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運命なんて要らない  作者: あこ
ぼくたちも、運命なんて要らない(と思う)
22/42

02

その人に初めて会ったのは、兄の婚約者だと紹介された時である。

自分達よりも二歳年上で──────そう、アーロンの兄であるキースと同じ歳なのに正直、彼よりも頼り甲斐がありそうでしっかりしている様に見える、お人形の様に可愛らしい女の子だった。

「カールトン公爵家が長女、アンジェリカ・カールトンともうします」

圧倒的な何か(・・・・・・)を前に2歳年下の二人はただ大きく頷いて、彼らをアンジェリカに引き合わせた国王、そしてランベール(ノアの父)とアンジェリカの父であるエイナル・カールトンは苦笑いを漏らした。

しかし咎めないのはそれだけ、アンジェリカがこの年にしては驚くほどに“完成”していたからだ。

公爵家の令息、王家の次男のわりにまだ()な二人がこうして圧倒されるのは当然だろうと、親心に思ったのである。

「おふたりとも本当に可愛らしいですわ!」

パッと輝く様な笑顔を向けられ、少しだけ緊張が解けた二人もアンジェリカににっこりと笑顔を返す。

それにますますアンジェリカは興奮した様子で「かわいらしい!」と言った。



ノアが王子妃教育を城で受けるように、王太子であるキースの婚約者であるアンジェリカも城で王太子妃教育を受ける。

どうやらハイペースでそれは進んでいて、しかも彼女はそれを全て自分のものにしているというのだから、アーロンもノアも驚くばかりだ。

二歳年上だから二年のアドバンテージがあると言っても、二人は二年後そんな自分になっているというイメージが湧かない。

アンジェリカはすごい(・・・・・・・・・・)女の子(・・・)なんだな、と二人は刻み込んだ。そして同時にあれが──当時の二人がその意味を|正しく理解していたかどうかはとして──じょけつ(・・・・)という人なのかと理解をしたのであった。


しかしすごいからと言って意味のない嫉妬もしない二人は、二人のペースで勉強を進めている。

それがどうにもアンジェリカには健気に見える様で、顔を合わせると何かと可愛がられる様になった。

王子殿下を可愛がるなんて、と彼らの親は言わない。それだけアンジェリカがこの年の少女らしからぬ完成度で、類まれなる才能を持っているからだ。そんな彼女からすれば年相応な二人(・・・・・・)は可愛くて仕方がなくて当然だろうな、と思うのである。

それに将来の王妃と王弟にその妃が家族のように仲がいいのは国が安定する一つの、そして大きな要因になる。だからこそ三人の仲をそれでよしとしたところもあったのだ。


そうやって顔を合わせる様になった彼女は、こんなお願いを二人にした。

──────わたくしの事は、アンジーお姉さま(・・・・)って呼んで?

素直な二人はそれを当然の様に(・・・・・)受け入れ、アーロンは「アンジェリカお姉様」、ノアは「アンジーお姉様」と呼ぶ様になる。

そんな素直な二人にアンジェリカはますます夢中になった様で、より可愛がる様になった。


アンジェリカとの付き合いはその後も良好で、アンジェリカが十二歳、アーロンとノアが十歳になると本当の姉弟の様な姿も見られる様になる。

アンジェリカは可愛い弟分の二人によくよく言った事がある。

「お互いへの気持ちは真摯に伝えなければならないのよ。ちゃんと伝えればきちんと伝わるわ。二人には(・・・・)そういう関係をこの先もちゃんと、持ち続けてほしいの。それが幸せに繋がるのよ」

二人はそれを聞いて頷いてから、少し寂しそうにした。

アンジェリカはそれに小さく笑って「だいじょうぶよ」と返す。


アーロンとノア、この二人と違い、アンジェリカと王太子キースの仲は非常に“微妙”だ。

キースが一方的にアンジェリカを嫌っているともいう。

けれどもキースはアンジェリカを王太子妃としては良き(・・・・・・・・・・)パートナー(・・・・)として見てはいる様で、そしてアンジェリカもそれで十分(・・・・・)だという振る舞いでいる。

しかしそれだけで、それ以上の感情は一切ない。二人はもうすでにビジネスパートナーの仲で良しとしている節があるのだ。

そのアンジェリカに先の様に言われると、二人は悲しくなる。

自分たちには愛を育み大切にしなさいと言うのに、当のアンジェリカがこうなのだから。

自分たちの幸せを願うアンジェリカは幸せなのかと、二人はどうしたって考えてしまう。

「まあ、生意気ね。わたくしの心配をするなんて。わたくし、恋だの愛だのは難しくても、キース殿下とは王太子と王太子妃として良好なパートナーになれると思っているし、それはキース殿下からも伝わってくるわ。わたくしはね、このままでも十分幸せなの。だいじょうぶよ、わたくしはわたくしで運命を切り開くのだから」

見惚れるほどの笑顔で言われて、二人はいつもの様に「うん……」としょんぼりとして返事をする。


そんな三人をアンジェリカの侍女シシリー、そしてアーロンの従者トマス、ノアの従者のエルランドはなんとも言えない気持ちで見つめた。

ついさっきまで、三人が大好きなガゼボ(四阿)でお茶とお菓子を楽しみながらお互いの勉強や生活について話ししていただけに、ガラッと変わった雰囲気は見ているものに雰囲気以上のギャップを感じさせる。

「まったく、可愛いわね。ふたりにはふたりの、わたくしにはわたくしの。それぞれ違う幸せがあるのよ?いい?幸せとか運命とかそんなのは自分がどう思うかなの。相手が決めることではないのよ?」

アンジェリカはツン、とノアとアーロンの額をつつく。

こうしたアンジェリカの行動は三人でいる時だけ。彼女もその辺りはちゃんと弁えて行動している。当然だけれども。

「そうなの?アンジーお姉様は、ちゃんと幸せ?」

こてんと首を傾げていうノアに、アンジェリカは微笑む。

「ええ、もちろん!」

どこか納得していないアーロンも、ここまで言われれば納得したと態度で示すしかない。

それもアンジェリカには見透かされているのだけれど、それを彼女は見せなかった。

「二人の婚姻式が楽しみだわ。だって絶対にノアは可愛いもの」

「……なんで僕よりも先にアンジェリカお姉様がそういう事を言うの?アンジェリカお姉様よりも、僕の方が楽しみにしてるんだからね。僕のノア(・・・・)は絶対に可愛い!」

「当たり前じゃない。こんなに可愛いノアなのよ?婚約式だってあんなに可愛くて、こんなに可愛く成長したのに、可愛くないわけないじゃない。これで可愛くないとか言う人間が現れたらわたくし、何をするか(・・・・・)分からなくてよ」

真顔で言ってのけるアンジェリカに、二人の会話を恥ずかしいと聞いていたノアはその感情が消えた。

彼女の顔が本当に何かしそう(・・・・・)な顔をしているからだ。

あれは本気だ。本気で誰かに何かをしようとしている。本能でノアは恐怖に似た何か(・・・・・・・)を感じでいた。


「アンジェリカお姉様、ノアの婚約者は僕だからね?」

「分かっていてよ?」


本当かなあと、十歳のアーロンは不服そうに眉を寄せる。

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