97告白(リア)
ここは、ラビリンスの職業安定所、通称、ギルドの建物の裏側の茂みの中。
先日のアイギスの攻撃によって、ギルドの建物も崩壊したけれど、今は冒険者たちの手によって仮設で復旧したわ。
そして、今はあたしと、妖精さんで、茂みに隠れて様子を見ているの。
妖精さんから聞いた話によれば、あのタツヤが霞に告るとか!
こんな面白いイベントはないじゃない。
妖精とバンパイヤ、その対立は はるか古来から続くというけれど、今はどうでもいいわ。妖精さんからは、面白い情報を渡す代わりに、生気を分けろ、とか言っていたけれど、こんな面白い情報なら、いくらでも生気なんてあげるわ!
「リア、タツヤが来たのです。」
「妖精さん、しーっ、よ。」
「わかってるのです。」
当初、予定時刻よりも、はるかに早く、あのタツヤが現れれたわ。だけど、霞も霞で、予定時刻よりも随分と前に現れる。
――
「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだ。」
――
「ぷっ、聞いた?聞いた?今のべたな会話。てか、二人とも約束の時間よりも全然早いのに『待った?』ってなによ。」
「リア、しーっ、なのです。」
――
「なぁ、実は話を聞いてもらいたくてな。オレ、好きな人がいたんだ。。。」
「無理。」
「えっ。」
「あたし、オッサンと付き合うとか無理だから。金なさそうだし。」
「。。。」
二人の間には、何とも言えない沈黙の時間が続いていた。
――
「タ、タツヤ~。わずか、会って即効で撃沈。まだ告る前に撃沈とは。あたしがあとでなぐさめてあげるわ。」
まさかの展開にあたしは、ハンカチの角をかみしめ、タツヤに同情します。
「これはさすがに、かわいそうな展開なのです。せめて告白だけでもさせてあげるのです。」
「待って、妖精さん。タツヤ、まだ、めげずに頑張る様子よ。」
――
「そっか。わかった。だけど、話だけでも聞いてくれないか?」
「えぇ、いいわ。」
「オレ、好きな人がいたんだ。
もう、昔の話だ。自分が通っていた大学の先輩だった。俺はいつも孤独だった。小学生、中学生、高校生とずっと孤独だった。だけど、大学に通ったとき、その先輩に出会った。孤独だった自分にかわいい後輩として接してくれた。俺はそんな先輩が好きだった。
その後は会社に就職したけれど、結局、孤独な毎日、ブラックな企業で夜遅くまで働き、身体を壊し、死んだ。前にも言ったかもしれないが、俺はその後転生したんだ。転生した後も、結局何も変わらなかった。他人と交流することなんてない。せいぜい、店員さんとの『これ、いくらですか?』ぐらいの会話ぐらい。どこかの軍隊に招集されては、ただの雑兵として戦場で死ぬだけ。そして、また、転生する。
俺は、転生した後も、転生する前のあの先輩のことが忘れなかった。ただ、単に何もすることもなく、いつか訪れる死を待ち、そして、再び、転生するだけの人生。もう何度も転生した。2、3回、100回、1000回、最初は数えていたけど途中で数えるのを止めた。それだけの間、転生を繰り返した。どれもまったく同じ転生、いつしか、ただ時間が過ぎ、人生を終えて、次の転生を待つだけの単調作業になっていた。年数にすれば、もう数万年をただ、ただ、何もせず、生きてきた。そんな中でも、その先輩だけが唯一、自分の思い残したことだった。
だけど転機がきたんだ。自分は、この地下大迷宮都市ラビリンスのあるこの世界に転生した。いつものようにただ、死を待ち、次の転生を待つだけ、ただ時間が過ぎるのを待つだけのいつもの転生と思っていた。
だけど違ったんだ。
俺は霞と出会った。そして、霞はそっくりだったんだ。それが好意を寄せた転生する前の、大学のあの先輩に。まさかと思った。だけど、何度も転生していれば、そっくりな人ぐらいいるだろうと思ったさ。だけど、心の底では、その奇跡とも言える偶然を祈っていたのかもしれない。
