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白馬の王子様を探してる。

※フィクションです(笑)念のため


 鳴海は、スマホを持ち上げた。顔認証で開いて見るのは、緑色のアプリのアイコン。


通知の数を知らせる赤い数字は立っていない。その事実に、イライラが一つ溜まり、ため息をつく。そしてまた、イライラする自分にいらついた。


「読んだら、返せよ。マジで」


 呟いた声に感情がのっている。スマホを叩きつけたいが、それはできない冷静さは当たり前に残っているため、そっと机の上に伏せて置いた。


 相手はマッチングアプリで出会った人だ。いや、出会った、には語弊がある。だって鳴海たちはまだ会ってはいないのだから。そう、相手はまだ会ったこともない人だ。ただ、連絡先を交換しただけの相手。


 それでも週に1、2回する電話はいつも長電話だ。


『付き合ったら…』 


 そんな会話もたびたび出てくる、そんな関係。けれど、何の関係でもない。


友達でもなく、恋人でない。


ただ、比較的に写りの良い写真と、身長、体型。それからある程度の社会的ステータスを把握しているだけ。そこに嘘があるかどうかはまだわからない。そんな関係。


「むかつく…」


 鳴海の苛立ちを助長するのは、相手の行動に伴う自分の感情だ。


「好きなのか?」と問われれば、否と応える。ただ、家の近さ、顔に身長、休日が合うかどうか。ある程度の年収に、電話した感触。その“条件”が合う今の状況で、2、3回会えばきっと付き合うのだろうなという予感はあった。


しかし、言ってしまえばそれだけだ。しかも、今は忙しいらしく会うのはしばらく先らしい。この状況に詐欺も一瞬疑ったが、詐欺なら余計に時間をかけずに会うはずだ。なら、遊びなのか。それもおそらく余計な時間をかけずに会うだろう。そう考えると本当に忙しいか、こちらに興味がないかの2択だった。


 前者なら電話の感じからして脈ありだろうと思う。後者ならもちろん脈なしである。


「切るならさっさと切ってくれよ」


 一人暮らしの部屋では、思ったことがそのまま口から出てくる。それを聞く人も咎める人もいないのだからしかたがない。


 相手のことを、いいなと思うことはあっても好きだと思うことはまだない。


それでも、この人を逃したら、またいいね、から始めてマッチングして、連絡先交換して、電話して…と行程を踏まなければいけないと思うと億劫すぎて、次になかなか行けないのだ。同時並行すればいいとも思うが鳴海の性格上それもできなかった。


 鳴海は今年で33歳である。マッチング率も下がるし、婚活イベントは対象年齢から徐々に外されつつある。だからこそ、短期決戦がしたいのに。


『既読無視 付き合ってない どうする』


 検索サイトにその文字を打ち込む。返ってくる回答は、1忙しい、2連絡がそもそもマメじゃない、3脈なし。他にもいろいろあるが要約するとこの3つだ。


 忙しいとしても、寝る前にスマホを見て返す余裕くらいはあるだろう。連絡がマメじゃないに関しては、そうだったら、鳴海は自分には合わないなと思うタイプである。脈なしならそれでもいい。それならそうとわかるようにしてほしい。


 33歳の独身女性の時間を奪う行為自体にいらいらしてしまう。


 鳴海は、結婚願望は薄い方である。だからこそ、「この歳までに結婚したい!」というような願望はない。それでも、「彼氏がいる」の心の安定は若い頃より重い意味を持つのだ。


「こっちは別に誰でもいいんだよ!!」


 思わず叫ぶように言ってしまった。


 誰でもいい。それは鳴海の本心だった。厳密に言えば、誰でもいいわけではない。


自分が決めたボーダーライン以上の顔に、身長に体型。話しやすさに住む場所。それらのそれこそ“条件”が合えば誰だって鳴海は良かった。だからこそ、動くに動けない今にいらついてしまう。


 そして連絡が来るとすぐに返してしまう自分の簡単さにもいらいらするのだ。選ぶ立場と選ばれる立場なら選ぶ立場に立ちたいとどこか思っている傲慢さがある。


「面倒くさい、本当に」


 恋愛は面倒くさい。「好きな人」ならばそうは思わないのだろうが、鳴海が欲しいのは「好きな人」ではなく、「恋人」だから余計にそうなのだと思う。


「好きな人がほしいよ~」


 心からの声が出た。でも、大人になるとなかなか好きな人はできない。好きな人ができるには、運とタイミングと心の余裕が必要なのだ。


 心の余裕が欲しいから恋人がほしい鳴海にとっては本末転倒になっている。


 いつだって、何歳だって、恋愛はできる。好きな人なんてできる。

 昔はそう思っていた。テレビや映画が見せる恋愛ドラマだってそう言っている。


 でも現実はそうじゃない。


 歳を重ねれば、余計なものを見るし、余計なものを見ざるを得ない。だからこそ、純粋な「好き」なんて、掘り出さなければ出てこない。


 だけどそれでも鳴海は諦めたくはなかった。だって知っているのだ。好きな人がいることの幸せを。好きな人と触れあうことの暖かさを。だからこそ、鳴海はスマホを睨むように見つめる。


 ホーム画面を開いて、通知が来ていないことを確認した。


「あ~もういい!次いこ、次」


 叩きつけたい気持ちを堪え、今回も慎重にスマホを机に置く。


 何歳になったって、皆、白馬の王子様を待っている。


いや、もう大人だ。待っている、なんて言わない。


 白馬の王子様を探している。


だから鳴海は、もう一度顔認証でスマホを開くと今度はマッチングアプリを立ち上げた。


白馬の王子様を見つけるために。



久しぶりなのに、こんなに夢のない話を書いてしまいました笑

でも久しぶりに文章書けてたのしかったです!!

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