153ね、帰ろう。(霞)
あたしも転生者だそうなんです。
でも、あたしには転生する前の記憶というのはありません。
タツヤによれば、これがあたしのが転生する前にいた世界らしいの。
アースホールの奥の時間と空間の歪みを利用すれば、こうして、自分の記憶ない世界まで見えるらしいの。
すごいわよね。
そして、これが、転生する前の自分がいた世界。
あたしには、記憶はないけれど、確かに記憶の奥の片隅からは、どこか懐かしい感じがする。
それに、この駅前の人ごみや、大学のキャンパスの様子、サークルの部室やすぐ隣の公園、その一つ一つの場所から懐かしい匂いがするの。
あたしには記憶はない。けれど、とてもとても、そのすべてが懐かしい。
タツヤは、がむしゃらに大学のキャンパス、教室、サークルの部室、隣の公園なんかに行っては人を探している様子ね。あたしも、その後ろをそっと様子を見ているけれど、タツヤがいろんな場所に行くたびに、頭の奥底からとても懐かしい感じがする。
あぁ、そうよ。
ここの教室、あたしは確かにこの教室の後ろのほうで講義を聞いていたわ。
あぁ、この通りね。確かにいつも通っていたわね。
この公園ね。いつもダンス系のサークルの人たちがいつもここで踊っていたわね。
記憶はないはずなのに、どこか頭の奥底のほうから徐々に込み上げてくる風景。
あたしは、確かに、この時間に、この場所にいたんだと思う。
―――
けどね、段々と時間は経過して、夕方になって、ついにその時間が来たのよ。
この時代を過ごしているあたしと、タツヤがついに出会ったの。
踏切の奥にいるに彼女、後ろ姿しか見えないけれど、その姿は紛れもなく、昔のあたしであると確信したわ。
あたしは、タツヤからもいろいろ聞かされているから知っているわ。
タツヤが探しているその人と、あたしは同一人物かもしれない。
彼は、記憶を持ったまま何度も何度も転生したらしいの。ずっと何度も何度も。
あたしも転生を繰り返しているらしいけれど、あたしには記憶はないわ。転生するたびにリセットされるみたい。
けど、彼はずっとずっと、ずっと、これまでの記憶を持っている。
年数にして何年でしょう。百年とか千年とかいう単位ではないことはすぐにわかる。何度も何度も同じような人生を繰り返す、辛いことでしょう。
彼も言っていたけど、すべての人生が単調になり、ただ、その日を生きることだけが、生きる目的になっていたそうね。
けど、そこに彼の探している人とそっくりなあたしが現れた。しかも、ただ似ているだけではなくて、何度も転生を繰り返していた。それが、それまで、ただ生きるだけが目的になっていて、単調だった彼の人生というものを大きく変えたのでしょう。
彼は、あたしが転生者であることを知ってから、彼は大きく変わったわ。
そして、彼は、タツヤは、あたしに告白してくれて、ある約束をしてくれたのよ。
あたしがタツヤの探している人であっても、そうでなくても、あたしを守ってくれるって。
あたしはね、前にも言った通り転生前の記憶はないの。
だから、あたしがタツヤの探している人であっても、そうでなくても、今の生活には困るわけではないし、どっちでもいいのよ。
あたしは、気づいたらこの世界にいて、この世界で金をガッポガッポ稼ごうとしていただけ。
転生?そんなの言われるまであたしは知らなかったし、今いる世界をただ楽しんで生きるだけ。
けどさ、タツヤはあれだけ一生懸命に、あたしがその人であることを望み、何年という単位もつけられないほどの時間の間、タツヤの探しているあの人ともう一度会いたいと願っていたなら、ここでバッドエンドになるよりも、グッドエンドで終わりたいじゃない。
あたしね、タツヤのその背後でアリエルちゃんと一緒に、そのすべてを見ていたの。
そのすべてを。
振り返ったその人は、確かに昔のあたし、そのものでした。
けど、タツヤの探していた人ととは………。
あたしはタツヤに声をかけることもできませんでした。
その後、しばらく時間は経過しました。けども、とてもタツヤに声をかけられるような状況ではありません。
でも、その後、天候はどんどん悪くなっていきます。
それまでビルの隙間から綺麗な夕焼けが見えていたというのに、徐々に赤黒い雲が集まり、そして、雨が降り始めました。
最初は小雨、そして、徐々に大降りになります。
彼は、びしょ濡れになってました。
踏切の遮断機の前に、ただ、ただ、ひたすらに終始同じ場所に立ちながら、ただ、下を向いていました。
さすがに、このままでは、体調を悪くしてしまいます。
あたしは、タツヤの背中にそっと手を乗せました。
その背中は、小刻みに震えていました。
「タツヤ……。ね、帰ろう。」
そっと声をかけましたが、ただただ下を向いているだけで、返答はありません。
雨が降っているせいでしょうか。彼の顔面からはたくさんの雫が滴り落ちてました。