魔界と悪魔と僕と③
「作戦はシンプルだ」
男の人が話した内容は確かにシンプルだった。
悪魔たちにバレないように、あいつらと同じ速度で歩く。
僕たちはあいつらを直視できないから、俯き加減で、でも、決してぶつかったりしないように、確実に歩いていく。
元の世界に戻れた人が消えた所まで行けたら、見張りを武器で全員排除する。
武器は上着の胸ポケットに入れておく。
いざという時まで使わない。
男の人は、あいつらも死にたくないだろうから、武器を見せれば怯むだろうが、囲まれたら逃げられないし、そんな状況にはなりたくない、と。確かにその通りだ。
それと、決して声を出さないこと。
耳が発達したあいつらは、少しでも声を出せば確実に人間だと気付く。
そうなったら終わりだ。
そう言われて、血まみれになったあの学生の男の子の学ランを思い出して、また気分が悪くなった。
何より、僕があの悪魔どもに囲まれて見下ろされている場面を想像するだけで、足が震えてくる。
大丈夫。
きっとうまくいく。
そう思わないと、この震える足は動いてくれそうになかった。
大丈夫だ。
こんなのはゲームと一緒だ。
敵に見つからないように目的地まで進む。
見つかったら隠れるか、どうしようもない時だけ武器で速やかに処理する。
大丈夫。
前にそんなゲームをしたことある。
無限に弾が使えるバンダナも、周囲の風景に溶け込める迷彩もないけど、きっと大丈夫。
それにこれは2人プレイだ。
成功率はぐっと上がる。
あの男の人も、やっぱり1人じゃ不安だったんだ。
だから、こんな僕でも相棒にしようとしたんだ。
僕は、最初に学ランの男の子を見た時の安堵した気持ちを思い出した。
やっぱり、1人は不安だよね。
あの男の人に頼りっきりだったけど、あの人もきっと不安なんだ。
何とか助け合って、こんな怖い世界から、さっさと抜け出そう!
「準備はいいか?」
「………」
心の準備なんてできてない、けど、言わないと、僕はきっといつまでも動き出そうとしない。
「………はい」
そう思って、喉の奥から何とか返事を絞り出したんだ。