12純白の生命体との遭遇(タツヤ)
「ふむ。」
地図の調査をしていると不思議なことに気づくことがある。
基本は自分の足で大迷宮を歩き回り、測量して、地図を埋めていく。そうすると、地図上にポカンと不思議と決して埋まることのない未調査領域ができたりする。大抵そういうところは行ってみると、岩石で埋まっている領域で人が入れない場所であったりするのだが、今回は違った。
その未調査領域を囲むように、周囲には鬱蒼としたヤブに包み込まれている。しかも、ヤブには痛そうなトゲがあるときた。頑張って入ろうとしても藪に押し返されるほどに凄いヤブ。死ぬ気でヤブ漕ぎをすれば入れなくもないが、どうしたもんかと、そのまま地図調査を放置していたのだ。
「ふむ。」
タツヤは悩んでいた。
果たして地図にポカンとあいたこの未調査領域を測量することに意味はあるのだろうか。
この未調査領域は岩石で埋まっている場所ではない。
単に鬱蒼としたちょっと痛そうなトゲのついたヤブに阻まれているだけ。死ぬ気でヤブの中を漕いでいけば入れなくもないが、未調査の領域の中には何もなく、単にヤブが生えているだけの可能性もある。その場合、自分の努力は無駄になるだろう。
タツヤは自問自答する。
なぜ、自分は地図の測量をしているのか?
金になりそうな鉱脈を探すためか?冒険者達に地図を売るためか?
「いや。違うな。」
タツヤはいろいろ考えて、一つの悟りに達する。
「そこに未調査領域があるから。」
ならば、調査可能な領域があるならば行かなければならないだろう。
タツヤは意を決して、未調査領域のトゲの生えたヤブに突っ込んでいく。
痛い!
トゲが体中に刺さり、痛い!
さらに、右も左も目の前も全部ヤブ。あまりのヤブの凄さに体が押し返されそうになりながらも、一歩一歩を力強く進んでいく。
たまに、目の前の藪に気持ちの悪い毛虫みたいな虫がいたりして、背筋が凍りそうになりながらも、すべてを我慢し、力強く進んでいく。
だが、あまりのヤブの凄さ、そして、トゲの痛みに心が萎えそうになり、ふと、背後を見るも、背後もすでにヤブ。もう、引き返すことはできないのだ。
タツヤは自分に言い聞かせる。
自分はただのマッパーではない。プロのマッパー、プロマッパーなのだ。
それを信念に、このトゲのあるヤブ中でさえ、痛みに耐えつつも、歩数を計数し、コンパスの向きを確認し、測量を行う。
とろこが、あるとき、目の前にふと、突然、ヤブがなくなった。
どうやらヤブに囲まれた中に小さな空間があるようだった。
目の前の光景は淡くピンクに色づく花が絨毯にように一面に咲いていた。赤やピンク、青、橙に色とりどりの花。その上を蛍だろうか、光る虫が舞っている。
この大迷宮では、基本的に薄暗いせいか、どの動植物も色がない。そんな世界にピンク色の花の絨毯はとても珍しく、思わず息を飲んだ。
そして、その一面の花の絨毯の上を、蛍に紛れて一匹の美しい蝶が舞う。
蝶、たまにこの洞窟内にも見られるが、いずれも真っ黒であったり、暗い色をした蝶。
だが、そこに舞う蝶はまるで、透き通った羽を持つ美しい蝶だ。
そして、その蝶は、花の絨毯の真ん中付近から湧いている泉の脇に止まった。
タツヤは、それまでトゲのある凄いヤブをかき分けてきたという痛み、苦しみ、苦痛を思わず忘れ、その蝶の近くにまで歩き寄った。
うん?
蝶?
近づくにつれて、よ~く見ると、それは蝶のように見えたが、蝶とは違うように見えた。
胴体はまるで人の形のようで、手を持ち、足を持っている。純白の衣を着ており、毛並みの良い銀色の髪をしている。
タツヤが徐々に近づくと、それはますます、蝶ではないことが明らかになり、小さな美しい人の形をしたものに、美しく透明な羽が着いた生き物であることがわかってくる。
「・・・。」
「・・・。」
そして、二人は目が合ってしまった。
「えっ!」
「あら、やだ。」
「・・・。」
「・・・。」
二人はしばらく、目を合わせたまま、言葉を失っていた。
これが妖精と呼ばれる生命体との出会いである。




