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96幕間:俺たちの未来(ダン)

 

 例の事件が起きてからというもの、ギルド、正しくは職業安定所なのだが、そこから依頼は、もっぱら瓦礫の撤去や、道路、水道などのインフラの修繕、仮設住居などの建設など、復興に向けた仕事が多くなった。

 とはいっても、ここは大迷宮の中、ラビリンスは瓦礫の山になっても、魔獣たちは洞窟の奥底から湧いて出てくるので、討伐の依頼も依然としてあるようだ。


 私も、瓦礫の撤去や、道路の修理など行って、このラビリンスの復興に一役買っている。

 今日も一日を終えるが、しばらくは復興のための仕事が続きそうだ。


 それはそうと、私たちは、仕事を終えると広場に集まっていた。

 いつもなら、稼いだお金で酒場で酒を飲んで、他の冒険者たちと交流したりするわけだが、何せ、その酒場も例の事件のせいでなくなってしまった。


 それで冒険者たちはというと、行きつけの酒場もないので、瓦礫の山になってるこのラビリンスの広場に、みんな自然に集まるようになっていた。瓦礫から使えそうな廃材を取り出しては、器用に細工して、机やら椅子やらを自作し、そこで、どこから集めてきたのか酒や料理を持ち寄り、いつもの酒場と変わらぬ様子で楽しんでいるようだ。

 自分の家が全壊した人もいるようで、そのような人たちは、この広場にテントを張り、ここを拠点としているようだ。


「なぁ、聞いてくれないか?」


 そう、声をあげるのは、廃材で作ったテーブルの目の前にいる冒険者、先日の非常事態のときに一緒の班になった冒険者のグレゴリーだ。

 アイギス戦のときは、非常事態宣言が出されていて、特定の班に半ば強制的に招集される。

 ちょうど、私たちは、そのとき偶然にも同じ班になった者同士で、打ち上げをしていたのだ。


「俺よ、地上を目指そうと思うんだ。」

「地上だと!」


 テーブルを一緒に囲んでいる仲間が驚きの声をあげる。

 この大迷宮では、ラビリンスという大迷宮地下都市が出来て久しい。当時に地上の様子を知る者もまだいるが、誰も地上に行こうと考える者など、これまでいなかった。


「こないだの事件で、ラビリンスはこんな状況になっちまっただろ?でも、それならよ、地上に行っても同じもんじゃねぇかと思ってな。だったらよ、もう一度地上に戻って、新しく街を創れないかと思ってな。」

「街を作るって、、、一人でか?」

「そんなわけねぇだろ。だから、もし興味があるなら同志を探してる。」

「地上か。。。そういえば、どうなったんだかな。」

「地上つったって、ここから1万mも上だろ。行くだけでも大変だろ。」

「まぁな、だが、俺たちは、それなりにこの迷宮で稼がせてもらったんだ。それなりに装備は十分あるさ。」


 この話はグレゴリーの班での内輪の話だ。

 ここは街の広場のど真ん中。当然、周りで飲んでいる人にも声は漏れているのだ。

 周りからは、小さく、


「地上か。。。」

「なぁ、地上だと。。。」

「。。。地上」


 といった声が聞こえている。

 付近の冒険者たちにもグレゴリーの地上の話はただ漏れのようだったが、それは周りの冒険者たちの関心をも掴んだようだった。


「まぁ、地上なんて話、興味あるやつだけでいいさ。もし、一緒に来てみたいやつがいるなら、明日の朝、ここに来てくれ。」

「ふん、これも何かの縁だ。とことん付き合ってやるぜ!」


 グレゴリーの提案に班の数名が賛同した様子だった。


「おい!それは俺も混ざっていいのか?」


 ふと、隣から大声がしたかと思えば、ひげもじゃの大男がビールの入ったお手製のジョッキを片手に持ちながら、私たちの班に割り込んできた。酷く酒臭い。相当、酔っているようだ。


 たまたま隣のテーブルで飲んでいて、今のグレゴリーの話を聞きつけたのだろう。


「ああ、構わねぇさ。」


 ひげもじゃの大男は、自分たちのテーブルに振り返り、再び大声で話しかける。


「おい、地上だとよ。久しぶりに戻ってみねぇか!おい、お前、地上なんて知らねぇだろ。地上はな、こんな地下迷宮なんかよりも広くて、青くて、緑がいーーっぱいだぜ!」


 おそらくは、ひげもじゃの班には地上を知らない新入りがいるのだろう。ひげもじゃの男は自分の班に向けて、話したつもりなのだろうが、その声はグレゴリーよりも大きく、この広場いっぱいに響きわたった。


「おい、あんちゃん、地上に行きたい奴は、明日の朝、ここに集合でいいんだな?誰でもいいんだろ?」

「あぁ、構わないさ。」


 ひげもじゃ大男は再び、大声をあげるので、その声は、この広場一帯に響き渡る。


 私も、地上から逃びた人間だ。ひげもじゃ大男が言っていたが、地上には青い空、青い海、緑の森が広がっていた。もう、なんて何年も見ていない。


 地上か。。。興味はつきないな。


 ―――


 翌朝のこと。

 グレゴリーは自分の班に声をかけたつもりだったのかもしれない。

 だけど、あのひげもじゃ大男が大声を広場中にあげたせいで、宣伝効果があったのだろう。


 いつもは、ガランとしている朝の広場には、あふれんばかりの冒険者たちが集まっていた。


 あのひげもじゃの大男もいるようだ。


 グレゴリーはこの様子にしばらく口を開けていたようだったが、少しだけ笑みをこぼし、広場にあつまった冒険者たちに声をかけた。


「ふん、行くか。地上に。」

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