154自室にて(タツヤ)
はっ。
と気づき、ベッドから起き上がる。気づけば、そこは自分のマンションの部屋だった。
周りを見渡すけども、誰もいない。
確か、あのとき、自分はアースホールの奥底から、霞の転生前の世界に行って、踏切の遮断機の前で……、
それからの記憶がない……。
いや、今、思い返せば、なんとなくだがうっすらとあの後の記憶がある。
あの後、すべて真っ白になって、しばらく、呆然としていたんだ。
天気が悪くなり、霞とアリエルが俺を連れて戻ってきた。
おそらく、アースホールにもどって時空間の歪みを使ってこの場所にまで連れて帰ってくれたのだろう。
あとで、霞とアリエルにありがとうとでも言っておこう。
もう一度、ベッドの上に寝そべり、天井を見つめる。
「……。はぁ。」
誰もいない。自分だけの部屋。
「ふっ…。ふはははっははっはははっは。」
なんだか、急に笑いたくなってきた。
「ふははははははっ。」
だってさ、本当にバカげてるじゃないか。隣人の霞が、自分が昔好きだった大学の先輩によく似ていた。そして、霞も転生者だった。だから、俺はいつの間にか、霞のことを、きっと、転生する前に好きだった大学のあの先輩のことだと一方的に思い違いをしていたんだ。
「ははははははっ。」
そして、何年が経過した?何度転生した?もう、気づけば、何度も転生を繰り返すうちに、何十年とか、何百年とかそんな単位なんかじゃない。万年、億年とかいう、途方もないような時間が経過したんだぜ。
「ははははははっ。」
幾度となく転生してきた。何度も、何度も、転生してきた。その度につまらない人生だっと思ってきた。だけど、今回の転生だけは違った。こんなに嬉しいことがあろうか、そう思っていたよ。だけど、それが、ただの思い違いだったんだぜ。
とんだオオボケだ。
これは笑わずにいられるか?
「ははははははっ。」
もう、笑いすぎて涙が出てきたよ。
「タツヤ……。」
「………。へ?」
俺を呼ぶ声がしたので、声をしたほうを見れば、机の上に虫かごが置いてあって、例の羽虫がいた。すぐ横に、食べかけのケーキが置いてある。
……見られていた。
てっきり誰もいないと思って、思いっきりを声を出して笑ってしまったが、完全にこの奇行を見られていた。
アリエルは口に生クリームをつけながらも、心配そうにこちらを見つめていた。
一応、アリエルがいる手前、もう一度、平静は装う。装ってはいたけども、とてもじゃないが、そんな気分じゃなかった。奇行をアリエルに見られていた恥ずかしさ、というのもあるけれど、それ以上に今は、どうしようもなく、誰もいない場所で思いっきり叫びたい。
「コホン、えーと、アリエル、少し出かけてくる。」
アリエルのことだ。どうせ、覗きに来るに違いない。だから、念を押しておく。
「いいか、絶対に付いて来るなよ。いいか、絶対だぞ。」
平静を装った振りをして、俺は部屋を飛び出した。
部屋の外からはこのラビリンスの眺望が一望出来る。いつても見てもキレイだ。ラビリンスの天井に作られた人工太陽と、提灯虫の照らす青い光がラビリンスの街並みと、大広場の大木を照らしている。
けども、ここにも人はたくさんいる。どこか、人のいないところに行きたい。
時間的には夜だろう。幸い、街はまだ復興したばかり。いつもと比べれば人はまだ少ない。
でも、未だ人はいる。いつもと比べて少ないだけ。
俺は街を飛び出した。
そして、俺は誰もいない洞窟内の泉へと急ぎ足で向かい、途中から走り出した。あたりに誰もいないことを確認して、笑った。
「ははは。ふはっはっはっはっはっはっ。」
大声で笑った。
「あああああああああ!」
ときに叫んだ。そして、また笑った。
「はっはっはっはっはっはっ。」
誰もいないことを確認して、気が狂ったように、自分の気のすむまで思い切り笑ったさ。
「ははは。ふはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ…。はぁ。」
涙がでた。
でも、笑った。
もう、なんでもいいし、どうでもいい。
ザブン!
俺は、泉の中にダイブする。
ラビリンスに季節などはない。夏だろうが冬だろうが水は冷たい。
夜光虫がいるのだろう。それがダイブすると、まわりの水が青く光っていた。
その青い光が洞窟の天井に射すのを見ながらも、気のすむまで、その湖水の中に浮かんでいた。