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そしてヒロインは幸せになった  作者: よみのふくろう
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ヒロイン全員を幸せにするべく分裂した主人公のひと夏の物語

『世界には自分とそっくりな人間が二人いる』という話を聞いたことがあるだろうか。


『ドッペルゲンガーに会ったら死ぬ』という都市伝説を聞いたことがあるだろうか。


これら二つはネットの世界ではよく見られるもので、キミなら知っているくらいには有名なネタだろう。


俺がこの二つを挙げたのには理由がある。


というか、その理由がなかったらこうしてキミに手紙を返すことだってしなかっただろう。


キミが俺の家のドアポストに入れる手紙には切手が貼っていない、つまりキミは俺の家にひっそりと足を運んで手紙を投函しているということだ。


これは俺はキミのことを知らないけれど、キミは俺のことを知っていることを示している。


それはかなり重要な情報だ。


なぜなら俺はキミの正体を知りたいが、キミは逆だからだ。


つまり、これはキミはきっと今から俺が言うことを胸の内にしまっておくということを示している。


だから誰にも言っていなし、これからも言わないであろう秘密をこの手紙に書く。


俺は三人いる。


基本的に見分けがつかないから、最近だと形式上は一号、二号、三号と呼んでいる。


今、この二文を俺の意図した通りに読み取るのは非常に難しい。


だから可能な限り頑張って伝えようと思う。


俺が三人に分裂したのは夏休みの初め頃、蝉がうるさいなって感じ始めた頃だと思う。


それくらいしか覚えていない。


初めて自転車に乗れたのはいつかを思い出す感覚と似ている。


両親が一人息子の俺を残して海外旅行に行って数日が経ったとき、昼頃に幼馴染の秋葉が俺を起こしにきた。


あいつが大きな声を出すから目が覚めたが、その時すでに俺は三人いた。


他の俺、今手紙を書いているのは一号だが、と俺は全くもって同一の存在だった。


どういうことかというと、趣味趣向が同じなのは当たり前、じゃんけんをすれば永遠に決着がつかなかった。


きっとギネス記録を優に超えることが出来ただろう。


つまるところ、夏休み前までの記憶と身体を共有した存在が二人現れたという感じだ。


ここで俺が過去形を使っているのには理由がある。


俺は、正確に言うと俺たちだが、ここ数日でとある決断をしたのだ。


それは、各々が彼女を作ることだ。


俺たちは生まれてこの方、女性と付き合ったことがないいわゆる残念な男たちだ。


きっとあのまま生きていたらそれは続いていただろう。


だけど、俺たちの身に大きな、本当に前代未聞のきっかけが舞い降りた。


やるしかない。


とりあえず二号は近所の幼馴染と、三号は高校の気になる先輩と付き合うと豪語している。


俺は一人、なんとなく寂しいからキミに手紙を書いている。


良かったら、この暇な夏休みの間だけでも俺と文通をしてくれないだろうか。


下心とか一切ないけど、女性だったら嬉しい。




手紙を書き終わると、一号は筆を下ろした。


他の彼である二号と三号はもうすでに寝ている。


彼自身も別に国語が得意でもないのに手紙を書いていたから、まぶたが重い。


最後らへんはほとんど勢いで書いたようなものだ。朝に読み返して身もだえするだろう。


月を見て綺麗だと思うのはきっとこんな時なんだろうな、と思いながら一号はベットに寝転がった。


目を閉じると、蝉の鳴き声が聞こえる。


クーラーと窓があるから、暑さは感じない。


生きた人間の中でもっとも数奇な運命を辿っている彼は、静かに眠りについた。


ヒロイン全員が幸せになれるかどうかは、彼の夏にかかっている。


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