101マンネリ化した世界からの脱却
この世界に冒険者という名前の職業を生業としている者は多くいる。
とは言っても、正式な職業ではない。
ラビリンスに職業安定所があり、そこで出されている仕事を引き受けたり、大迷宮と呼ばれている洞窟の中から資源となる鉱石を採掘するのが、実際の仕事。日雇い労働者のようなもの。
単にそれを、最近の流行りになぞらえて、職業安定所をギルドと読んだり、ただの洞窟を大迷宮と読んだり、そして、職業安定所からの仕事に従事する自分を冒険者と呼んでいるだけのこと。
この世界に、本当に自身で、冒険し、自ら新たな世界を目指そうとした真の冒険者がいるだろうか。
いや、”ほぼ”いない。
口ではみな言うのだ。
「この大迷宮の地底を目指す!」「大迷宮の大深層で、とんでもないお宝を見つけてやる!」などなどだ。
そして、彼らはいずれ壁にぶち当たる。
それが、このグローリーホール。どんなに夢を抱いていても、この先には絶対に進めない。
RGF社が安全に穴を下るための工事をしているも、もう何年もたつが今だ成果は望めていない。
口では、まるで夢を見ているかのような言葉を出すも、決して、この先に足を進めることはできない。
結局は、口では立派な夢を語りながらも、日々の日銭を稼ぐために、鉱石を見つけては掘り返す毎日。
そして、魔術の使えないDランクの冒険者たちを前に、偉そうな顔をして振舞うのだ。口だけの冒険者の癖して。
全員が全員そういうわけではないが、そういう輩が多いということ。
それが、このラビリンスでの当たり前。
当初は冒険者たちが、グローリーホールに辿り着き、他にも道を探したが、下に抜けられる道が、この大穴しかないと、わかってからというもの、変わることのない日常。
それが、もう常態化し、マンネリ化していた。
だが、ごく稀にだが、このグローリーホールを突破した者たちが過去にも、僅かばかりいる。
彼らは大馬鹿者などとも言われている。
だって、彼らはこのグローリーホールに、何も考えずに飛び込んだのだ。
中には、風船をつけて下ったりと、作戦を考えている者たちもいたが、どうみても、まともに下れるようなものではない。
だが、彼らは大馬鹿者だが、真の夢追い人だ。
決して、恐れることなく、皆、自身の夢のために、命をかけた。
そして、その後はわからない。彼らが、グローリーホールを攻略できたか、はたまた失敗したのか。
だって、この穴に飛び込んだ者で、戻ってきたものは誰もいないのだから。
ただ、おそらくは失敗したのだろうと、多くの者は思っていた。
そりゃ、この大穴だ。遥か深くまで漆黒の闇が続く、この大穴に身を投げ込んだのだ。
生きているわけがない。それが、多く者が思っていたこと。ただ、証拠がないだけ。
そう、それまでは、それが通説、このマンネリ化した冒険者達の間での当たり前だった。
ところがだ。今、その通説は覆ろうとしている。
今、ここに、その大馬鹿者と分類される人間であり、グローリーホールの底から戻ってきた者がいる。
そして、彼らは言う。置き手紙があり、そこに「ベベルゼルド」という名が記されていたという。
ベベルゼルド、リュウゼン=セイイチ、アイリス=クロニエル、、、
彼らもまた、大馬鹿者と呼ばれた冒険者だった。
特に、ベベルゼルド、彼は滅多にいないSランク冒険者ともあり、ラビリンスで古くから活動している冒険者であれば、一度は名前を聞いたことがあるほど、有名であった。
そして、彼は人を駈り立たせるほどのカリスマ性があった。
彼らは、独自にグローリーホールを攻略しようと、有志の仲間たちを集め、このグローリーホールを攻略しようと、彼らもまた、この穴に飛び込んだのだ。
その後、音沙汰はない。
数年経てども音沙汰なく、みな、内心は失敗だったと決めつけていたのだ。
ところが、今、グローリーホールに戻ってきた者たちの証言によれば、置き手紙があった。
それは、紛れもなく、ベベルゼルドたちがこのグローリーホールを攻略できた証拠だ。
周りの者たちはみな口々小声で騒めく。
「嘘だろ。あのベベルゼルドの野郎は生きていたのかよ。」
「まじかよ。この大穴を攻略したのかよ。」
「あいつら、本当に、、、」
ベベルゼルドがグローリーホールを攻略していたという話は、ラビリンスの冒険者たちには大きな希望を与えるのだ。
そして、それだけではない。
みんな、グローリーホールを攻略できずに、口先だけは、夢や希望を語っていた。
所詮は口だけ。実際は、マンネリ化した世界に、夢や希望を失っていた。
そこにだ。グローリーホールから戻ってきた者が言うには、巨大なレッドダイヤがニョキニョキ生えているばかりか、逆さになった城があり、そこに宝物庫がある、と言うのだ!
この意味が分かるだろうか?
そう、グローリーホールの地底には、ロマンと宝があった!
これを聞いて、動かぬ冒険者がいようか。
みな、わかっている。所詮は口だけだったと。でも、今、グローリーホールの地底に宝とロマンがあるとわかった瞬間、再び、夢やロマンを語ってもいいではないか。
もう一度、夢を見てもいいではないか。
みんな、口先だけの冒険者から、今一度、夢を追いかける真の冒険者へ立ち返ろうではないか。
周りではいまだ、ざわめきが止まらない。
みな、うっすらと、目に涙を浮かべる者もいる。
みんな気づいていたんだ。口先だけの冒険者になっていたということ。
ある者が口に出す。
「おい、俺もグローリーホールの底を目指す!!」
それに賛同するものたちで、再び、ざわめきから、大きな盛り上がりへと変わった。
その日、グローリーホールのほとりでは、一日中、歓声が上がったという。




