一話 オーマイデビル
この世界は不条理だ。
クリア条件も曖昧な迷路に約79億人もの狡猾な人形たちが永遠と目的もなくただただ彷徨っている。
「いつかは救われる」という狂信を胸に抱き、盲目の状態で際限なく歩かされ続けている一般人で溢れかえった迷路。
目隠しされた状態で、他人とぶつければ他の参加者から白い目を向けられてしまう世界。
目隠しを外して迷路から出ようとすれば抹殺されてしまう世界。
そんなふざけた世界の中での目隠しを外してしまった健常者の扱いとは?
ーーーーー
力を持たない者は他人に踏み台とされ、自分では這い上がれないところまで堕とされ。かと言って、その者に救いの手など差し伸べる救世者などいなく、
反対に力を持つ者は、いくらその者が努力して力を手にしても「運がいい」、「たまたま」、「相応しくない」など、罵詈雑言の嵐。終いには嫉妬に狂った一般人に「ノブレス・オブリージュ」と叫ばれ、弱者と同じところまで引きづり下ろされる羽目に。
例えいくらある個人が努力しようと、その努力が報われなかろうと、辛い目に遭おうと、結局は他人にとってはどうでもいい。一蹴りで飛ばしておしまいだ。
そして同じく、蹴った彼らが粉々に打ち砕かれ、倒れ伏したとしても、救うものはいないだろう。
例えほんの半歩でも「普通」からはみ出した瞬間、その者は復帰でいないほどまでに打ちのめされる。
ーーーー狂信とは、己が狂っていることに気が付かないから「狂信」として成り立つ。目を覚まして仕舞えば二度と信仰などできない。
さすれば、健常者〔いたんしゃ〕にとってそんな世界の攻略法とは?
答えは、ーーーーーーーーーーない…
迷路を解く。どこらか、その迷路に入ることすらできない。
数え切れないほど足枷をかけられ、終わりはないと告げられた迷路に、
入ることすらできず、だがそれでも解けと言われ。何かをすることを強制され、なおかつ何一つすることができない状態のゲームのバグコードに近いような存在。
ーーーーー
それが、健常者の扱いだ。
そしてその健常者でありながらも迷路を攻略しようとするならば、それは勇敢でも、
賢明でも、なんでもない。
ただの「傲慢」だ。
もう一度言おう。この世界は不条理だ。
だから俺は諦めた。
視界が 、紅い。
体が冷たい。雨が降ってるからか?
てかあれ?外?俺、なにを……
ピーポーピーポー
ーーー
『大丈夫ですか!?大丈夫で、ぁ〜……』
ん…?ああ。そうか…俺、トラック…………
ーーー
『菊池晴翔、18歳。血液型A型、頭部損傷、のう胞破裂、右足と右かッー』
ああ、もう。うるせえな………痛みとかは無いな、でも
ーーー
『失血がが止まりません!心肺停止、心肺蘇生を行いまッー』
こんな最後は流石ぃ。。、、、………… ..
意識が奈落に溶け込んでいく.
一話 オーマイデビル
「はっ!!はぁ…はぁ…、あ?…ここ、」
どこだ?ーーーーー
目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは「白」だった。
永遠に続くかのような真っ白な世界、なにもない空っぽな空間に自分はいた。
そして自分の体を見下ろすと、透けていた。
あと裸だ。
ふむ…なにゆえ?
ちなみに俺は断じてこのような特殊性癖は持ち合わせて無い。
ではなく……
ここはどこだ?
俺は荒れた息を整えながら辺りを見渡す。
「ねぇ、キミィ。」
「ッ!!?」
すると背後から唐突に女声の声がした。
「なっ、…はっ?」
「はは。驚きすぎでしょ、」
そこには、俺よりは少し小さい、1か2歳くらい歳下だろうか。そんな少女が目の前にいた。顔は整っていて、綺麗な金髪を腰まで伸ばし、布を一枚だけ羽織っているような、やや際どい服装のやや小柄な少女が、俺の反応がそんなに面白かったのかケラケラと笑っていた。
だが俺は単に突然話しかけられたから驚いたわけではない。
その少女は、宙を浮いていたのだ。
「えっ、は?」
「私の名前はイリアだよ。」
「え…ああ、どうも…えっと、…」
「残念ながらキミは死んでしまい、ここは『精神の回廊』、君の魂の中身。君たちの世界で
言う、いわば『死後の世界』、と言った方がわかりやすいかな?」
「……………………は?」
突拍子もなく言う彼女。
胃がすとんと落ちたような感覚に襲われる
「………死後のせか…い?」
そして次第に募る焦燥。
心臓が圧迫されていくのを感じる。
ーー
『ああ!傘が!』
『ゆうた!道路に飛び出たらダメ!!』
『ッ!』
『ゆうたぁぁ!!!』
ーーーそういや…俺、目の前で道路に飛び出た子供を助けに………トラックに、
「う”ッ……」
記憶の修復が完了した。
胃が激しい痙攣を起こす。
だが、なにも出てこない。
死んでるなら当然だ。
イリアと名乗った少女が再び口を開く。
「君の助けた子供はかすり傷は負ったけど、命は助かったよ。」
「……………そう……か。よかっ……」
掠れた声が、わずかだけ出る。最後まで言い切れない。
吐き気は止まらない。
心臓を鷲掴みにされたように苦しい。
「苦しいだろうね。君は素晴らしいとは言いがたいけど、君なりに楽しい人生を送っていた
んじゃないかな?」
「………ッ」
「自分なりに必死に生きる意味を考えて、考えて、」
「……。」
「ダメだと自覚しながら、それでも怖くて踏み出せず、」
「…」
「常に自分に問いを重ね重ね、ついにはそれにさえ押し潰されそうになって…
君は自分の人生にー」
「…黙れ………お前に何がわかる…」
「…。」
やっと出た言葉は、そんな八つ当たりだった…
「あっ。、いや…すまー」
「…ごめんね、少し気取りすぎちゃったね。まあとにかく、君はそんな人生を、不運な事故に遭
遇したため終えてまった。心底同情するよ…」
そんな慰めの言葉とは裏腹に、彼女の顔は冷え切っている。
特に蔑んでいたりとかはなく、ただただ真顔だ。
「……ッ、」
「でもね、安心してほしい。」
だが、さっきまでの表情はいったいどこへ行ったのか。
彼女は明るく言う。
「君のように、他人の命のために自分の命を犠牲にした善人は、それ相応の
恵みが与えられるんだよ。」
「め、ぐみ?…」
「うん!神からのお礼。とでもいうべきかな?」
「…?」
「君はこの後、精神と肉体を保持したまま、異世界で二回目の人生を送ってもらう。」
は…?
