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僕にしかできないこと  作者: 榊原悠佳
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2completely ordinary

2completely ordinary

「っはぁ!っはぁ、は…」

 飛び起きてあたりを見回すと、そこは見慣れた部屋だった。窓から入る日光は薄暗く、じめっとした空気が壁の隙間から室内に流れ込む。時計を見ると、時刻は5時を指していた。何時もなら2度寝に入るところだが、今日はあのへんな夢のせいで気分になれず、ゴロゴロしながらスマホをいじる。そうか、東京はもう13時になっているのか。SNSで呟かれていたのは、お昼ご飯の写真や、午後の仕事に対するやる気のなさについてだった。みんな今日もお気楽でいいよなと悪態をつきたくなるが、そんなつぶやきをしたところで誰も見ないのはわかっている。無気力でそのまま何度か更新してみると、ある言葉がトレンドに入っていた。

「なんだこれ、#悪夢の原因はストレスです ?」

 ハッシュタグを検索してみると、日本人はストレスが多く、悪夢にうなされて睡眠時間が現状している傾向にある、ということだった。そんなの、日本人だけの話ではないと思うが、集団心理が1番なお国柄はこの話は当てはまっていると盛り上がっていたらしい。

「私も昨日の夜見た!あれはストレスが原因なんだ…最悪」

「最近悪夢見る人多くて笑える、俺もだけど」

「みんなおはっち!なんかトレンドに悪夢って乗ってて不穏な感じ…。悪夢って言うか、泥の夢見てる人多いよね!私も昨日見ちゃった…なんか意味があるのかな?今日もがんばろ!」

 泥の夢とは、何のことだろうか。気になって呟くを詳しく見てみると、そのアカウントはフォロワーが多いようでリプライもたくさん来ていた。

「いっちゃんも!?いっちゃんと同じ夢見たとか幸せ過ぎて死ねる」

「いっちゃんもですか。私も悪夢を見ることが多くなってきました。お互いにストレス貯めないようにしましょう」

「悪夢じゃなくていっちゃんが出る夢が見たい、てか会いたい」

 へえ、悩まされている人は結構いるんだな。しかも同じような内容だとするなら、きっとストレスの原因も似たようなものだろう。というかいっちゃんってすごい人気なんだな。

 だらだらとスマホを見ているうちに、1時間くらいが経過してしまった。ああ、嫌になってしまう。早く学校の準備をしなければと思うと、胃がキリキリしてきた。本当に、嫌で嫌で仕方ない。思わずベッドの掛け布団を頭までかぶって、もう一度ぎゅっと目をつむる。だ けど、こういう時に限って眠気はやってこない。ああ、悔しい。日中の眠気をここに持ってくることが出来たらよかったのに。しばらくそうしていると、薄い壁の向こうから物音が聞こえてきた。水音やフライパンで炒める音、それと同時にいい匂いが部屋まで流れ込んでくる。母が朝食の準備をしてくれているのだろう。行動しなくては。

「はぁ…。嫌だ、本当に」

大きなため息をついて、僕は布団から這い出た。足裏からひんやりと冷気が伝わる。ぶるると肩を震わせて、重たい扉を開いた。

リビングは僕の部屋と打って変わって、暖かい日差しが差してストーブで暖められた空気が充満していた。少し湿気のある空気は、息をするのにも少し苦しかった。母は俺の姿を見て、フライパンを動かすのをやめた。まるで期待していたような、驚いたような顔をしている。そんなに僕が起きてきたことにビックリしているのか…少し胸がもやっとする。

「おはよう、今日はいけそうなの?」

母は上ずった声でそう尋ねてきた。

「うん。流石に何日も休むと進級できないだろうし。今日はテストがあったはずなんだ」

「そう…良かった。けど、無理しちゃだめだからね?元々無理言ってこっちに来てもらってるんだし、嫌なら日本の高校に編入手続きを」

「僕にとってはそっちのほうが嫌だって、分かってるでしょ?」

「ああ、そう、だったわね。ごめんなさい」

「いや、ごめん、言い過ぎた。ご飯はいらないよ、ごめん」

それだけ伝えると、僕は逃げるように洗面所に入った。本日何度目かのため息がこぼれる。なんで親ともまともにコミュニケーションが取れなくなってしまったのだろう。この空間にいるも嫌で、僕は急いで顔を洗い、簡単に身支度を整える。スクールには制服がないから、いつ脱ぎ捨てたか分からない服を拾って、適当に着直した。

「行ってきます」

小さな声で、僕はつぶやいた。


2階建てバスに乗って、僕はスクールに向かった。こちらに着いた時にはよく2階に座っていたが、今となってはそれも面倒になり1階のポールにつかまるだけになった。近づくにつれ胃がキリキリするが、向かうしかない。バスに揺られて目的地に降りて上を向くと、空は相変わらずどんよりした天気だった。


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