11幕間:魔獣と呼ばれる肉食動物(タツヤ)
地下深くの洞窟には大型の生物はいない。
それが、この大迷宮が発見されるまでの常識であった。
だが、実際は違う。深層1万mクラスになると、奇妙な生物たちで溢れかえっている。
洞窟の中なので、暗いせいか、虫は発光性の昆虫が多い。例えば、有名なのが提灯虫。洞窟内のそこら中に生息していて、真っ暗な洞窟に光を差し込んでいる。大きさは人の頭ぐらいの大きさで、まるでカブトムシのような形。六本を足を持ち、羽を持つ昆虫だが、頭の先のカブトには深海の住むチョウチンアンコウのように、頭から伸びる提灯のようなものを垂れ下げ、そこに青い光を輝かせる。
おかげさまで、本来は暗いはずの洞窟が快適に探索できる。冒険者にはありがたい存在だ。
そして、虫達の光によって、植物が育つ。植物といっても苔などの地衣類から草、木といった植物が育っている。
おそらく地上の植物は太陽があるから緑色なのだろう。深層に生えている植物の多くは黒い。葉も幹も根ですら黒で光を照らせば、まるでそこに影絵があるかのように洞窟内に生えている。わずかな光をも逃さないように独自のを進化を遂げたのであろう。
そして、その植物を食料とする虫がいれば、それを捕食する小動物や鳥がいる。わずかな光でも動けるように巨大な目と、音の感覚に頼るのであろうか、耳が大きい。そして、それら小動物や鳥たちを捕食する肉食動物がいるのだ。
このような深層1万mの世界ですら弱肉強食の食物連鎖が成り立っている。
そして、その深層1万mの領域にて、弱肉強食の頂点に立つ動物、我々はその容姿から大耳熊と呼んでいる。
熊のように四本足で、毛がふさふさしているが、特筆すべきは退化した目と巨大な耳、高さは人の倍はあろうかといいう巨大な体格に、まるでシカのような巨大な角だ。
その巨大な体格を利用して、他の動物を容赦なく襲う。
もちろん、襲うのは動物だけではない。動くものすべてが対象、もちろん人間もだ。
そう、このような危険な肉食動物もおり、冒険者たちの間ではこのような肉食動物を魔獣と呼んでいる。
だからこそ、冒険者たちは危険に備えて、常に銃や剣などの武器を常備する。
ラビリンスの冒険者であれば、常識なのだ。
だが、それは冒険者の間での常識。ラビリンスのような大都市には冒険者ではない一般人たちも多数いる。
ラビリンスは冒険者向けではなく、そのような一般人向けに、大迷宮を観光用に開放しているところもあるので、観光客として迷宮を訪れる人もたくさんいるのだ。もちろん、観光用の区画は、ロープで区切られ、安全が保証された場所なのだが、たまに迷惑な観光客が、何も考えずに観光用区画から出ていくことがあるのだ。
「やべぇ、っぱないわ。観光向けと違って、やっぱ天然の大迷宮は違うっしょ。」
「ちょっと、タカシィ、暗くてよく見えなくなくない?」
「おぃ、この辺でBBQとかやろうぜぃ。」
そんな会話をなすのは、金髪の男女三人組。いかにもチャラいという感じの若者だ。
その3人がいるのは、観光用にロープで区切られた区画から、かなり遠く離れた冒険者向けの迷宮なのだ。
その中のタカシと呼ばれる男がバーベキューでもやるのか、薪を並べはじめ、火をつけるためにか、ライターに火をつけた。
もともと真っ暗というわけではないが、提灯虫が照らす光しかないので、薄暗い場所だった。
火をつけたことで、その周りが一気に明るくなったのだが、、、
「え、おい、タカシ?、う、後ろ」
「ちょっと、タカシィ、後ろ、なんか凄いのが、いるんだけど。」
タカシの仲間の男と女がそれぞれ後ずさりをする。
「あぁ、後ろだぁ?」
と言ってタカシも後ろを振り向いた。
そう、背後に奴はいた。大耳熊だ。
奴らは獲物を狙うため、その強大な体格のわりに音を立てずに移動するのだ。
今、大耳熊は二本の足で立ち上げる。ただでさえ大きな体格だが、大きな耳のせいでさらに大きく感じれ、目の前にいるタカシは、もはや大耳熊に比べれば、子犬程度の大きさしか見えない。
そして、その鋭い爪はタカシに向けて、大きく振りかぶられたのだ。
「タカシ!」
「タカシィ―!!!!!」
ズドン!
男女の悲鳴と一緒に低く乾いた音が洞窟内にこだました。
それと同時に、大耳熊の頭が胴体から離れ、その場に倒れた。
男女三人が音の鳴る方向を見ると、小さな刀を構えた男がいた。
タツヤだ。
「おい、ここは観光用に解放されてない区画だ。勝手にロープから出てはだめだ。解放されてない場所には、こういうヤバい魔獣がいるんだ。食われないように気を付けろ。」
「あ、あ、ありがとうございます。」
タツヤは懐から無線機を取り出す。
「あぁー。こちらブロックAからブロックCへの通路だ。観光客が区画から勝手に離れて、大耳熊に襲われていた。保護をお願いする。」
「こちら、管理組合、了解。今から保護に向かう。」
たまにではあるが、マッパーという仕事をやっていると、こんなことにも出会うのだ。