そして、アイギスが言うには、霞も転生者だという。まさかと思ったよ。その瞬間、ただ次の転生までのただ時間を過ごすだけの転生が、突然に変わったんだ。
もしかしたら、と思った。まさか、と思った。そんなことはないと思ってる。ただの似ている人だけかもしれない。だけど、もしかすると、万が一にかもしれいないけれど、霞、あなたは俺が好意を寄せていた大学の先輩、その人かもしれない。
もう、何度も転生した。年数にすれば、気の遠くなるほどの年数も経過した。こんな好機が訪れるなんてまったくもって思ってもなかった。
霞、あなたが俺を受け入れなくても構わない。それでも、俺は、霞、あなたの側にいたい、いさせて欲しい。霞が俺を受け入れなくても、少なくとも、俺が大学時代にあなた俺に良くしてくれたことの恩を返させてほしい。オレはあなたの側で君を守りたい。」
タツヤは言い切ったのです。
そして、再び、しばらく流れる沈黙の時間。
時折、ラビリンスには下層から上層へと風が吹き付けますが、その風が霞の髪を揺らします。
「ごめん、あたしがあなたの好きな人だったとしても、あたしには、転生する前の記憶はないの。」
「あぁ、わかってる。それでも構わない。」
「それに、あたしがあなたの好きだった人である確証はどこにもないわ。」
「それも、わかってる。それでも構わない。」
「そう。。。言っておくけど、あたしは、あなたのことをただの変態、、、じゃなくて隣人としか見てないわ。」
「・・・。・・・。それでも構わない。もう変態でもいい。」
「そ、そう。。。なら、好きにすればいいんじゃない?」
「あぁ、そうするよ。」
「そう。。。」
ここからは二人がどのような顔をしているのかはわかりません。
けど、そこから霞は、ゆっくりギルド建物裏から歩き始め、タツヤの方へ振り向いたのです。
「そう。なら、さっそく一緒に来なさいな。」
「うん?一緒にって、どこへ?」
「アースホールよ。」
「アースホール??」
「あの辺はレッドダイヤが沢山あるじゃない?金よ、金。」
「ぷっ。金か。あぁ、わかった。付き合おう。」
――
「ねぇ、妖精さん、これって成功したのかしら。」
「うーむ。まぁ、振られたけど、友達から始めましょうよ。っていうところかしらね。まぁ、脈あり、っていうところじゃないですかね。」
「今、『変態としか見てない』とか言われてなかったかしら?」
「うん。きっと気のせいなのであります。タツヤが若干顔が引きつって無言になったのも気のせいなのであります。」
「なんか腑に落ちにないわね。もっと、ギューしてブチューみたい感じになると思っていたのに残念ですわね。」
「おい、最高血種の血筋ともあろう生き物ががはしたないのです。」
もっと面白いものを想像していたのだけど、ちょっと的外れでしたわね。
まぁ、結果オーライという感じでしょうか。
あたしと妖精さんは、そっとバレないように、ギルドの建物の裏側の茂みからこっそり撤退するのです。
「あら、妖精さんたら、顔をニヤニヤさせちゃってはしたないこと。」
「あら、リアも、ずいぶんと顔をニヤニヤさせて、はしたないのです。」
――
霞は再び歩みを進めて、ギルドの建物の角を曲がろうとしたところで、踵を返す。
「ねぇ。それにさ、あのアースホールを使えば、もしかしたらだけど、あたしの過去に行けるかもしれないじゃない。そうすれば、真実がわかるかもしれないじゃないの。」
ふと、思わぬ返しににタツヤは一瞬だけ尻込みし、ポカンと口を開けてしまう。
だが、すぐにちょっとだけ笑顔になる。
そうだ。
前に行った際に、こっそり霞の過去を見ようとした。けど、勇気がでなくて、あと一歩が踏み出せなかった。
でも、霞がいる今ならば、その勇気が出せそうな気がした。
「あぁ、そうだな。」
「あら、そんな顔できるのね。初めて見たわ。」




