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運命なんて要らない  作者: あこ
ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)
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19

「この女をグロッタへ連れて行け。方法は問わん」

そう言った国王の言葉を、アンジェリカはどこか遠くの話の様に聞いていた。

(そう……死ねない(・・・・)のね)


どのような拷問を行っても供述させるとされている(・・・・・)監獄グロッタ。


苛烈な拷問も辞さない監獄に収監される囚人は、ごく稀。それほどの場所がこの監獄である。そして同時に、この国最大の暗部とも言われている場所だ。

真実を語るまで、そしてそれの裏付けが行えるまで、何があっても(・・・・・・)死ぬ事がない場所と言われている。

平民の間では都市伝説の一種のようで、地獄とか天国のように空想上の場所(・・・・・・)と思われている。だから子供に「そんな悪いことばかりしていると、グロッタに行く様な大人になるよ」なんて使うこともあるくらいだ。

しかしそれは現実に存在している。

けれどもヒロインの末路より、叫び罵りながら引き摺られていったキースの方が、アンジェリカには気掛かりだった。


国外への追放。

これは何も隣国へ放り込む、と言うことではない。

そもそも、国外追放だと言って連れていかれる先にあるのは何もない平原だ。

この広い平原は隣国との一応の(・・・)緩衝地帯の様なもので、お互いが「この平原はどちらのものでもない」と正式に署名を交わしている。

平原と国との境にはぐるりと塀と(ほり)があり、検問所では厳しい入国審査を受けなければいけない。これはこの国も隣国は当然ながら基本的にどの国も同じだ。

そしてこの平原に刑罰として放り出されればその時に、この国の──隣国であれば隣国の──国民であると言う証明は剥奪され、自分を証明するもの(・・・・・・・・・)はなくなっている。

つまり、隣国に辿り着いても証明ができないから入国ができないのだ。

もし証明するものを持たない人間が隣国へ入国するならそれこそハンターとして登録し、その活躍で得た地位でもって証明書代わりにするしかない。

何もない広いだけの平原。

住むものはおらず、魔獣が出てくるような場所。

ハンターなどはここで狩りをする事もあるが、基本的に住む場所ではない。

こんな場所だ。登録しようにもギルドもない。

かなり腕の立つ人間であれば、ここを通る商人やギルドから派遣されたハンターに自分の腕を売り込みなんとか繋ぎを取って……とそれでも途方も無い時間がかかるし偶然という奇跡が必要になるが、そういう事もできるだろう。

しかし今のキースにはそんな事、できない。

待ち受けるのは死だけだ。


ただ、ヒロインの拷問が終わるまで監獄にいることができると思えば、死までの時間はまだ──────いや、それでも今のキースでは無事に出てくることは難しいかもしれない。

それこそ、ヒロインが「この女が狂人だっただけ」と証明(・・)され解放される前に、監獄内で死んでいる可能性もある。


(昔のあなたであれば、どちらに行っていたとしても生きる方法を見つけられたでしょうけど……もう、違うんですもの……) 


キースにどれだけの言葉を投げつけたって、投げつけられたって、アンジェリカの心の隅には笑いあえた日の顔が残るのだ。

どれだけ覚悟をしたと言っても、もう終わりだと言っても、もう過去のことだと捨ておこうと思っても、やはり今もそう簡単にアンジェリカから離れていかない。

そのアンジェリカを思ってだろう。

父エイナルはずっとアンジェリカを見守ってくれている。

言葉の通り、ただアンジェリカのことを包む様に見守ってくれた。

どんなタイミングであってもアンジェリカが感情を吐露したら受け止める、とそういう視線でアンジェリカを守ってくれているのだ。


だからアンジェリカは邸に戻ってきてすぐに、エイナルに抱きついた。

言葉にできない──────いや、表現する言葉も見つけられない気持ちを全て涙に変えて、アンジェリカは泣いた。

父親の優しい手が背中を優しくさすってくれると、感情がまた一層溢れる。

シシリー以外の誰もいないホールで、アンジェリカはエイナルに抱きつき泣く。

もう大人(・・)の自分がこんな事をするなんて、アンジェリカは考えてもみなかった。

父の暖かい腕の中がこんなにも安心できる場所である事を、こんな理由でしりたいとも思わなかったのに。

ひとしきり泣いて、アンジェリカは顔を上げる。

「ひどい顔しているに違いないわ……お父様、顔を背けてくださいませ」

「いや、アンジーはいつだって私のお姫様だよ」

「もう!」

もう一度ギュッと抱きついたアンジェリカは大きく息を一つ吐いて


「さあ、お父様、約束を果たしていただきますわ!婚約のことをお願いいたしますね!」


涙で化粧もぐしゃぐしゃになった、それでも美しいアンジェリカが精一杯に踏み出した一歩にエイナルは大きく頷いた。

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