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運命なんて要らない  作者: あこ
本編
3/42

03

“王子妃”という立場であっても性別は男である。

だから“こうした時”の装いは他の令息たちと同様だ。

アーロンと色を合わせたり、互いの色を身に付けたりするけれども、形は男性の衣装である。

多少華やかさは普通のそれ(・・・・・)よりも多かったとしても、一般的な彼らの服装と同じ。

本日もそのような装いで、互いの瞳の色をアクセントにした同じ意匠の刺繍がしてあるものだ。

ノアのこうした場での服や装飾品はアーロンが嬉々として選び手配してくれる。ノアもアーロンの装飾品は自分で選び贈っていた。

服だって贈ろうとしたのだが、どうやらアーロンは自分が二人の服を選ぶ(・・・・・・・・・・)という事が好きなようで、譲ってくれないのだ。


実は同性のパートナーがいる場合、好んで女装や男装をする人もいるがノアはそれをしなかった。

一度だけ、女装をしたがあの時の“経験”が「女装は二度としない」とノアに決意させていた。

その時ノアは痛感した。

女性はすごい、と。

初めて女装した時にノアは“大変な目”にあっていたのである。

ノアの母シャルロットは「男性とはいえ“王子妃”という立場になるのだから、見た目から舐められてはいけません」と言い、普段から体を磨くと言う事もさせていた。

婚約者に決まった当初はそれにげんなりしながら生活していたノアだったが、真顔のシャルロットに、そして事情を聞いたアンジェリカにも「女性はこれより(・・・・)も頑張っているんです」と言われてしまえば“諦め”もした。

しかし女装した時は諦めたからとかそんな思いを忘れるほど、本当に早朝から“酷い目”にあったのだ。

──────女装をすると、毎日こんな目にあうの?え?無理。

体を“程よく”磨かれるのは諦めたが、女装だけはしない。

それからはいつもこの通りだ。

けれど今も髪はシャルロット監修の下、メイドたちがあれこれとやってくれる。

アーロンの希望により肩に触れる程度に伸ばした髪は、自分がやるよりもメイドがしてくれた方が確実に綺麗なのだ。


朝から磨かれアーロンから届いた服を着て、ノアは卒業式典に来た。

(でも、ぼくはどこにいればいいんだろう)

ノアは在校生という立場であるが、卒業生に兄弟はいない。

かと言って王族とその関係者が座る場所にいるのもなんとなく座りが悪い。

婚姻後なら兎も角、学園の卒業式に王族の婚約者が席を同じくして座っていたという過去はなかった。

困ったなあ、と困っていそうにもない顔で会場に到着するとアーロンが待ち構えていた。

そこからアーロンにエスコートされたものの、向かったのは式の会場となる大広間ではなく控え室。

しかもそこで待機しそこにくる人をエスコートして会場入りしてほしいとまで言われて、ノアは婚約者のいる自分が一体誰をエスコートするのだと「意味がわからない」と言ってみたがアーロンは「お願い」と言って出て行ってしまう。

珍しくはっきり言わない事にムッとしたものの、それでも言われたからにはと部屋で従者エルランドと共に待っていた。

(それにしても、アーロン様も疲れてそうな顔してたな)

この卒業式の二週間前からアーロンとノアは完全に別行動だった。

アーロンは国王の代理として学園側と卒業のパーティについて話し合いをしており──これは例年王太子が、王太子が卒業生の場合は王太子以外の王子もしくは王女が行っている──、その間ノアはアンジェリカと共に王宮にて勉強をしていた。

アンジェリカは半年前に一足先に卒業の資格を得ており、王太子妃、王妃教育に励んでいる。

それに合わせてノアも──ノアには理由がさっぱり解らなかったが──半年前から王子妃──と本人は思っていて実際はアンジェリカがやっていた王太子妃、王妃教育なのだけれど──教育の合間に、学園には登校せずに学園から課された課題をこなすという形で学習をおこなっているため、アンジェリカと朝から夕方まで王宮で過ごしていた。

普段ならノアとアーロンは一緒に登校していたのだがそれもなくなり、二人が会う時間はお互いの休息時間が重なった時になってしまい、結果格段に減ってしまっている。

最近の二人は「なんだかノアに久しぶりに会えた気がするよ」「うん。ぼくもそう思う」から会話が始まるほどだ。


何度か入った事のある控室。

ここは王族かそれに近い家の人間が使える部屋で、ノアは公爵家の人間としても入った事がある。

派手ではないが一級品の調度品が、品よく置かれてセンスの良さが判る部屋は落ち着くにはいい場所だ。

「エル……一体ぼくは誰をここで待っているんだろう」

「アーロン殿下の事ですから、エスコートするにあたって問題のある方ではありませんよ」

「でも婚約者がいるぼくがエスコートするんだよ?マリーや母様ならいざ知らず」

「それに準ずる方ですよ」

静かにいうエルランドにノアはむくれた。

「エルは知ってるんだ?」

「想像は出来ています」

「ふーん」

本格的にすねたノアにエルランドは笑いを噛み殺す。

人前では立派な第二王子の婚約者であるノアは、気のおける相手の前では年相応すぎる(・・・)姿を簡単に見せる。

こんなふうに拗ねたりむくれたりするのがいい例だ。

子供っぽいなと思いながらも、婚約者になってから“年齢よりも大人”でいようと努力しそうあったノアを知るから、気の許せる相手の前ではまだ子供っぽくてもいいかなとエルランドは考えていた。

ノアの両親、祖父母も、ノアの子供の時間(・・・・・)は子供として過ごさせてくれたが、一歩外に出れば第二王子の婚約者の姿でいなければならない。

婚約者であるアーロンのためにも、ノアは必要以上に背伸びをし立派であろうと努力した。

それに成長を感じ喜んだかといえば、彼らはそうではなかった。

そうせざるを得ない状況にしてしまった事に彼らは申し訳なさも感じていたのだ。

だから、こうして年相応、時々それよりも甘えて子供っぽくなる姿が見れると誰もが安心する。

──────この子には弱くなった時に逃げられる場所が、逃がしてくれる相手がいる。自分がそうである。助けを呼べる“強さ”を持っているのだ。

そんなふうに。


「ノア様、何かお飲みになりますか?」

「ううん、いいよ。いつ待人が来るか分からないし……その後もどうなるか分からないでしょ?」

部屋にある立派な椅子に腰掛け、エルランドに窓のカーテンを少しだけ開けるようにいう。

少しだけ空いた隙間から外の景色が見える。


ここは王国立の歌劇場だ。

建設当初は、今は亡き国家の国王が寵愛した側妃の為の宮の予定だったのだが、クーデター後に現在の国へ変わったので建設が中止。

その後は壊す事もせずに放置していたが偶然設計図を発見。壊すのではなくこれを元に利用しようとの事で今の形になった。

王宮から離して作りたかったからこその場所だが、王宮からもタウンハウスからも馬車で問題ない。

自然と調和しつつも程よい威厳と美しさ。

王都へ来たのなら一度は外観だけも見るべきだと言われている美しい歌劇場。

ここで卒業生が大人への一歩を踏み出す姿を、学生を終えた最初の瞬間を、大人が見守り歓迎し見送るパーティはここが完成してから続けられている。

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