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運命なんて要らない  作者: あこ
ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)
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08

この変化を好ましいと思うものもいれば、反対に好ましくないと思うものもいる。

子供(道具)が意思を持って反抗するなんて、と思う親がいないわけではないのだ。

けれどアーロンとノアの様にお互いを思いやる関係を支持する人間が多い。

いくら政略とはいえ、いや、だからこそ、関係が良好である事を望む方が建設的だと多くの貴族が知るからだろう。

蔑ろにして台無しにするよりも、蔑ろにせず協力し互いの家が発展する方が有益で、それを狙うからこその政略結婚なのだから。


ガゼボに行くまでの道でも、随分と変化があった事が見てとれる。

今までよりも婚約者と昼食を取る生徒が多くなったのだ。

「そういえば、ノアはクラスで仲良くやれている?」

「みんなとっても楽しいですよ!魔法のこととか、夢中になって話してしまうくらいに」

「そう」

ノアのパッと輝く笑顔に嬉しくなるアーロンだが、この笑顔をクラスでも振りまいているんだろうなと思うと嫉妬心も生まれてしまうアーロンでもあった。

「アーロンさまはどうですか?」

「こっちはなんだろう……友人はできたよ。みんなで領地の政策について討論するのは面白いけれど……僕はノアがいないから寂しいかな」

微笑んで言ったアーロンに、ノアは「またまた」と戯けて笑う。

本心なのに、というアーロンのつぶやきは風に紛れた。


学園では、切磋琢磨し勉強するために、と言う意味で平等を謳っている。

また爵位だけで考えると、教わる側が王子や公爵家子女で、教える側が男爵なんて事は現実にある事だ。もし爵位通りでなんてしてしまえば、教える人間は限られ、場合によっては教える人間すらいなくなる。だからこそのそれ(・・)なのだ。

しかし、近年、その意味を履き違え行動するものも多く、学園側は頭を悩ませており、その最たるもの(・・・・・)が今、最上級生にいる。

そのあたりはともかく、学園が平等だと言う本来の意味が一番強いのが、まず錬金科。

この科は昔は違ったようだが、今では魔道具と言われるものや、ポーションなどの薬など、“幅広いものづくり”を学ぶ分野。多くの生徒は平民で卒業生からは、多くの発明家や研究者も生まれている。

そして次が魔法科。ノアが入った科である。

この二つの科は殆どが『それが心底大好き(・・・・・)だから入った』ものたちが集まっていた。

自分の理論、作り方、考え。普通の生活では披露する機会がなかったり、披露しても理解してもらえない、聞いてもらえないようなそれらを、この科の人間はなるほどと言って聞いてくれたり、はたまた議論を交わしてくれたり、時には手伝ってくれる事も。

ふたつの科は己の好きな事に打ち込み、またそれを共有し、時にはライバルとなり、時には仲間、協力者となり、とにかく“好き”を追求する。

爵位だの平民だのと差別するよりも、好きが同じものである同士でお互いを高め合いたい。そういう意識がとても強い。

まさに学園が掲げた通り、切磋琢磨したのだ。

だから学園内において、彼らは正しく平等なクラスメイトであれた。


そのさまはノアが昼食から帰ってきた時にも見る事が出来る。

アーロンがノアのクラスまで、彼を送った時とかに。


先に戻ってきたノアのクラスメイトはノアに「いつも仲良しだなあ」とか「王子殿下、ノアさまに近づく輩は魔法でボン(・・)としますからね!」とか、多少の敬意(・・・・・)を払いながらノアを迎える。

どうやら昔から錬金科と魔法科は『変人の集まり』と囁かれていたらしく、「多少でも敬意を払われるならマシ(・・)」と歴代の王侯貴族は考えている節があった。

なぜなら、変人でもこの学園で魔法科や錬金科を卒業する人間は、実に優秀だからだ。多少の無礼に目を瞑っても、自分に近しいところに引き込めれば差し引きゼロになるくらいの能力を持つものが隠れ潜んでいる可能性がある。だから三年間、それを見極めようとする学園生も多かった。

「……うん、ボン(・・)は遠慮しておくよ」

「そうですか?最近私が考えた理論では、私のように魔力の少ないものもやり用によっては“ボンッ”といけるのではないかという……やはり婚約者であるノアさまに近づく不届きものにはそうした制裁も必要になるかと思うのです」

クルクルした目が可愛らしい丸いメガネをかけた少女は魔法理論というものを極めるべく入学した生徒で、魔力自体は少ないがそれをいかに補い使いこなせるかというものを研究しようとしている。

「カヤン嬢の心遣いは嬉しいけれど、やはりボンは遠慮しておくよ」

王子様スマイルで言い切ると、可愛い目と丸いメガネがチャームポイントのカヤン嬢ことバショー伯爵家次女カヤン・チャップソンはその目を輝かせた。

「やっぱり婚約者に不届きが近づいたら、ご自身でボンとなさり(・・・・・・・・・・)たい(・・)のですね!」

ロマンスですわー、と頬をポッと赤く染めてカヤンは同じクラスの女子生徒の輪に戻る。

いやそういう意味じゃないっていうかロマンスとは一体……、とカヤンの背中を見送った形になるアーロンに別の生徒が

「王子殿下、最近カヤン嬢とそのご友人たちは『王子様の執着。愛の鎖は婚約者を守る』という平民に大流行りの小説を読み回していて……その影響だと思います」

なんのフォローか分からない事を伝えた。

王子様の執着、なんてなかなか面白いタイトルを王子様(・・・)に伝えるあたりが、このクラスの生徒らしい。

無言になったアーロンの横からノアがクスクス笑って言う。


「王子様の執着?ふふ、アーロンさまとはちょっと違う王子様だ。どんな話なんだろう」


ノアの言葉にカヤンとその友人たちが目を輝かせ、アーロンとノアの後ろに控えている従者は心で思った。


──────執着されてますよ。ノアさま。間違いなく、執着されているんですよ。

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