神?
異世界?
「そして私はその世界のアシスタント!悪魔のイリアです!」
「悪魔……?でも、白…」
彼女の見た目は金髪、金眼に、真っ白の服を着た少女だ。
俺の知る悪魔のイメージとはほどとおい。
「あーあ、そこから説明しないといけないのか。」
「お、おう…」
「まず、異世界の創造。これはある神様によって行われている。」
「ある……?名前は?」
「あるけど君には理解できない。」
「は?どういー」
『=======』
途端、耳にノイズが流れ込んできた。
否、そう錯覚した。
「え?…」
「ほら、わからないでしょ?今のが名前だよ。人間では、神の存在すら確認することができない。」
「……ぇ、」
「それと私の見た目についてだけど、君たちは、ある勘違いをしている。」
「……。」
ちょっと流石に話についていけなくなってきた。
「君たちの世界では、悪魔と天使が対立したりしてるって良く言われてるけど、そもそも全
て神が作ったものだから、対立もクソもないんだよ。私たちの見た目についても、君の思
っている悪魔=黒、闇みたいなイメージは間違っているよ。」
「そうか……てか、俺は二回目なんてやるつもりなんて、全くない。」
二度目の人生?
まっぴらごめんだね。
もう一度、クソみたいな人生を繰り返すだけだ。
あ割り方も最悪だった。
二度と味わいたくない。
「ちなみに異世界っていうのは、君の大好き〜なゲームのようなところだよ?」
「なるほど、詳しく。」
「めっちゃ食いつくじゃん…」
二度目の人生?
いいじゃないか。
素晴らしい人生を手に入れるチャンスじゃないか。
「てか、その『君』ってなんとかならないか?一応俺には晴翔って言う名前が
ついているんだが。」
「わかった。じゃあハルって呼ぶね。」
「ハル…」
「ハルは、私と一緒にドラゴンがいたり、魔法とか使える世界に行く。家とか生活に必要な
ものは、もう既に揃っているし、何より君が好みそうな、えっと…「あーるぴーじー」の
ような世界だ。」
ふむふむ……なるほど……
美少女を連れて異世界転生っと……
悪くないね。
童貞引きこもりクソニートが異世界転生系主人公に早変わりじゃないか。
「ちなみに仕事とかは…」
「ハルが今想像してるようなものはないよ。RPGにそんなのある?」
「はは、ですよねぇ、」
「…てか、ずっと無視してたんだけど、流石にね…」
「ん…?」
「なんでハル、裸なの?露出へーーーーー」
「違います。」
「…」
イリアが俺にジト目を送ってくる。
俺は急いで息子を隠す。
「ち、ちげえぇぇよ!!ここに来た時には、すでに服がなかったの!」
「おかしいなぁ、ふつうは死んだ時の状態の服を着てるはずなんだけどなぁ。どれどれ〜、報告書見てみるか」
するとイリアは手を前にかざした。
次の瞬間、宙に複数の光がパッと湧き、その光が動いて線を描いていき、さらにその線が複雑に交差して、たちまち魔法陣が展開される。その魔法陣から一枚の紙が出てきてイリアがそれを手にする。
「は……?」
「ええっとぉ、キクチハルト」
「魔法…陣…」
「見たところ、ハルがトラックに轢かれた際に肺が潰れちゃったらしく、それを治すためのオペ中に死んじゃったんだって。」
「なるほど、だから裸なのか……納得できん、服をくれ。」
俺は愛しの我が子を隠しながらイリアに訴える。
「転生先の家に服とかあるから今は我慢して。じゃあ最後に。性別、どっちにする?」
「えっ?」
「いや、えっ?じゃなくてさ、男か女、どっちになりたい?」
ほぉ……なるほどぉ…… ,
自分の息子をキープするか、夢詰まった理想胸を手に入れるかを決めるわけか。
うーむ、でも流石にねぇ、
,
理想胸捨てがたいが……我が息子を裏切るわけにはにはいかないのだ…
あ、あれ?
目頭が熱い…
なんで……?
「男でお願いしま…す……」
「いや、そんなに嫌なら女になればいいじゃん。私別になんとも思わないよ?」
「ふっ、イリアとやらよ。そういう問題では無いのだ。」
「そっ、よくわからないけど男のままでいいのね?」
「はい……」
「ふう、肉体になるのは久しぶりだなぁ。それじゃあこれからよろしくね、ハルト!
よーし、行っちゃおっか!」
すると突然、イリアは何語かわからない言語でなにかを唱え出した。
『ーーーッ!ーーーーー、ーーー!!』
刹那、俺とイリアの体は光に包まれなにも見えなくなるーー