」
「ちょ、ちょっとレディに向かって失礼な!」
「。。。食ったろ。」
「あ、あ、たし、ずっと、、、む、む、虫かごの中にいた、いたわよ。」
明らかに動揺している。まぁ、魔術かなんかでうまくケーキを食べたのだろう。ケーキぐらいでは俺は動揺しないのだ。




