09
「さて、カレンとやら。自作自演について申し開く事はあるか?」
ギロリと睨みつける国王の視線を受けてもカレンはニッコリと笑い
「すべてアンジェリカがいけないんです。あたしが幸せになるにはアンジェリカが邪魔だったんだもん。あたしは幸せになれるって、生まれた時から決まってるんだもん。ちょっと付け加えるくらいいいじゃん。意地悪言わないでよ。いじめられてたのは嘘じゃないしぃ」
などというから、全員の度肝を抜いた。
近衛騎士はあまりの言種に思わず腰の剣に手をかけたほどだが、それは王妃が視線で制する。
「そんなすまし顔のアンジェリカより、かわいくて愛嬌のあるあたしのほうが絶対に王妃になれると思うし、そう思ってくれたからみんながかばってくれたんだもん。ねー?」
カレンが満面笑みでキースと側近だった彼らを見つめると、彼らもぎこちなく頷き合う。
あれほど国王の視線一つに身動きが取れなかった彼らの頭は、まだ、自分の中のどこかに微かには残っているだろう違和感を告げる声を、正しく受け取れないでいるようだ。
国王もそういう何かを感じるのか、──声にも顔にも一切出さないが──理解不能の摩訶不思議な物を発見したような気持ちでいる。
「キース、お前はコレを望むのか?心底、コレがいいのか?」
国王の言葉に何も言えないままのキースに首を傾げたカレンは、断りを入れる事もなく発言した。
「だってキースもいってたもん。淑女教育、王太子妃教育、そんなのを受けた型にハマったつまらない女よりも、ニコニコ笑って愛嬌のいい私の方が国母に向いてるって。そんな教育された女じゃ王妃としても妻としても母としても、つまらなくて意味ないって言ってたもん。王妃は王様の後ろで笑って王様を愛していればいいんでしょ?誰だってできるじゃん」
静まり返った部屋にパチン、と小さな音が響いた。
王妃が開きかけた扇子を閉じた音である。
「キース、あなたはわたくしを始め、歴代の王妃殿下を屈辱しているのですか。そういう事なのでしょうね。わたくしが、教育のせいでつまらない女であり、つまらない母だったと」
ジッとキースを見て言う王妃に、キースは何も言えなかった。
「そうですか。そう思っていたのですね」
「ち、ちがいます!私は、母上のことはッ」
慌てて取り繕うとしたが、王妃の視線は冷たい。その視線に負けてキースはまた口を閉じた。
「申し訳ありません、陛下。わたくし、歴代の王妃殿下への屈辱は耐えられませんでした」
「いや、よい。私が言おうと思ったくらいだ。あれはつまり、私の母上をも侮辱する発言だ」
王妃は国王に小さく頭を下げ、体の力を抜いた。
この瞬間まで王妃が握りしめていた扇子は、もう二度と使い物にならないほど歪んでいる。
「さて、まずはキースの取り巻きだったお前たちの事だ」
ビクッと彼らの肩が跳ねた。
「お前たちがいつ“側近”になったのか……私にはそれも理解しかねるが」
「なぜです?私に側近がいないと言うのですか?」
キースが口を挟み、“取り巻き”が驚愕の顔でキースと国王を交互に見る。
「お前からは確かに『側近にしたい』と言う話を受けたが、私は一度も了承していない。だからそれらは側近でもその候補でもなく、ただの“取り巻き”でしかない」
さて、それでだが、と続け
「お前たちの家からは絶縁状を預かっており、すでに全員平民である。また今回一番の被害者であるアンジェリカ嬢のカールトン公爵家との協議の上、お前たちの処遇はカールトン公爵家に一任する」
アンジェリカの父であるカールトン公爵当主が国王に向かって頭を下げた。
「次にキースとカレンだが。王妃とアンジェリカ嬢からの願いとして、お前たち二人をこの場、今ここで夫婦とする届を出す事を許そう」
「本当ですか!?」
「やった!あたし、キースの奥さんになれれるんだ!ほらね!アンジェリカ、あんたに王子様の婚約者なんて似合わないのよ!あんたは悪役なんだから!!アッハハハハハ」
国王は控えている従者に視線を送り、受け取った従者が二人に婚姻届となる書類とペンを渡した。二人は急いでそれに署名し、従者はそれを受け取って国王へ渡す。
「ふむ、これでお前たちは夫婦である。生涯、離縁する事は許さん」
「あたりまえよー。なんで離婚しなきゃいけないの?アッハハ、アンジェリカ、ざまあみろ」
笑うカレンの形相に、取り巻きたちの顔色が悪くなる。
共にはしゃぐキースは気がついていないようだが、どんな恋情も一瞬でなくなるほどに醜悪な顔であった。
そんな彼らを、やっと彼らが少しは恋から覚めたのかな、とノアは冷静に眺めている。
その冷静さも国王の次の発言で吹き飛びかけるのだが。
「キースは廃嫡し子を成せなくする処置に加え、双方に国外追放の印を刻んだ上で追放とする。また、キースはすでに加護を失っているが、カレンからも加護を剥奪とする」