魔界と悪魔と私と④
それからしばらく、私はその家で暮らした。
相変わらず言葉は分からないし、顔はやっぱり怖すぎて、いつまでたっても見れなかったけど、それ以外なら何とか見慣れることができた。
出されるご飯はやっぱり見た目はかなりあれだけど、食べてみると意外とどれも美味しくて、海坊主さんは料理上手なんだなーって思った。
悪魔風悪魔さんはよく狩りや採集に出掛ける。
最初は持って帰ってきたそれが狩ったものなのか摘んできたものなのかも分からなかったけど、味を知ったいま、悪魔風悪魔さんが帰って来た時に持ってるもので小躍りできるぐらいにはなった。
やった!今日は目ん玉飛び出たどろどろコウモリと、叫び声がうるさいとげとげ玉ねぎのソテーだ!
って感じに。
それと、なんとなく、この2人は夫婦みたいだ。
たぶん、おじさんとおばさんぐらい。
いろいろと息も合ってるし、一緒になって長いのかな。
見ず知らずの人間にここまで良くしてくれるし。
最初は、私を太らせてから食べる的なやつかと思ってビクビクしたけど、私の頭を優しく撫でる海坊主さんと、取ってきた獲物に喜ぶ私を見て嬉しそうにしてる悪魔風悪魔さんを見て、大事にされてるのが分かった。
そうなってからは、もう全力で甘えた。
もちろんタダで寝泊まりさせてもらってるんだし、手伝えることはいっぱい手伝った。
掃除洗濯はもちろん、料理にも挑戦した。
洗濯は自分の服以外は何を洗濯してるのか分からなかったし、危なっかしすぎて料理は秒で海坊主さんにキッチンから追い出されたけど。
悪魔風悪魔さんの狩りにも付いていこうとしたけど、森は危険らしくて止められた。
一回こっそりつけてみたけど、途中で見つかって、めっちゃ怒られた。
何を言ってるのかは分からないけど、延々怒られてるのは分かった。
まじで怖かった。怖すぎて死ぬかと思った。ホントの意味で。
でも、楽しかった。
こんな訳の分からない所に急に来て、周りが怖いものだらけで、無理やり自分を奮い立たせて町に行こうとしたけど、やっぱり怖かった。
そんなところで、こんなに良くしてくれる人たちに会えたのは、ホントにラッキーだったんだと思う。
でも、だからこそ思った。
おじいちゃんとおばあちゃんに会いたい。
ホントの両親のように私を育ててくれた祖父母。
きっと心配してる。
いっぱい愛情を注いでくれたし、私も大好きだった。
だから、2人に悲しい思いをさせたくはない。
ここにいれば安全なのかもしれないけど、それでも、私は帰りたい!
そんな思いを目の前の2人に伝えてみた。
もちろん言葉は通じないけど、精一杯の気持ちを込めて、身振り手振りで伝えた。
海坊主さんは私の手を握りしめて、首を横に振ってた。
もうこの手は怖くもなんともなかった。
悪魔風悪魔さんも、下を向いて首を横に振った。
直接顔を見なければ怖さが半減することに気付いた私への気遣いで溢れた仕草。
やっぱりこの2人が好きだ。
それでも、やっぱり私は祖父母の元へ帰りたい、と思ったんだ。
その思いが通じたのか、最終的には2人とも首を縦に振ってくれた。
悪魔風悪魔さんが海坊主さんを説得する形だった。
承諾してくれたあと、海坊主さんは私を抱き締めて泣いた。
私も抱きついて、わんわん泣いた。
ひんやりしてたけど、もうぜんぜん嫌な感じはしなかった。
結局、2人も町までついてきてくれることになった。
私はというと、海坊主さんに着させられた、海坊主さん風の服を着ていた。
上から被るだけの簡単なやつで、服というより着ぐるみだ。
じつはみんな着ぐるみでしたー!ってオチだったら、私は全員を殴る自信がある。全力で。
そうして私たちは、森へと足を踏み入れ、町を目指すことになった。