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キースとカレンの顔が固まった。
「どうしてですか!?なぜです、父上!なぜ私が廃嫡されカレンと共に国外追放されなければならないのですか!それはアンジェリカでしょう!!」
「キース、お前は王族に嫁ぐ最低の条件を覚えているか?」
「はい、もちろんです」
それを聞いた国王は大きく息を吐いて
「カレンはすでに処女ではない。取り巻きたちとのいずれとも関係を持っていた事、調べがついている。お前は王妃にしようと思い手を出す事はなかったようだが、取り巻きたちとそのような関係を持った女をどうして王族に入れられようか。そのような女は、たとえアンジェリカ嬢よりも優れていようと王家に入れるわけにはいかん」
キースはギョッとした表情でカレンを見るが、カレンは関係を暴露された事に何も感じていないのか
「えー、だってあたしが主人公で幸せになる。あたしがヒロインの世界なのに、なんで後生大事に貞操?守らなきゃいけないのか、わかンない。キースと結婚して王妃になったら浮気になっちゃうから、それまで遊んで何が悪いの?だってあたし、ヒロインだよ?なんでも許されるんだよ?だからみんなあたしを好きになるんだよ?」
「王家に入るには、婚姻式初夜まで処女である事が最低の条件だ。そもそも貴族の婚姻だってそういうものだろう!カレンッ、お前は俺を好きだと言いながら、こいつらとそんな事をしていたのか!!?」
「だってイケメンでお金持ってるし、プロポーズされてからはしてないよぅ」
悪びれもしない言葉にキースは怒りで顔を赤くするし、取り巻きたちは自分達以外とも関係があった事に驚き顔を真っ白くさせる。
──────あたし、キースと結婚したいんだけどぉ。でもそれまでなら、いい、かな。だってみんながあたしを好きな気持ちは捨てられないもンね!
思えばあの言葉だっておかしいと感じてよかったのに、王太子であるキースさえも“争奪戦”に加わるみんなのお姫様の学生時代唯一の秘密の恋人なるものに選ばれたと優越感に浸って、当たり前を当たり前と思いもしなかったと今気がついた。
「それに、お前の部屋を捜索した結果、反逆罪、いや国家乗っ取りとも捉えられる計画書も発見している」
これにノアが目を点にして思わず国王を見た。
ここまで何も考えていない人間がそんな大それた事を考えられるのかと、驚きが隠せないのである。受けていた王子妃教育で身につけた“王子妃である仮面”がはずれかけた。
「え?なにそれ。そんなの計画してないし」
「これに見覚えは?」
国王の言葉に促され、国王の従者が一冊のノートを掲げる。
なんの変哲もないノートだが、カレンにとっては違う。
「それ、攻略法を書いたノートじゃん!それの、どこが、そんな計画書なのよ!!!」
声を荒げるカレンに対したのは国王から許可を得たアンジェリカだった。
「あら、立派な計画書でしたわ。書いてある文章は拙く『キースと結婚した後、国王陛下の弟の辺境伯爵に対し罪状(捏造でもいいかな)をつきつけ、辺境地の混乱に乗じて隣国の第二王子と接触する』でしたけれども、どう考えても反逆罪ではないかしら?現在、あなたが接触しようとしている国とはわたくしたちの親世代が産まれた頃から国交断絶である事は知っているでしょう?なのに辺境地を混乱させようなんて、この国を潰しかねないものだわ」
すごいわね、と小馬鹿にしたアンジェリカをカレンは睨みつけ
「何よ!本命は次回作の王子様なんだもの!!辺境伯の罪なんて見つけられないだろうから、ちょっと手を加えなきゃ次回作にデータ移行できないじゃない。だからそうするしかないでしょ!!あたしの計画どうしてくれるのよ!!!」
「まあ、ここでご自身の罪をお認めになるのね。計画していたって事でしょう?国王陛下に申し上げます。このような大それた計画、この女に出来るでしょうか?」
わざとらしいアンジェリカに国王も大袈裟にウムと答え、これをアンジェリカの父親が引き継ぐ。
「私どもへ処遇を任せてくださったあやつらも一応貴族の端くれ。もしかしたら隣国と繋がっているかもしれませんな。カールトン公爵家の名にかけて、彼らから情報を引き出す事をお約束いたします」
これにランベールが続いた。
「私もカールトン公爵家に協力を惜しみません」
「それは助かりますな。うちよりもミューバリ公爵家はそのような事に長けておりますからな」
「国家の一大事。王家を支える公爵家として互いに協力をしましょう」
「ええ」
芝居がかったやりとりに取り巻きの顔が今度は青ざめた。
“こんな事”をした彼らだって隣国との事はよく知っている。
辺境伯爵領をかき回したりしたら、自分達の明日だって危ないのだと言う事をよく知っているのだ。そんな事は子供でも知っているような事。
こんな計画していると知っていたら止めるに決まっている。
どうして国王陛下の弟が辺境伯へ婿入りしたのか、当時生まれてもいない自分達だって知っているのに。
カレンの計画なんて知らないけれど今更知らないと言っても、何かに惑わされていたようだと懺悔しても、自分達は逃れられない。
やっと自分達が行った“自殺行為”を自覚出来ても、もう遅い。それにも自覚し、目の前が真っ暗に染まった。




