1 初めての転生(主人公)
「つまらない人生だった。」
人生の多くをイジメられながら過ごした。友人なんていなかった。いいことなんて何もない。そして、卒業した後も、会社という名の刑務所に朝から夜遅くまで、無期懲役として服役した。
つまらない、といっても一時期だけは楽しい時期もあった。
それは、自分の大学生活のときのこと。その時だけは、友人というものができた。仲間ができた。どこかへ遊びに行ったり、サークル活動などにも楽しく勤しんだ。
結局、実ることはなかったが恋もした。大学のサークルの1つ上の先輩。八方美人というのだろうか、キレイな人でモテた。比較的肉食系で、男どもから金を巻き上げるのがうまかった。そんな先輩からは、かわいい後輩として接してくれ、そんな先輩が自分は好きだった。
けども、それだけだ。長く過ごした人生から見れば、楽しかったのはそれだけ。一時的にいた友人や仲間は時が経つにつれていなくなった。完全に孤独。わずかに楽しかった期間を除けば、イジメられるか、孤独な人生を過ごしていた。
だが、それも終わった。気づけば齢40が過ぎ、体力は衰え、体調がどんどん悪くなる。
そして、いつ、どうやって、人生を終えたのか、まったく記憶がないが、私は死んだのだ。
まぁ、どうせ過労で孤独死でもしたのだろう。
死後の世界。
どんな世界が待っているのかと思えば、アニメ風に言えば、転生というのだろうか。
初めての転生後の世界は、中世ヨーロッパの世界だった。貴族や騎士が活躍する中、自分はただの下級階層として生まれた。
ただ俺は、普通に街で暮らし、ただ、平穏な世界を過ごしたかっただけ。
だけど、運命はそうはさせなかった。
ある日、徴兵された。
隣国との戦争が起きたのだ。
ほぼ強制的に連行させれられ、必要最低限度の訓練だけを受けさせられた。
騎士たちは、立派な防具に、鋼の剣を装備しているというのに、俺たちは、布の服に、武器といえば、木の棒だ。まるで、某有名RPGの初期装備のようだ。
これで、いきなり戦場に駆り出され、相手は万単位の大軍隊、こちらは、たかが数千人の軍隊。
勝敗は火を見るよりも明らかだった。
戦場は酷い。
戦いというよりも一方的な蹂躙だった。
相手の兵士は、戦いに勝つだけでは飽き足らず、負けた兵士を殴る、蹴るの暴行を加えるのは当り前、生きたまま内臓を抉り取るなど、とても人間とも思えぬ鬼畜所業すらしていた。
命こそ助かったが、体中から出血し、体中が痣だらけになり、生きているのが不思議なくらいだった。
ただ、偶然にも天候が味方した。万単位の敵兵がいたというのに、嵐が起き、偶然にも巨大な竜巻が起きて、敵陣地を蹴散らしてしまった。
あたりを見れば、死体の山、そんな中を俺は運がいいのか、悪いのか、生き伸びた。
自国へと戻ったが、俺に与えられたのは賞賛ではなく、罵倒だった。
騎士たちの多くが戦死した中、なんでこんな下級階層の人間が生き残っているのだとか、戦争に招集されてない上級階級以上の人間たちは、俺を罵倒した。
石を投げつけられ、そのまま街で生きることはできなかった。仕方なく、街の影にひそんで、こっそり、ゴミを漁りながらに、生き延びた。
そして、よくわからないが、あるとき、自警団に捕まった。
そのまま牢屋にぶち込まれ、毎日、拷問にあった。
毎日、イバラの鞭で叩かれ、熱湯をかけられ、爪をはがされた。
「いい加減に、全部吐けよ!」
などと言われても、何を吐けばよいのかすら、まったくわからない。
まったく、意味がわからなかったし、もう、いい加減に死にたかった。
結局、転生をしたけれども、何も変わらない。
それまでの人生と、何も変わらない、ただ、暗いだけの人生。
結局はこうなる。
人生なんて、楽しいことなんて一つもない、、、とは思ったが、一つだけあった。
転生する前に、大学での生活。あの時だけは、唯一、たった唯一楽しかった。
そして、自分は大学のサークルの一つ上の先輩に惚れた。
美しく、綺麗な人だった。男をもてあますのがうまく、お金好き、というのもあるが、それも含めて、あの人に見蕩れ、惚れていた。
願うことならば、もう一度あの人に会いたい、とそう願った。まぁ、そんなことを願ったところで、無意味だが。
「おい、出ろ。」
刑吏が、俺の両脇を掴み、どこかへ連れていく。
連れかれた先には、街の広場になっており、多くの民衆、といっても上級階級以上の民衆だが、集まっていた。
そして、広場の中央に用意されていたのは、断頭台だった。
「あんたも、大変だな。自分の運命を呪うんだな。」
民衆たちが罵詈雑言を俺に向ける中、ふと、隣にいる刑吏が俺に声をかけた。
「あんた、この街の貴族の悪事がバレて、あんたは、その罪を擦りつけられたんだよ。かわいそうにな。次の世界では、幸せに生きろよ。」
なるほど、そんなもんだとは思っていたさ。
転生する前の人生でも同じようなことは何度もあったんだ。
むしろ、これで、この人生を終えられ、苦痛から解放されることに感謝するさ。
刑吏が俺の体を断頭台に固定する。
ただ、心残りがあるとすれば、転生する前の、大学時代のときのあの先輩に、もう一度ぐらい会いたかった。
願うならば、あの人のいる世界へと、転生をしてみたいものだ。
ふと、目の前の視界が変わり、まるで地面が自分に向かってくるような光景が広がり、迫ってきた地面に激突する。そして、直後に視界は真っ暗になった。